量子コンピューター性能向上につながる「18個の量子もつれ」という新記録が樹立される
By Matthias Weinberger
中国の科学者チームが、世界初となる「18個の光量子ビットのもつれ」の状態を作り出すことに成功しました。今後さらに研究が進むと量子コンピューターの性能向上につながる可能性を秘めるものですが、一方ではまだまだ多くの課題が残されていることも浮き彫りになっているようです。
Chinese Researchers Achieve Stunning Quantum-Entanglement Record - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/chinese-researchers-achieve-stunning-quantum-entanglement-record/
この新記録を打ち立てたのは、中国科学技術大学(USTC)の潘建偉教授らの研究チームです。同チームでは、6つの光子の偏向、ルート、軌道角運動量の3つの自由度を調節することで、世界初となる18個の光量子ビットのもつれに成功しました。潘教授らは2016年末に10個の光子ビットと10個の超伝導量子ビットのもつれを実現して当時の世界記録を更新しており、今回は自らの記録を更新する形となりました。
この功績は、「量子もつれ」の状態を利用する量子コンピューターの性能を向上するうえで重要なものとなる可能性があるのですが、そこにはまだまだ解決しなければならない課題が残されているとのこと。カリフォルニア大学バークレー校の量子物理学者で、今回の研究に関与していないシドニー・シュレプラー氏によると、今回の記録はあくまで「数を多くする」という点に特化していたために実現したものであり、量子コンピューターの実用に際しての意味はさほど強くないという見方を示しています。
シュレプラー氏によると、最大の問題は「時間」であるとのこと。今回、研究チームがもつれ状態を作り出すために要した時間は実に「数秒」であり、これは1秒間に数億回~数兆回もの処理が行われるコンピューターにとって「永遠」とも言える長さの時間といえます。そのため、実際に活用する段階ではまったくないと指摘されています。
また、USTCの研究者がこの功績を打ち当てたという事実があったとしても、それは別の研究所で同様の研究が活発化するものではないともシュレプラー氏は述べています。今回の功績の中で、光子は量子コンピューター間の通信など特定の用途に対して有用なものである一方、例えば超伝導回路など量子が他の状態にある時には役に立たないものであると指摘しています。
シュレプラー氏は今回の記録について「論文から得られる1つの問は、すべてのもつれ状態にある粒子が等しく相互作用するかどうか、または自由度が異なる複数の量子においてはその相互作用に違いが生じるのかどうか、という点にあります」と述べています。なお、研究チームは論文の中で「この種の実験的な手順は、これまで理論上でのみ証明されていた特定の量子計算を可能にすることになるだろう」と記しているとのことです。
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