肺がん患者に「免疫療法」を従来の化学療法と併用することで生存率を著しく高めることに成功
がんの中でも罹患率の高い「肺がん」の治療に関して、従来の化学療法に加えて「免疫療法」を併用することで劇的な成果が現れています。研究者は肺がんの治療には一刻も早く免疫療法を導入することを推奨しています。
Pembrolizumab plus Chemotherapy in Metastatic Non–Small-Cell Lung Cancer | NEJM
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1801005
Lung Cancer Patients Live Longer With Immune Therapy - The New York Times
https://www.nytimes.com/2018/04/16/health/lung-cancer-immunotherapy.html
がんの治療には「外科手術」のほかにも「放射線治療」や抗がん剤を使う「化学療法」が用いられています。これらの手法に加えて近年、免疫機能を活用してがん細胞に対抗する「免疫療法」が注目されています。
そんな中で、ニューヨーク州立大学Langone Healthのリーナ・ガンディ博士らの研究グループが、肺がん患者に対して化学療法に併用する形で免疫療法を行うことで、生存率を飛躍的に高めることに成功したと科学誌New England Journal of Medicineで発表しました。
研究では世界16か国の医療センターで治療する34歳から84歳までの616人の進行性肺がん患者を対象に、化学療法に免疫療法を加える治療を行いました。被験者のうち約3分の2の患者には化学療法に加えて免疫療法が施され、残りの3分の1の患者には化学療法とプラセボ(偽薬)が与えられました。
免疫療法としてはメルク社製のpembrolizumabやKeytrudaと呼ばれるチェックポイント阻害薬が採用されました。がん細胞は免疫からの攻撃を避けるために免疫機能を抑制することが知られていますが、チェックポイント阻害薬は、がん細胞によって細胞障害性T細胞(CLT)を抑制するチェックポイントの働きを邪魔することで、CLTにがん細胞を攻撃させるための薬です。チェックポイント阻害薬によって、免疫が持つ本来の攻撃能力をがん細胞に対して発揮させようというのが実験で採用された免疫療法です。
10カ月半に及ぶ追跡調査では、免疫療法を追加した被験者の死亡率が半減することが確認されました。免疫療法を併用しない被験者の生存期間の中央値は11.3カ月と判明しましたが、免疫療法を併用した被験者の生存率は12カ月経過時点で69.2%と、化学療法だけを使った患者群よりもはるかに高い生存率が確認され、化学療法に加えて免疫療法を併用することで得られる高い効果が確認されています。
免疫療法を併用することによって目覚ましい成果を得たガンディ博士は、「初期の分析で分かった絶大な効果に驚いています。私たちが何年もの間行ってきたどんな治療法よりも良い結果が得られており、肺がん治療のやり方をがらりと変える可能性を示しているように見えます」と述べています。
化学療法と免疫療法を併用したことでがん細胞を殺せた理由について、研究には参加していないイエールがんセンターのロイ・ハーベスト博士は、「がん細胞は隠れたタンパク質の袋のようなもので、もしも中身が曝されれば免疫システムは攻撃できます。化学療法によってがん細胞のいくつかが殺されることで『袋が開いた』のかもしれません」と述べ、化学療法によって免疫システムががん細胞を攻撃するのを妨げていたある免疫細胞が殺された可能性を指摘しています。
25年間肺がん治療を研究してきたハーベスト博士は今回の免疫療法を併用する手法はこれまでにないパラダイムシフトを起こすと考えており、「化学療法には限界があります。長期の生存を望むなら、できるだけ早く免疫療法を施すべきです」と述べています。ただし、今回の研究では、免疫療法を併用することで腎臓機能に悪影響を与えたことが確認されるなど、免疫療法による副作用の存在も知られており、副作用の少ないアプローチの探求など免疫療法活用にはさらある研究が求められています。
・おまけ
小野薬品が、チェックポイント阻害薬の「オプジーボ」と「ヤーボイ」を併用することで、肺がん治療において、既存の化学療法よりも死亡リスクや病気の進行を抑える効果が確認されたと発表しました。
オプジーボ併用に効果 小野薬品、肺がん治療に弾み :日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29466570X10C18A4EAF000/
ニューヨーク州立大学の発表と合わせて、肺がん治療に対する免疫療法の効果がますます注目を集めそうです。
・関連記事
ウイルスを使ってガン細胞を破壊する治療法に初めて政府の認可が下りる - GIGAZINE
「がんワクチン」によって全身の腫瘍が消滅することがマウスによる実験で明らかに - GIGAZINE
年を取るにつれガンになる確率が上がるのは免疫系の機能低下が起こるからだとする研究結果 - GIGAZINE
末期がんにも大きな効果のある画期的治療法が登場、しかし副作用も強烈 - GIGAZINE
血液中からのHIVウイルス完全除去に医療研究チームが成功 - GIGAZINE
ジカウイルスで最悪の脳腫瘍の癌細胞だけを殺す癌ウイルス療法が開発される - GIGAZINE
ガン化した白血病の細胞が無害な免疫細胞に変化することが偶然発見される - GIGAZINE
・関連コンテンツ