「最高のピザの焼き方」を熱力学的に分析した論文が公開中


あらゆる料理法の根底には物理法則が眠っている……ということで、「ピザを焼く時に、伝統的なレンガ造りのピザ焼き窯と今時の電気オーブンでどのような違いが生まれるか」について熱力学的に分析した論文が論文投稿サイトarXivにアップロードされています。

The Physics of baking good Pizza
https://arxiv.org/abs/1806.08790

昔ながらのピザ焼き窯と今時の電気オーブンとの違いを分析する上で見逃せないのが熱の伝わり方です。例として、熱を出した子どもに母親がおでこをあてるシーンを考えてみます。

下図は子どもに母親がおでこをあてている時の熱の様子を表したグラフです。横軸は子どもと母親が触れ合っている面からの距離を表しており、真ん中の0の位置の縦線が触れ合っている境界面で、赤い左半分が子どものおでこ、青い右半分が母親のおでことなっています。縦軸は温度で、38℃の子どものおでこと、36℃の母親のおでこをくっつけた境界線部分は37℃(T0)になっています。おでこをくっつけて0.1秒後の温度分布を表す紫の線はおでこをくっつけた部分でほぼ垂直になっており、子どもと母親で体温が明確に違うことがはっきりと表されています。一方、60秒後を表す黄色い線はなだらかになっており、子どものおでこがだんだん冷やされ、反対に母親のおでこはだんだん温まっていることが表されています。


母親のおでこが鉄でできていると仮定するとグラフは以下のような感じに。今度はおでこをくっつけた点の温度が36.3℃に下がっています。これは鉄の熱伝導率が高く、効率的に子どものおでこから熱を引き出すことができるためです。


対象物1単位を1℃上昇させるのに必要な熱量のことを熱容量と呼びます。SI単位系ではJ/kg・Kと表記されます。熱容量は以下の式で表されます。cが熱容量で、Qは熱量、Mは対象物の質量、Tは温度を表します。Δは変化量を表す記号で、ΔQ/ΔTでTを1単位変化させるためのQの量という意味になります。

c=ΔQ/MΔT


また、以下の式は熱のやりとりを表すもの。Sは面積、tは時間を表しています。

q=ΔQ/SΔt


2つのものの間で熱がやり取りされるとき、そのやり取りの単位時間・単位面積あたりの熱量のことを熱流束(q)と呼び、W/㎡という単位で表します。なお、Mの計算に出てくるρは質量密度を表しています。


また、熱伝導による熱の移動のしやすさは熱伝導率と呼ばれ、W/mKという単位で表されます。今回はこの熱伝導率をκという文字で表します。こうした熱伝導の式から温度がT1の物体からT2の物体へ伝わる時の境界の温度(T0)が以下のように計算できます。

T0 = T1+ν21T2 / 1+ν21


上の式に出てくるν21は以下の式で表されるもので、「1」の物質から「2」の物質へ温度が伝わる際の境界の温度を求めるのに使用します。ここで、χは温度拡散率を表します。

ν21 = κ2 sqrt(χ1) / κ1 sqrt(χ2) = sqrt(κ2c2ρ2 / κ1c1ρ1)


下の表はピザ生地と鉄、レンガ、水それぞれの熱容量、熱伝導率、質量密度、温度拡散率、ν21を並べたもの。ν21については、ピザ生地・鉄・レンガは「2」がピザ生地で、水は「1」が鉄として計算されています。


この表をもとに、ピザを焼くときの温度について考えてみます。20℃のピザ生地を330℃のレンガ窯に入れると、レンガ窯とピザ生地の接点の温度は約208℃になります。また、ピザの厚さを5mmとすると入れてから60秒後には表面が100℃を超えます。


表面がレンガではなく鉄になっている電気オーブンで同じ計算をしてみると、電気オーブンの温度が330℃だとピザとの接点は約300℃になってしまいます。これでは温度が高すぎるので、ピザと電気オーブンとの接点を210℃付近にするには電気オーブンを何度にするべきかを逆算すると、約230℃という結果が出るとのこと。ただし、230℃にすれば電気オーブンでもレンガ窯と同様の調理を実現できるようになるというわけではなく、今度は熱放射という要素を考える必要があります。熱放射は下の写真でいう「Radiation」と示された部分で、窯内の1平方センチメートルあたりに届く熱量というように表します。


結論だけ述べると、レンガ窯ではピザ1平方センチメートルあたりに毎秒0.75Jの熱量が熱放射として届けられます。一方で、電気オーブンでは熱放射でピザ1平方センチメートルあたりに毎秒0.36Jの熱量しか届けられません。この差をうまくピザを焼く時間に反映させる必要があります。

また、ピザに含まれている水分にも注意が必要です。例えばトマトやモッツァレラチーズがトッピングされているマルゲリータピザの場合、ピザは生地240gとトッピング90gで構成されています。生地の3分の1とトッピングの80%は水分となっていて、全体のうち約150gが水分です。ピザが焼かれている間に、この水分のうち30gほどが熱を吸収して蒸発します。

こうした要素を考慮しつつ計算を行うと、ピザの最適な焼き時間は330℃のレンガ窯で125秒、230℃の電気オーブンで170秒となります。レンガ窯の温度を390℃まで上昇させてピザとレンガ窯の境界の温度を240℃にすると、表面のトッピングがやや火が通りきっていない状態になるものの、焼き時間は82秒となりピザの生産量を高めてくれます。熟練のピザ焼き職人はトッピングの水分量なども考慮しつつ、ピザピールを使用して上手く生地を焦がさず表面だけを温めるというテクニックを使用するようです。


著者たちは論文の最後で、「多くの人は最高のピザと次点のピザの区別がつかない」としつつも「伝統的なレンガ窯が完璧なピザを焼くための理想的な方法だ」と述べています。

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