サイエンス

SF映画「メッセージ」の異星人の恒星間航行は非常に高いレベルで考証済み、監修したのは理論物理学者であのMathematicaの生みの親スティーブン・ウルフラム


映画やドラマの中で「プログラマー」と設定されている人物が仕事をしている時に映るPCの画面がまったくでたらめなものだったり、数式が適当なものだったりすることはよくあります。しかし、2017年公開予定の映画「メッセージ(原題:Arrival)」では、制作陣がリアリティを求めて理論物理学者でありMathematicaの作者でもあるスティーブン・ウルフラム氏に協力を依頼。ウルフラム氏は映画に「最良の科学」をもたらすべくこのオファーを受けました。

Quick, How Might the Alien Spacecraft Work?—Stephen Wolfram Blog
http://blog.stephenwolfram.com/2016/11/quick-how-might-the-alien-spacecraft-work/

映画『メッセージ』 | オフィシャルサイト | ソニー・ピクチャーズ
http://www.message-movie.jp/


「メッセージ」のあらすじは以下の通り。

突如地上に降り立った、巨大な球体型宇宙船。謎の知的生命体と意志の疎通をはかるために軍に雇われた言語学者のルイーズは、“彼ら”が人類に<何>を伝えようとしているのかを探っていく。その謎を知ったルイーズを待ち受ける、美しくそして残酷な切なさを秘めた人類へのラストメッセージとは―。

ウルフラム氏はSF映画を見ていて、「100億円かけて作ったのかもしれないけれど、ちょっと詳しい人間に見てもらうだけですぐにでも修正できる間違いがいくつもある」と常々思っていたそうです。そんな中で、映画「メッセージ」の制作陣からウルフラム氏に「謎の知的生命体が地球へやってくるのですが『恒星間航行』はどうすればよいでしょうか、『恒星間航行』を実現する宇宙船とはどんなものでしょうか」と一風変わった連絡がありました。ドラマ「ナンバーズ 天才数学者の事件ファイル」シーズン6ですべての数学監修を担当した経験のあるウルフラム氏は多忙な時期でしたが、脚本を読んでみて興味深い作品であったことから「作品に自分ができる限りの『最善の科学』を織り込めたら」と考え、仕事を引き受けることを決めました。

監修のしっかりした作品といえば、たとえば理論物理学者のキップ・ソーン氏が「4次元・5次元における重力」や「アインシュタイン方程式の解決策」などの数式を監修した「インターステラー」が知られています。


奇蹟がくれた数式」では、数学者のマンジュル・バルガヴァ氏とケン・オノ氏がアソシエイト・プロデューサーとして参加し、数学面の監修を担当。


ジュラシック・パーク」では古生物学者のジャック・ホーナー氏が技術監修を担当し、ホーナー氏は主人公であるアラン・グラント博士のモデルにもなりました。


古くは「人工知能の父」と呼ばれたコンピューター科学者マーヴィン・ミンスキー氏が「2001年宇宙の旅」でアドバイザーを務めたり、同じくコンピューター科学者のエドワード・フレドキン博士が1983年の映画「ウォー・ゲーム」に登場する人工知能を開発したフォルケン博士のモデルになったりしています。

しかし、作中に登場するソースコードがまったくでたらめだったり、数式が無意味なものだったりすることもまたよくあること。ウルフラム氏はすばらしいセットデザインが「いい作品」を「偉大な作品」に押し上げるように、すばらしい考証は作品の価値を高めることだと考えて「メッセージ」に取り組みました。


まずウルフラム氏と息子のクリストファー氏が考えたのは「もし現実に起きたら、我々は何を分析し、何を計算するだろうか」ということ。そこで、映画制作陣から生データをもらい、異星人が着陸した地点のリストから「その傾向は?」、宇宙船の形状から「その意味とは?」、異星人の筆跡から「何を意味しているのか?」ということを分析しました。分析にあたってはウルフラム氏の開発したプログラミング言語・Wolfram言語が用いられました。Wolfram言語ではコードに画像やドキュメントなどあらゆるオブジェクトを含むことができ、コードで可視化と解析を即時に構築することもできます。

一例がこんな感じ、異星人の着陸地点を地図上に示したもの。


こちらは異星人の「筆跡」。


また「一体、どんな技術を用いて異星人は地球まで来ることができたのか」という部分についても、「恒星間航行」自体は作品の本筋とは直接関係しない部分で描かれなかったとしても問題はなかったのですが、ウルフラム氏は既存の物理学にちょっとした「ハック」を加えるだけで現実味のある設定にできると考えて盛り込みました。

細かいところでいえば、主人公の言語学者ルイーズが物理学者イアン・ドネリーと白板を前にするシーンで、白板に書かれている数式はウルフラム氏が依頼を受けて書いたもの。普段はホワイトボードに書き出すことはないというウルフラム氏ですが、「恒星間航行船のことをドネリーが考えたときにこんなことを書くのではないか」という内容にしたそうです。なお、下記画像はウルフラム氏がブログで公開したものですが、映画ではさらに書き直されたものが使われています。


世界を緻密に描くことでその片隅に住むキャラクターの日常性・非日常性を描きだした作品として、映画「この世界の片隅に」が2016年11月12日から公開されていますが、同じように映画「メッセージ」でも設定をしっかりと積み重ねて説得力のある描写が行われていることが期待できそうです。

映画 『メッセージ』 予告編 - YouTube

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in サイエンス,   動画,   映画, Posted by logc_nt

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