なぜ見晴らしのよい交差点なのに交通事故が多発してしまうのか?

by Oscar Nilsson

政府発行の道路の交通に関する統計によると、自転車乗用中の事故による死亡者の数は2017年11月が436人で、前年比で2.7%減少しています。自転車乗用中の死亡事故件数は年々減少しているものの、毎年一定数の事故が発生しており、特に見渡しの悪い複雑な交差点やスピードの出やすい大きなカーブなどでは、頻繁に事故が発生する場所であることを知らせる看板などが立てられていたりもします。このような交差点は日本だけでなく世界中に存在するもので、イギリスにある「とある交通事故が多発する交差点」について、singletrackworld.comが考察を投稿しており多くのサイクリストの目に留まっています。

» Updated: Collision Course: Why This Type Of Road Junction Will Keep Killing Cyclists
http://singletrackworld.com/2018/01/collision-course-why-this-type-of-road-junction-will-keep-killing-cyclists/

イングランドのサウサンプトン近郊にあるイプレイ交差点は、南北に走るボーリュー・ロードと東西に走るディブデン・ボトムという2つの道路が交差する場所にあり、数年にわたって何度も同じような交通事故が発生しています。イプレイ交差点は南北を走るボーリュー・ロードが優先される交差点で、2つの道路は69度で交差しています。なお、平地にあり、周囲に建物などもないため視界もよいためとても交通事故が多発しそうな場所には見えません。


しかし、2011年の8月に当時15歳だった少年がボーリュー・ロード沿いを自転車で走っていたところ、左手からやってきた自動車の運転手が自転車を見落としていたため、一時停止することなく交差点に侵入し、少年をはねて鎖骨を骨折するけがを負わせてしまいます。また、2012年の5月にも同様の交通事故が同じ交差点で発生。事故にあったのはMark Brummellさんで、ボーリュー・ロード沿いを自転車で走っていたところ、Stephen Chardさんが運転する自動車が自転車を見落として交差点に侵入し、Brummellさんをはねてしまいます。この事故によりBrummellさんは死亡しています。さらに、同じような交通事故が2016年12月にも同様の交差点・同じシチュエーションで発生しており、自動車を運転していたViral Parekhさんは被害者のKieran Dixさんをはね、Dixさんは死亡しています。なお、Chardさんは自身の罪を認めたものの、Parekhさんは37mph(時速約60km)で交差点に侵入したにもかかわらず、重大な罪には問われませんでした。

ここで疑問となるのが、「なぜ同じ交差点で同じような交通事故が連続して発生し続けているのか?」ということ。実際のイプレイ交差点をGoogleマップのストリートビューで確認するとこんな感じ。道路から自動車目線で交差点を確認しても、やはり見渡しがよく、交通事故が多発しそうには見えません。


なぜ見通しの良いイプレイ交差点で事故が多発するのかの答えとして最も可能性があるものは、「一定航路角減少範囲と呼ばれる現象の影響である」というもの。この現象は、元々は船舶などで起きることが多く、ある一点に向かって直線的に安定した速度で2つの船舶が動くことで、2つの船舶が交差する場所で衝突してしまうというもの。一般的には海上と航空において求められる知識で、長い距離を一定の方向へ一定のスピードで向かう船舶や航空機において起こるものであり、速度が大きく変化しがちな自動車などではほとんど生じない現象です。

船舶や航空機の操縦士の場合、進行方向を変えて回避行動を取るように教えられているのですが、自動車は道路上を走るため進行方向を変更することはできません。また、自動車特有の問題点も存在します。

そして、自動車特有の問題として「フロントピラー」によって生じる死角が存在します。以下の図は自動車の運転手の死角を示すもので、フロントピラーの向こう側に広がる景色は運転手には見えなくなってしまうことをわかりやすく示しています。


この死角がどのくらいの範囲を隠してしまうのかをイプレイ交差点の写真上で示すとこうなります。イプレイ交差点から約100メートル東のディブデン・ボトムを走っている場合、紫色に塗られた範囲が運転者の死角となり、約12メートル分もボーリュー・ロードが見えなくなってしまいます。「12メートルあれば6台の自転車を見逃してしまう可能性がある」とsingletrackworld.com。


イプレイ交差点に向かって自動車が移動していくと、死角は以下のように移動していくこととなります。事故を起こしたParekhさんが時速60kmで交差点に侵入したことを考えると、100メートルを約6秒で移動できるので、ボーリュー・ロードを走る自転車がフロントピラーの死角に隠れたまま交差点で突如出現するということも十分に考えられます。


自動車が交差点に近づくにつれて死角は小さくなっていきますが、交差点に侵入する1秒前の地点の死角を示すと以下のようになり、ボーリュー・ロード上には水色の線で引いただけ死角が残ります。これはちょうど自転車のサイズと同じくらいだそうです。


それではボーリュー・ロードを走る自転車がどのくらいの速度で走っていると自動車の死角に隠れ続けることになるのかというと、速度比が3対1程度になっていると自転車が死角に隠れ続けるとのこと。ディブデン・ボトムを西へ時速約60kmで走っている自動車の死角に入り続けるには、ボーリュー・ロードを南へ約13.5mph(時速約22km)で走る必要があるのですが、この速度は自転車にとっては十分ありえる走行速度です。問題は、「時速60kmで自動車が走ると時速22kmで走る自転車が死角に隠れ続ける」という点ではなく、ディブデン・ボトムを走る自動車の出す速度の範囲ならば、どの程度の速度で走っていても自転車が死角に隠れ続ける可能性があるという点です。

さらに、イプレイ交差点の交差角度にも問題があるとsingletrackworld.comは指摘しています。イプレイ交差点では3点の「角度」を考慮すべきとのことで、そのひとつ目が「交差点における交差角度」で、イプレイ交差点においては69度となっています。2つ目は運転手の走行線からフロントピラーまでの角度で、これは車両や運転手の体格にもよりますが、おおむね17度ほどの角度になるそうです。そして3つ目が自転車乗り側の走行線から衝突する(可能性のある)自動車までの角度で、イプロス交差点においては94度になります。

この数字を見てわかるように、自転車乗りにとって交差点に侵入してくる自動車はまさに後ろから迫ってくる自動車のようなものであり、気付くことが難しくなっています。また、運転手側からしても衝突の1秒前まで自転車を視認できない可能性があるため、偶然の産物ではあるものの、イプレイ交差点は自動車と自転車が交通事故を生み出しやすい完璧な角度を生み出してしまったというわけです。

by Jake Blucker

それではこの交差点では交通事故が避けられないのかといえばそうではありません。まず第一に自動車の走行速度を大幅に減速すれば、右方向から一定速度で近づいてくる車両は死角から視界に移動します。また、自動車の運転中に頭部を動かせば、死角にある道路を確認することも可能です。これらの単純な方法で簡単にイプレイ交差点での交通事故を防ぐことができた可能性があります。

しかし、より簡単に交通事故を減らす方法もあります。その解決方法は地元住民がデイビッド・ハリソン議員に提出したもので、イプレイ交差点を十字路から2つのT字路に作り替えるというもの。これにより、東西を走る自動車は交差点にさしかかると必ず減速しなければいけなくなるため、死角から自転車が飛び出してくる可能性が高くなるというわけ。


なお、ハリソン議員はこのアイデアを責任機関に提出していますが、イプレイ交差点のレイアウトが変更されることはなく、提出された2年後にDixさんが交差点ではねられて死亡しています。

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in 乗り物, Posted by logu_ii