南極地下で観測されたニュートリノが39億光年先のブラックホールから飛来したものと判明
by NASA Goddard Space Flight Center
ニュートリノとは、太陽などで起きる核融合反応や超新星爆発などから発生する素粒子です。そのニュートリノを観測するための観測所が南極のアムンゼン・スコット基地の地下には存在しているのですが、同観測所で2017年9月に観測されたニュートリノが、「39億光年先のブラックホールから飛来したもの」だったことが判明しました。
Neutrino emission from the direction of the blazar TXS 0506+056 prior to the IceCube-170922A alert | Science
http://science.sciencemag.org/content/early/2018/07/11/science.aat2890
The IceCube Neutrino Detector at the South Pole Hits Paydirt - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/tech-talk/aerospace/astrophysics/the-icecube-neutrino-detector-at-the-south-pole-hits-paydirt
ニュートリノは他の物質と反応しにくいため、非常に観測が難しい素粒子であることが知られており、大規模な観測施設でのみ検知することが可能です。ニュートリノを観測するために作られたアイスキューブ・ニュートリノ観測所では、面積が1平方kmを超える正六角形の範囲を持つ南極の氷に、圧力をかけた熱水ドリルで深さ2450mの穴を86個垂直に掘り、60個の光学センサーモジュールが搭載された細い棒を差し込んであります。光学モジュールは棒に対して17m間隔で搭載されており、氷の表面から地下1450m~2450mの範囲に全てのモジュールが配置されるように調整されているとのこと。
その後、穴の中の水が再び凍って元通りの氷になれば、巨大な氷と一体となった立体型の観測所ができあがります。光学モジュールは圧力に耐えられるように、バスケットボール大のホウケイ酸ガラスに封入されており、中にはデータを送信するための集積回路・電源・磁気シールドなどが内蔵されています。
ニュートリノが透明な氷の中の原子に衝突すると、ミュー粒子という電子よりも重い素粒子が放出されます。光は氷の中で真空中と比較して24%遅い速度で進むため、氷の中で放出されたミュー粒子は氷の中を進む光よりも速く移動するとのこと。局所的に光速を超えるスピードで粒子が移動すると、チェレンコフ光という青い光が生じます。アイスキューブ・ニュートリノ観測所の光学モジュールは、このチェレンコフ光を検出することができる施設となっています。
by Alan Light
アイスキューブ・ニュートリノ観測所では、ニュートリノによる反応を検知するとアラートを発し、世界中の科学者がニュートリノの発生源を探るように周知されています。もっとも、ニュートリノが原子と衝突することは非常にまれであり、研究者らが寿命を迎えるまでにほんのわずかなチャンスを逃さないようにと、アイスキューブ・ニュートリノ観測所が設置されたわけです。チェレンコフ光は氷中の気泡によって発散してしまうため、アイスキューブを構成する光学モジュールは圧力がかかり、氷から気泡が閉め出される地下に埋められているのです。
2010年に完成したアイスキューブ・ニュートリノ観測所は、物理的に閉ざされた環境に全ての装置が埋められているため、ハードウェア面でのアップデートは不可能です。その分、採取されたさまざまなデータを分析して実験に影響を与える誤差を測定し、過去の火山噴火や大気中のホコリによって生じた氷内のゴミを観測結果に考慮するなど、マイナーなアップデートを繰り返してきたとのこと。
アイスキューブ・ニュートリノ観測所は宇宙から飛来した、高エネルギーのニュートリノを観測する目的で設置されました。ところが、ミュー粒子は地球の大気中でも生成されるため、敏感なアイスキューブ・ニュートリノ観測所では、地球上で作られた低エネルギーのニュートリノによる反応も頻繁に検知してしまいます。科学者らは光学モジュールの周囲にある氷が持つ特性を分析し、低エネルギーの反応をフィルタリングするように調整することで、宇宙から飛来した高エネルギー反応でのみアラートが鳴るように調整が進められてきました。
by NASA's Marshall Space Flight Center
日本時間の2017年9月23日午前5時54分、「IceCube-170922A」という高エネルギーのニュートリノによる反応が検知され、世界中の科学者らにアラートが送信されました。IceCube-170922Aにもとづいた高エネルギー源の探知は、NASAが管理するスウィフト天文衛星によるガンマ線バースト観測によっても行われ、いくつかのブレーザーがエネルギーの発生源である可能性を発見しました。ブレーザーとは、巨大な楕円銀河の中心にある大質量ブラックホールがエネルギー源となり、明るく輝いている天体のことです。
その後の14日間にわたって、世界中の天文台によってエネルギー源の探知が行われました。やがて広島大学を中心とするグループにより、39億光年離れた場所にある、「TXS 0506+056」として知られるブレーザーの放出する可視光線が、過去の観測に比べて増光していることが確認されたそうです。その後、TXS 0506+056の増光が通常時を上回るガンマ線放出と連動していることが判明。IceCube-170922Aが観測されたタイミングとTXS 0506+056のガンマ線放出が活発になったタイミングが一致していることから、IceCube-170922Aで検出されたニュートリノは99.7%以上の確率でブレーザーTXS 0506+056によるものだと結論づけられました。
アイスキューブ・ニュートリノ観測所のチームは「今回の結果は素晴らしい発見です」と述べており、今回の発見を喜んでいます。しかし、アイスキューブ・ニュートリノ観測所で入手できるデータをさらに増やすことで、さらにニュートリノの観測精度を上げたいと研究チームは望んでいる模様。すでに設置されているアイスキューブ・ニュートリノ観測所の光学モジュールを、さらに広範囲に広げていきたいと研究チームは語りました。
by Penn State
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