アート

名作絵画の複製を大量生産する中国の巨大コピーアート産業「大芬村」の過去・現在・未来


「世界の工場」である中国は、衣類から電化製品に至るまで、多種多様な工業製品の製造を担っています。そんな中国は芸術作品である絵画を「画工」と呼ばれる専門職があたかも工業製品のように大量生産して世界中に提供している世界最大の贋作製造エリア「大芬村」を生み出しました。その大芬村も、インターネット時代の到来により、新たなアートが生まれる現場へと変化しているようです。

The Secret Lives of China’s Art Factory Workers – Instapainting Blog
https://www.instapainting.com/blog/the-secret-lives-of-china-art-factory-workers/

中国の電脳都市「深圳(深セン)」は経済発展とともに近年、地価が上昇し続けています。その深セン南部の郊外にある大芬村と名付けられた地域は、かつて油絵の贋作(複製画)が大規模に製造された世界有数のコピータウンでした。


香港で複製画を作成していたHuang Jiang(黄江)氏が、地価高騰から国境を越えた隣町の大芬に拠点を移したことが大芬村の始まりと言われています。1980年代後半から香港で成長した絵画マーケットで、黄氏は世界中の顧客に対して大量の複製画をさばいていたとのこと。


黄氏の作った複製画のアトリエは、一般的な画家のアトリエとはまったく異なる「工場」のようなシステムを採用していました。生産時間を短縮するために考案された工場は、自動車の製造ラインのように、画工(複製画を制作する者)たちが絵の部分を専属的に担当する分担制で、たとえば「眼」だけをひたすら色づけする者や「花」のみを描く者など、分業体制が確立されており、黄氏はアメリカのウォルマート向けに1カ月半の間に5万枚の絵画を「製造」し納入していたそうです。


大芬村にある絵画の「ショールーム」


最盛期には2000人の画工が大芬村で複製画の大量生産を行っていたとのこと。当時、大芬村の贋作製造工場のある所有者は、「1988年から2000年にかけて、油絵のコピー業界はピークでした。当時、インターネットは普及しておらず、有名な絵画の大量生産こそ産業のすべてでした。私たちの受けた注文の3分の2は、偽の西洋画家の署名が入れられたものです」と述べています。


1990年代には中国政府が急成長している有望分野に対して税制優遇や家賃補助などを行う政策を採ったことも後押しになって、黄氏の大芬村でのビジネスは中国の商業芸術に前例のない収益をもたらしました。しかし、大量生産された複製画に対する世界的な需要の落ち込みや著作権侵害に対するメディアの目が厳しくなったこともあり大芬村は次第に勢いを失っていきました。


中国のシリコンバレーである深センは経済発展を続け、首都圏が広がり続けると開発区が大芬エリアを飲み込む状態になりました。当初、農村だった大芬周辺は高層マンションが立ち並ぶ都市に変化し、取り残された大芬村は、高層マンションの一室で複製画の製造を行っています。


また、大芬の地価高騰を嫌って、複製画製造産業は周辺の地域に移転しています。東莞市で8年間複製画の製造作業に従事しているLee氏は、美術学校で絵画の基礎を学んだ後、画工に弟子入りしました。若い頃は芸術を愛し絵を描くことが唯一の趣味だったLee氏ですが、絵を描くことは「単なる仕事」になってしまったとのこと。


他方で、大芬村の複製画産業から派生した芸術都市も存在しています。上海に近い厦門市では、1990年代以降、地域で活動する複製画専門の画工の数が減りましたが、今では3万人を超える芸術家が活動しています。厦門市にある油絵メーカーのある経営者は、かつて贋作を複製する画工としてマリリン・モンローのコピー画を生産していたとのこと。「一定時間がたつと、参考にする絵の画像を使う必要すらなくなりました」と当時のことを回想しています。


大芬村が最盛期を迎えていた頃は、複製画の工場経営者や複製画を生産する画工たちは、複製画を購入する顧客との間をつなぐブローカーに頼らざるを得ませんでした。アングラなマーケットにおける情報格差からブローカーたちは膨大な利益を得ていましたが、複製画産業では、インターネットの登場によるパラダイムシフトが起きています。


複製画の製造に取り組む画工の中には、独自の感性を込めた新しい作品を作る者が現れており、Instapaintingのようなオンラインサービスを通じて自身の作品を海外の顧客に直接売るという流れが現れています。南安の絵画街として知られる莆田市に住むShaomin Zeng氏は、photorealismを体現する自身の作品をInstapaintingで販売して一般的な複製画制作の7倍の料金を請求しているとのこと。Zeng氏は、顧客との英語のやりとりや作品の梱包、発送などを専門に代行する地元の企業を利用して創作活動を行っており、顧客サポートに患わされることなく作品作りに集中できているそうです。


大芬村で興った複製画製造業は、世界的な景気後退や著作権侵害に対する批判や地価高騰などを経て、細分化しつつ中国全土に広がっていきましたが、インターネットによる民主化の時代の到来によって、才能のある芸術家が生まれ、競争し新しい作品を生み出すように変化を遂げているようです。

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in アート, Posted by darkhorse_log

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