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コンピューターが人間の創造性を爆発させるためには何が必要なのか?


AIをはじめとするコンピューター技術はここ数十年で大きく進化し、時には「高度に発達したAIは脅威になる」とも言われるほど。しかし、AIは単に「人間のアイデアを人間の代わりに実行するもの」にすぎず、コンピューターとは本来、「人間をよりクリエイティブにするもの」であるべきという指摘もあります。人間をクリエイティブにするコンピューターの使い方とはどのようなものなのか、デザイナーのモリー・ミルキ氏が解説しています。

Computers and Creativity
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1950年代の初期の一般的なコンピューターは、紙とパンチカードで動作する純粋な論理回路マシンとして始まりました。基本的な数学演算によって動作するコンピューターは当時としては革命的であり、今日のコンピューターの基となっています。

その後、1980年代後半に、パンチカードに代わる新しいシステム「表計算ソフト」が登場します。表計算ソフトの登場により、新しい方法で演算を利用できるようになります。そして、この頃からコンピューター用アプリケーションを使った創造物が登場します。例えば、最初期のデジタルアートである以下の「オシロン40」は、電気的な振動を捉えてスクリーンに表示するオシロスコープを使って表示した波形を、長時間の露光で写真撮影したものです。


また1984年グラフィックソフトウェアの「スーパーペイント」が登場し、クリエイティブツールの先駆者として活躍し始めました。このように、テキストエディタや表計算ソフト、CADソフトといった「人間の創造的思考を育むクリエイティブツール」が次々に生み出されていきました。

多くのクリエイティブツールは、コンピューターの発明家で思想家でもあるダグラス・エンゲルバート氏に影響されて作られたとミルキ氏は考えています。エンゲルバート氏は1962年に「人類の知性の増強:概念的フレームワーク」と題した先駆的な論文を発表し、人間の想像力に影響を与えるクリエイティブツールのビジョンを示しました。エンゲルバート氏の目標はクリエイティブツールを使用して個人の知性を強化し、集合的な知性をも高めることにありました。

by Alex Handy

エンゲルバート氏に影響され、アイバン・サザランド氏がGUIの先駆けとなるプログラム「スケッチパッド」を開発。他にもJ・C・R・リックライダー氏やアラン・ケイ氏が、コンピューターの可能性を広げる新しい発明を行っています。このようなクリエイティブツールは人間のコンピューターに対する期待を高めましたが、同時にいくつかの問題点を抱えていました。

その問題の1つは、テクノロジー業界のリソースが、クリエイティブツールではなく、人工知能を主流とするデジタル製品の開発に注力されているということ。大企業はAIに投資していますが、このビジネス主導の技術開発は人間自身の創造性に投資することはできません。AI自体は本質的に創造的ではなく、ただ人間のアイデアを形にする実現者に過ぎません。人間の創造性を広げるためには、コンピューターからAIを除去し、コンピューターが人間の創造性を広げるようなソフトウェアの構築を目指す必要があるとミルキ氏は指摘します。

また、開発コミュニティはクリエイティブツールの機能を標準化し、狭いコミュニティでイノベーションを目指すよりも、多数の人間と共有し機能を構築する相互運用性が重視されつつあります。GitHubなどのオープンソースのソフトウェア開発コミュニティが台頭し、個人同士のイノベーションの向上に貢献しています。しかし、これらの相互運用的な開発手法には、「改善を遅らせること」「オープンスタンダードで一貫性のない機能が採用されること」「健全な企業間の競争によるイノベーションが減少すること」がリスクとしてあるともミルキ氏は指摘しています。


一方で、クリエイティブツールの標準化は人間の創造性にとってより良い環境の生成につながるとも考えられています。エンゲルバート氏が提唱した「コンピューターには人間の思考を変え、拡大する力がある」という言葉を現実のものとするためには、ソフトウェアはユーザー各自の思考プロセスに適合する必要があるとミルキ氏は述べています。クリエイティブツールをユーザーの思考プロセスに適応させることはコンピューターで人間の創造性を高めるための最初のステップであり、柔軟で拡張性の高い成形性を持つソフトウェアは、そのソフトウェアに対するユーザーの愛着を生むため、ビジネスの面でも有利だとミルキ氏は指摘します。

クリエイティブツールはエンジニアリングツールと違い、何かを作成するたびにコンテンツを一から構成する必要があります。クリエイティブツールにはいくつかの事前に定義されたテキスト、記号などのオプションが用意されており、ユーザーはそれらを使用して創造性を発揮します。これらのオプションがユーザーにとって効率的な使い心地を提供するものになるために、ユーザーインタフェース設計の段階から複雑さを排除し、簡素で誰にとっても使いやすいものにするべきだとミルキ氏は述べます。これに対し、「最小限に抑えられたオプションはオプション同士の組み合わせから生まれる創造性を阻害する」との意見もありますが、ミルキ氏は「ツールの使用体験を簡素化することで、これまでクリエイティブツールを使ったことがない人でも使いやすいものとなる」と述べています。

コンピューターはその誕生以来、人間がコンピューターに対応しなければいけないという頑固なツールでした。しかし、新たに誕生しつつある相互運用可能な、成形性があり、コミュニティ主導のデジタルクリエイティブツールは、コンピューターを人間の創造性の共同作成者として計り知れない可能性を秘めており、多数のユーザーに技術革新を広めるものになっているとミルキ氏は結論付けています。

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in Posted by log1p_kr

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