魔女や狼男のように600年間も人々の恐怖の対象だった恐るべき野菜、その名は「トマト」

By Vladimir Morozov

赤くてジューシーな野菜「トマト」は、カットしてサラダに入れたり、スライスしてチーズと一緒にマリネにしたり、ジュースやソース、丸かぶりなどいろいろなおいしい食べ方がありますが、かつては「悪魔の食べ物」として人々に恐れられていたことがありました。

When Tomatoes Were Blamed For Witchcraft and Werewolves | Atlas Obscura
http://www.atlasobscura.com/articles/when-tomatoes-were-blamed-for-witchcraft-and-werewolves

現代をさかのぼること約500年、中世から近代へと時代が変化する頃のヨーロッパでは、魔術を使ったと疑われた者を私刑で裁く「魔女狩り」が猛威をふるっていました。宗教観に基づき、およそ科学的な根拠がないまま処刑された「容疑者」は4万人から6万人にのぼるとされ、ドイツだけでも1万7000人もの人が処刑されています。

当時信じられていたのは、魔女とは悪魔に従属する人間であり、悪霊(デーモン)との契約および性的交わりによって、超自然的な魔力や人を害する軟膏を授かった者、という考え方だったとのこと。この軟膏の働きにより、魔女はホウキに乗って空を飛ぶことができる、とも言い伝えられていました。

By Tom Lee

実際には、軟膏に含まれる幻覚成分によって「空を飛んでいる」と信じ込まされた、というのが軟膏の本当に使い方ともされているのですが、当時の教皇の主治医が残した記録によれば、この軟膏はヘムロック(毒にんじん)やナイトシェード(ナス科の植物)、ヘンベーン(ナス科ヒヨス属の有毒植物)、そして幻覚作用を持つ植物マンドレイクなどの成分をもとに作られていると考えられていたとのこと。

このうち、ナイトシェード、ヘンベーン、マンドレイクの3つはトマトと種が近く、しかもナイトシェードは以下のようにトマトの一種とよく似た見た目を持っているため、うまく見分けが付けられなかったとも考えられています。このような背景があり、当時はトマトは魔女が使うものであり、食べると狼男になってしまうという俗説も広まっていたそうです。

By Bruce Fingerhood

また、植物に対する知識が現在ほど充実していなかったこともトマトが忌み嫌われていた原因と考えられています。当時のヨーロッパでは、古代ローマの医学者・ガレノスによる植物の分類法が浸透しており、実に1000年も前の知識のまま人々が植物を捉えていたとのこと。このため、トウモロコシやブルーベリー、チョコレートなどと一緒にヨーロッパにトマトが持ち込まれたときには、この新しい植物をどのように扱うべきなのかについて混乱が生じたといわれています。その分類の中で、トマトはまず「lycopersion」と名付けられたのですが、その後時代が進むと次第に「狼の桃」を意味する「lycopersicon」と呼ばれるように変化したとのこと。

その後、この名前はルイ14世に仕えていた植物学者のジョゼフ・ピトン・トゥルヌフォールにより定着させられることとなります。トゥルヌフォールの書物の中で、トマトは「Lycopersicum rubro non striato」(red wolf's peach without ribs:赤く茎のない狼桃)と名付けられています。このような経緯で、トマトは使い道のない植物と捉えられていたとのこと。


そんな当時でも、イングランド王ジェームズ一世の主治医であるジョン・パーキンソンのように「トマトは熱を下げ、熱を持った胃からくる喉の渇きをいやしてくれる」とトマトの有用性を記している学者もいましたが、当時のヨーロッパではトマトはおよそ食べられるものとは考えられておらず、さらには果肉や果汁に含まれる「酸」が強いために、スズを主原料とする合金「ピューター」の食器から有害な銅を溶け出させてしまうなどとも考えられていたとのこと。アメリカにおいても同様の傾向がみられ、ハーバード大学出身の医師、ディオ・ルイスは、トマトについて「医学的に力がありすぎて、簡単に中毒になってしまう」などとしてよい食べ物ではないと位置づけていました。しかし実際には、誰も食べたことがないのに嫌いと感じる、いわゆる「食わず嫌い」だったものとみられています。

By David Noah

その後、トマトは次第に人々に食べ物として受け入れられるようになりましたが、トマト禁止にまつわる興味深い逸話もいくつか残されています。例えば、マサチューセッツ州ウィンチェスターには「庭でトマトを栽培することを禁止する」という法律が存在していた、という者もいるとのこと。あたかも「トマトは悪の食べ物説」からうまれたような法律ですが、実はこれはイタリア人に対する差別から生じたものであると言われています。地域に増えつつあるイタリア移民に業を煮やした地元住民が、トマトを植えるイタリア人を排除することで「隣の住人は間違いなくアングロサクソン系である」ということを確実にするために作った規則といわれており、さらによく調べるとこの法律は都市伝説的なものであったことも明らかになってきたとのこと。

現代では多くの人が「おいしい」と思って食べているトマトが食べられなかったと言うのは実に残念な風習だったわけですが、これらはやはり非科学的な迷信と無知が引き起こした悲しい結果といえそう。しかし逆に、いくら理屈で「カルシウムがたくさん取れる」という理由があってもバッタを食べることは難しいのと同じで、食というのは実に人間の文化に深く根付いているものと考えさせられる一件です。

By Daniella Segura

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in , Posted by darkhorse_log

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