タイプミスで人生を台無しにされた男性の物語
By The Next Web
若者が薬物中毒と闘うサポートを行うリカバリーワーカーとして働いていたナイジェル・ラングさんは、2011年に突然まったく身に覚えのない容疑で警察に逮捕されます。児童ポルノ写真所持の疑いで逮捕されたラングさんですが、これは誤認逮捕であり、その裏には「タイプミス」が隠れていたそうです。
'My life was ruined by a typo' - BBC News
http://www.bbc.com/news/uk-39328853
2011年5月、イギリスのハートフォードシャー州警察で働く警察官が、「その年の4月に100人以上の児童ポルノ写真を共有したIPアドレスを特定した」として、サウスヨークシャー州の同僚に連絡しました。この時、サウスヨークシャー州の警察官は容疑者のIPアドレスを受け取ったわけですが、これはタイプミスにより本来のものとは異なる「ラングさんの奥さんが保有するインターネットアカウントに対応したもの」になってしまいました。
奥さんが白人女性であったことが関係するのかどうかは不明ですが、逮捕されたのは奥さんではなくラングさんでした。
By hardwarehank
ラングさんは逮捕された際のことを、「『自分は何もしていないんだから何も見つかるわけがない』と自分に言い聞かせることしかできなかった」と語っています。逮捕後、数週間にわたって自身の家を離れることとなったラングさんですが、幼い息子は「なぜ父親が突然居なくなってしまったのか?」がわからず、常に泣いていたそうです。逮捕から3週間後、警察は押収したラングさんのコンピューターを返却、彼が完全に無罪であることが証明されます。しかし、この出来事はラングさんの精神に深刻な影響をもたらします。
「この出来事のせいで、私は自分の職場に戻ることができなくなりました。リカバリーワーカーは私の人生の中で最高の仕事だったし、本当にうまくこなしていると感じていました。しかし、(誤認逮捕を受けて)誰かが私がこの仕事をしているのは若い女性を口説くためだと言ったのをきっかけに、私は若い女性と仕事をすることが怖くなってしまったのです」とラングさんは語り、誤認逮捕により周囲の目が一変したこと、その変化にラングさん自身がついていけなくなったことを明かしています。
逮捕されてから11か月が経過したのち、ラングさんはなぜ自身が誤認逮捕されたのかもわからないまま、サウスヨークシャー州警察を訴えました。児童ポルノを共有していたというインターネットアカウントはラングさんのパートナーである白人女性のものであったので、自身が逮捕されることになったのは「自身が黒人男性であったため」とラングさんは感じていたそうです。結局訴訟は棄却されてしまいますが、その過程でラングさんはハートフォードシャー州警察が事件に関与していたことを初めて知ります。
ラングさんは、逮捕の原因が「ハートフォードシャー州警察が提供した情報に誤りがあったから」ではないかと考え、提供された情報が間違っていたかどうか確認することができるか警察に問い合わせたのですが、警察からは「時間の経過により不可能である」という回答が返ってきたのみだそうです。しかし、ラングさんが弁護士を通してハートフォードシャー州警察に問い合わせを行ったところ、間違ったIPアドレスを連絡していた事実が発覚します。
「警察側の過ちを知るため、私は弁護士を雇う必要がありました。私は自身の無実を叫んで情報開示を求めましたが、彼らは不可能だと言っていました。しかし、弁護士を使うとできると言われました。この出来事は警察が私の人生などまったく気にしていないことを理解させました。つまり、警察は普通の人々のことなどまったく気にかけていないんです」と、警察側の対応を批判。なお、ラングさんが正式に書面でハートフォードシャー州警察から謝罪を受けたのは2014年になってからでした。
その後、ラングさんは1998年に制定されたデータ保護法違反および誤認逮捕、警察による暴行、不法侵入に対する賠償を求めます。そして2016年10月、ハートフォードシャー州警察と和解し、6万ポンド(約840万円)の損害賠償と別途法的費用を受け取ります。
しかし、ラングさんは「これは十分なお金ではありません。6年間の戦いで私は疲れ果てました。また、2年半分の賃金が得られておらず、事件以降私は働けなくなってしまいました」と警察側の対応では不十分であると語っています。
By Sebastien Wiertz
2017年、ハートフォードシャー州警察はBBCに対して「誤認逮捕が発覚した際、即座に事実を認めて謝罪しましたが、それによる影響を認めて再度謝罪したいと思いました。 誤認逮捕は管理上の過ちが原因であり、今後こういった事態を防ぐための教訓を得られたと感じています。(誤認逮捕された)男性は完全に無罪であり、補償は正当に行われました」という声明を出しています。
ラングさんは2017年3月にBuzzfeed Newsのインタビューに応じており、その中で「私は裁判により1日たりとも普通の日々を送れなかったし、世界に向けて自分が小児性愛者ではないことを訴える必要があります。私は普通の勤勉な人間でしたが、未来がどうなるかわかりません。私は誤認逮捕のため、心的外傷後ストレス障害を患い、私の人格は変わってしまい、以前よりもすごく怒るようになりました。私は睡眠不足に苦しんでおり、周りの視線を過剰に警戒するようになりました」と語り、誤認逮捕が自身の人生に与えた多大なダメージについて語っています。
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