「チャットボット」ブームは終わってしまったのか
Microsoftの女子高生AI「りんな」に代表される、話しかけることで人間のように返事をしてくれたりさまざまな作業を行ってくれたりするチャットボットは、2016年にFacebookやGoogle、Microsoft、LINEといった大手が開発プラットフォームを提供するなど「次の成長市場」として注目されていました。2年たった2018年においてチャットボットの性能は着実に進歩していますが、チャットボットが「対話型UI」としてGUIを脅かすのではないかと思わせた一時の勢いは感じられません。
Chatbots were the next big thing: what happened?
https://blog.growthbot.org/chatbots-were-the-next-big-thing-what-happened
下図は新技術への期待度が時間と共にどう変化するのかを図示したハイプ・サイクルと呼ばれるもの。ハイプ・サイクルにおいて新技術は登場後、過剰な期待を集めてしまい幻滅されてしまうことが多いとされています。現在チャットボットはこの幻滅期にあるととらえることができます。
ユーザーがアプリとやりとりする方法には、チャットボット以外にもさまざまなものがあります。歴史を振り返ってみると、コンピューターが登場した当初ユーザーは特定のコマンドを打ち込むことでマシンを動かしていました。これをCUI(キャラクタユーザインタフェース)と呼びます。次に登場したのがグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)で、これは画面に表示されているボタンをマウスでポインティングしてクリックするという直感的な方法でコンピューターに指令を与えることができるというもの。スマートフォンの登場でマウスが指に変わったりはしたものの、現在に至るまで幅広く使用されている入力方法です。
1960年代にGUIが登場して以来、研究者たちは私達が普段話しているような自然言語で入力を行う方法を探ってきました。その1つがチャットボットです。新たな製品はサービスが広まるには「より良い」「より安い」「より早い」のうちどれか2つが必要だといわれていて、チャットボットは「安い」「早い」の点で劣っている上に、「より良い」かどうかにも疑問が残り、実際、広まりは限定的なものとなっています。
例えば下図はチャットボットとの会話の例です。「ショッピングカートに入れるものは?」というボットの問いかけにユーザーが「リンゴ4個」「あ、バナナ4本の間違い」と返答していますが、ボットはうまく認識できずに「リンゴ4個とバナナ4本」をカートに入れてしまいました。
GUIは何十年もかけて洗練されてきているので、真っ向から戦いを挑んでも勝算はあまりなさそうです。しかし、「置き換える」かわりに「拡張する」とうまくいく可能性があります。家計簿アプリの「Penny」はGUIとチャットボットを組み合わせたハイブリッドアプローチで成功しています。
チャットボットは決定木ロジックを使用して特定のキーワードに反応するように構築されることが多いですが、このロジックは構築が簡単である一方で、ボットの能力が構築した人の「キーワード予測力」に強く制限されてしまうという問題があります。例えば下の画像は「上のオプションから選んで下さい」というボットのメッセージに対してユーザーが「オプションを見せて」とお願いしているシーンですが、オプションにあるワード以外の言葉がキーワードに登録されていないためにボットがユーザーの言葉を認識できていません。
人間は非常に視覚に依存した生き物なので、視覚的な情報の方が処理しやすいものです。子どもたちがタッチスクリーンを愛用することは実に自然なことです。対話型UIはより多くの認知能力を必要とし、本質的には単純な選択肢をより複雑なものに交換しているだけのことが多いです。
今ではGoogle Homeで音楽を演奏したり、メッセンジャーからピザを注文できたりしますが、自然な会話を行うにはまだかなりの技術を必要とします。コンピューターはデータを検索したり数字を処理したりするのは得意ですが、人間の感情を理解するのは得意ではありません。共感や感情が大切になる営業やカスタマーサポートをこなすには人間のサポートが必要です。
「私たちはいつも、今後2年で起こる変化を過大評価し、今後10年で起こる変化を過小評価してしまう。無為に過ごしてはいけないんだ」というビル・ゲイツの言葉があるように、2018年現在は幻滅しているとしても、チャットボットの日々の進化を我々は過小評価しないようにしたいものです。
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