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中国が「AIドリーム」の実現に向けて推し進めるAI戦略について分析した詳細レポートが公開される

by Lei Han

AIは今やさまざまな分野への応用が見込まれており、非常に熱い分野となっています。急速に経済発展を遂げて国際社会への影響力を増している中国においても、AIは非常に大きな力を注がれています。そんな中、「中国がAIにどれほど注力しているのか」について詳細にまとめたレポートが公表されています。

Deciphering_Chinas_AI-Dream.pdf
(PDFファイル)https://www.fhi.ox.ac.uk/wp-content/uploads/Deciphering_Chinas_AI-Dream.pdf

Deciphering China's AI Dream - Future of Humanity Institute
https://www.fhi.ox.ac.uk/deciphering-chinas-ai-dream/

レポートは中国のAI研究者であるジェフリー・ディン氏によって発表されたもので、ディン氏はこのレポートを完成させるのに6カ月以上を要したとのこと。内容も非常に読み応えのあるものとなっています。

◆中国におけるAI産業の現在と中国以外の国におけるAI戦略
2017年10月に開催された中国共産党の党大会において、最高指導者である習近平氏は「中国を科学技術大国に発展させる」という方針を表明しており、その過程においてAI技術の進歩は欠かせないものと考えられています。2017年7月には中華人民共和国国務院が「新世代AI開発計画」を発表し、中国がAI技術の発展に大きく注力することを伝えており、2030年には中国国内のAI中核企業の総生産高を約1508億ドル(約16兆円)、AI関連企業の総生産高を約1.5兆ドル(約166兆円)にまで引き上げることを計画しています。

2016年に発表された「国家戦略と新興産業発展のための第13次5カ年計画」において、中国政府が注力する69の主要産業が挙げられていますが、AI開発は全体の6位にランクイン。2016年時点では中国のAI関連企業の総生産高はおよそ150億ドル(約1.6兆円)でしたが、これを2020年までに10倍の1500億ドル(約16兆円)に成長させる構想を打ち出しています。中華人民共和国国家発展改革委員会と産業省・情報技術省・財務省が共同して「ロボット産業発展計画」を2016年から2020年に発表し、この計画で注力される分野にAIも含まれています。中国は「現時点で中国のAI技術は他国に遅れをとっている」としており、2020年にAI関連企業の総生産高1500億ドル(約16兆円)を達成して他国に並び、2025年には総生産高7500億ドル(約80兆円)に規模を拡大して世界のトップクラスになることが目標とのこと。そして、2030年には総生産高1.5兆ドル(約166兆円)を達成して、「世界のAI産業の革新センターとなる」ことを目指しています。


中国のAI専門家や意思決定者は、他国のAI開発状況にも目を向けています。多くのゲーム会社やアプリ開発企業を子会社として持つ巨大インターネット関連企業のテンセント中華人民共和国工業情報化部が共同で発表した見解では、「アメリカは現時点で間違いなく世界のAI産業の先駆者であり、先進的な政策を導入している」「EUは2013年に人間の脳を作り出す目標で『ヒューマン・ブレイン・プロジェクト』を発表するなど、脳研究プロジェクトでは世界で最も重要な部分を担っている」「日本は過去30年にわたり『ロボット大国』として存在感を発揮しており、世界で最も多いロボットユーザー数、ロボット数を保持している」「イギリスはAIシステムにおける倫理基準の世界的リーダーであり、AIに関する規制に大きなリーダーシップを持つ可能性がある」といった見解を発表。

中国は現時点で「自分たちはAI後進国である」という認識を持っており、「まずはAIシステムのフォロワーとして世界に追いつく場所からスタートすることになる」とディン氏は述べています。中国のAI国家戦略はアメリカやカナダなど、世界に先んじてAIに関する国家戦略を打ち出した国々に追随する形を現時点でも取っているとのこと。

by Sarah Horrigan

◆AI産業に対する中国のアプローチ
中国は政府主導による国内企業への支援が非常に活発であり、「政府主導基金(GGF)」による国内のAI関連スタートアップ企業に対する支援額は、すでに10億ドル(約1100億円)を超えています。政府の支援を受けたAI関連企業の数はアメリカの51%を上回る69%にのぼり、設立から支援金交付までの期間も「平均約10カ月」と、アメリカの「平均約15カ月」よりも5カ月も早く交付されています。中国はこのように国内AI企業を迅速に成長させ、同時に党内に組み込むことも可能にしているのです。

また、AIに必要不可欠なハードウェア関連でも、中国は長期的に投資を行ってきました。中国企業は国際間の半導体企業買収を積極的に行っており、2017年9月には中国企業がドイツの半導体メーカー買収に動きましたが、アメリカが「安全保障上の理由から」買収にストップをかけるなど、中国企業は厳しい監視下に置かれています。しかし、中国は少なくともスーパーコンピューターの分野ではアメリカを上回る167台のスーパーコンピューターを保持するなど、世界のトップに並ぶ発展を見せています。スーパーコンピューターがAI分野に直接寄与するかどうかは現時点では不明瞭ですが、ディン氏によれば「AIのアプリケーションをスーパーコンピューターが運用する可能性もある」とのこと。

中華人民共和国国務院のAI計画は、優秀なAI人材を集めることにも注力しています。世界各国の優秀な人材を中国に呼び寄せるために2007年に立ち上げられた「千の才能計画」では、スタンフォード大学で教授を務めたチューリング賞受賞者のアンドリュー・チーチー・ヤオ氏がアメリカ市民権を放棄して中国に帰化したり、量子コンピューター研究者のティム・バーンズ氏を上海に呼び寄せたり、IBMのスーパーコンピューターIBM Watsomの研究スタッフであったリャン・ジ・チャン氏を呼び寄せたりといった成果を上げています。

「千の才能計画」では政府が主導して優秀な研究者に報奨金を出していましたが、中国では民間企業による人材誘致も活発です。多くの中国企業が海外企業のエンジニアに対するヘッドハンティングに積極的であり、独自に優秀なエンジニアを採用しています。これは政府によるトップダウンの政策ではなく、個々の企業が自分たちの利益の追求に貪欲な結果であるとディン氏は述べており、中国では政府主導と民間主導、2つのアプローチで優秀な人材を集めているそうです。

by Khanh Nguyen

◆中国におけるAI戦略の現状
ディン氏はレポートの中で、初期費用が高く製作プロセスに時間のかかるプロセッサやチップが、中国のAI産業におけるボトルネックになっていると指摘しています。2015年における中国の半導体生産の世界シェアは4%であり、アメリカの50%には遠く及びません。AIアルゴリズムのトレーニングに最適なGPUに関して、中国は特に他国の国際企業に依存しているとのこと。アメリカのチップメーカートップ10社のうち、4社がGPUの製造を専門としている一方、中国のチップメーカートップ10社には1社もGPUの製造を専門にしている会社はありません。

一方で中国が得意とするのは、機械学習に必要なデータ量が豊富にあるという点です。EUやアメリカ、日本などに比べて中国では相対的にプライバシーの規制が緩いため、中国の技術関連企業は膨大なデータを収集し、政府を通して研究に利用することが可能。中国のAI企業はこれらの膨大なデータを利用して機械学習を行うことができますが、欠点としては中国のインターネットが閉鎖的であることで、国内プラットフォームにデータが依存していることは、教材となるデータに多少の偏りをもたらす可能性があります。

AIのアルゴリズム開発においても、「中国は依然として革新的な先進国に追いついていない」という分析をディン氏はしています。中国の研究者たちは世界最先端のアルゴリズムを素早く複製することは可能ですが、アルゴリズムの基礎研究においてアメリカやイギリスに遅れをとっており、自らが革新的なアルゴリズムを開発する能力は欠けているとのこと。

by jayneandd

◆AIは中国で今後どのように発展していくのか
ディン氏は最後に、中国のAI開発における指針を分析しています。中国がAI産業で世界の中心になることを目標とする以上、AI規制に対するアプローチを取ることは必要不可欠です。中華人民共和国国務院は2025年までにAIの倫理的規範やセキュリティ管理に関する法律や規制の制定を行い、2030年にはより包括的な規制と倫理的規範政策を打ち出すとしていますが、現状ではこれ以上の細部は考えられていない模様。しかし、2017年11月には中国情報通信研究院がAIの法律に関するセミナーを開催し、最高人民裁判所の代表やテンセントの主任研究員、清華大学の法学部長などが参加してAIの倫理規制について話し合ったとのこと。今後はAIの倫理規制や法律について、積極的に検討していく姿勢を打ち出しています。

中国は軍事分野でAIを活用することにより、国家の安全保障に関して戦略的優位性を保てるとして、中国人民解放軍の無人車両にAIを採用する方針を取っています。今のところ、AIの軍事転用に関する中国の学術論文は抽象的な内容が多いそうですが、中国はAIを応用した兵器を作り出し、西太平洋における米軍の影響力に対抗しようともくろんでいるとのこと。

もちろんAIがもたらす経済的な恩恵も、中国にとっては非常に大きな魅力として映っています。AI技術の発展による中国のGDPの上昇は26%が見込まれており、マッキンゼーグローバル研究所もこの見解を支持しています。マッキンゼーグローバル研究所によれば、中国において仕事の51%はAIによる自動化が可能で、AIシステムの国家的統合によって生産性のレベルを大幅に改善することができるそうです。しかし、AIによる自動化が進んだ結果、仕事を失う危険性が高いのは最も所得の低い低技能労働者たちです。ディン氏はAI産業の発展に伴い、中国政府は社会全体に対するケアを充実させる必要があると述べています。

by Times Asi

中国はすでに世界最大の顔認識データベースを構築して、地方での監視システムを強化しているなど、AI技術と社会統治システムの親和性が高いという点は注目に値します。しかし、AI技術の発展に伴い国際間の緊張が高まる可能性もあり、「AI技術の平和的利用や倫理規範の制定のためにも、澄んだ目で中国のAIドリームを評価する必要がある」とディン氏はまとめています。

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in メモ,   ソフトウェア, Posted by log1h_ik

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