服の「ポケット」の由来と歴史、実は「政治」に関係がある
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ヒラリー・クリントン氏のトレードマークと言うとパンツスーツですが、実はクリントン氏が着るスーツのほとんどにはポケットがないそうです。今では当たり前のように衣服についているポケットですが、「服にポケットがついているか否か」には政治や社会に大きく関わる、知られざる歴史がありました。
The Politics of Pockets - Racked
http://www.racked.com/2016/9/19/12865560/politics-of-pockets-suffragettes-women
男性のスーツやジャケットには古くから目に見える形で大きなポケットがついていましたが、一方で女性の衣服にはポケットがなく、100年以上も女性は自分たちの衣服にポケットがないことに不満を募らせていました。1905年に出版されたニューヨーク・タイムズでは、ライターのCharlotte P. Gilman氏が「男性の衣服には有能な点が1つあります。それはポケットが付いていること。女性はバッグを装備し、時に衣服に縫い付けたり、手で持ったりすることもありますが、それはポケットではないのです」と書いており、当時、ポケットはズボンやボクサーブリーフ、ネクタイ、スーツ以上に「ジェンダー(性の区別)」のはっきりしたアイテムだったことがわかります。
男性の衣服にポケットがつく前は、男女ともにポケットがついた服を着ていませんでした。中世の衣服について言うと、人々は腰回りにカバンをつけたり、ベルトから荷物をぶら下げたりしていました。しかし、都市化が進み、犯罪者の手口が巧妙化してくると、人々はスリ対策として、衣服の内側にポケットを作り出します。そして、男性のジャケットや女性のペチコートには大切なものを隠すためのスリットがつけられたわけです。
17世紀になると、男性服のポケットはコートやベストの外側に必ずついているアイテムになりましたが、一方で女性服についているポケットはペチコートなどの下に隠されたままで、大きく進化しませんでした。当時の女性のペチコートやパニエの下についているポケットは巨大で、ソーイングキットや時計、香水ビン、くし、ノートやペン、お金など、あらゆるものが入れられていたとのこと。
女性服におけるポケットのあり方が大きく変わったのはフランス革命期のこと。それまで女性はポケットを隠す余地のある幅広のスカートを履いていましたが、フランス革命後は体に沿ったシルエットで、腰周りもすっきりとした衣服が着用されるようになり、衣服の下に大きなポケットを入れることができなくなったのです。だからといって女性が荷物を運ぶ必要があることは変わらないため、その解決案として「ハンドバッグ」が生まれました。この時生まれたハンドバッグは美しく飾られており、ブレスレットのように装飾品付きのチェーンがついているものも多くありました。このことからも、ハンドバッグは「見せる」ということを前提として作られていたことがわかります。
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クリスチャン・ディオールが1954年に「男性のポケットは物を入れるために存在しますが、女性のそれは装飾です」とつづっていることから見ても、女性服のポケットが持つ歴史には「男性の衣服は実用のため、女性の衣服は美しさのため」という女性蔑視が背景にあるように見えるかもしれません。しかし、女性蔑視的な背景がないわけではないのですが、実際のところは、むしろ政治的な理由が大きいと考えられています。
女性のポケットのあり方が変化したのは、前述の通りフランス革命が原因です。フランス革命は財産のあり方やプライバシー、規範などが大きく変化しました。革命期、スカートの下に大きなポケットを持っていた女性は公共の場に自由に物を持ち込むことができましたが、この「自由」こそが、革命期に非常に恐れられたことでした。そこで、女性が公共の場に出向いたり、ハレンチな記事などを持ち歩いたり、一人で出歩いたりすることを防ぐために、衣服の下に隠されたポケットは取り除かれていったとのこと。
そして1891年、女性にコルセットを捨ててゆったりしたズボンなど健康的な衣服の着用を呼びかけるRational Dress Societyという協会が設立されたことをきっかけに、女性の衣服は自転車を運転できるような自由のきく形になっていきます。
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この流れの中で、女性の衣服にもポケットがつけられるようになり、同時に男性の衣服につけられるポケットの数も増えていきます。1899年には、ニューヨークタイムズが記事の中で「私たちがさらに文明化すれば、もっとポケットが必要になるでしょう」「ポケットが発明されてから、ポケットを持たない人が偉大になれたことはありません。女性がポケットを持たない限り、私たちと張り合うことはできません」とつづっているとのこと。
19世紀後半から20世紀にかけては、女性の地位向上を訴える「新しい女」という新しい女性像が確立されていった時期でもあります。その中で、ポケットに手を入れて立つ女性は男性に対して挑戦的であると見なされるなど、反発もありました。また、1910年に発行されたニューヨーク・タイムズの見出しには「参政権拡張論者のスーツにたくさんのポケット」とあり、女性の参政権拡張論者がスーツの見えるところにポケットを7~8個つけることで、女性がプライバシー、財産権などを欲していることを示していたことがわかります。女性であってもプライベートなものや、秘密、ピストルといった誰かの命を奪うものも運べるということの現れが「ポケット」だったわけです。
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それから現代にかけて、女性服のポケットの形は大きく変化したわけではありませんが、社会における女性のあり方は大きく変化し、女性のCEOや政治家などのためのスーツメーカーが登場することで、スーツの形も大きく変わりました。
ヒラリー・クリントン氏のパンツスーツは彼女を彼女たらしめるトレードマークのようなもので、クリントン氏自身がInstagramでスーツに関する投稿を行うこともあれば、まったく関係ないデザイナーがTシャツにすることさえあります。これらのスーツはカラーバリエーションが非常に豊富であるものの、目新しいものではなく、これといった特徴がないように見えます。しかし、1つだけ言えるのは、ほとんどのスーツにポケットがないことです。
政治において恐れられた「自由」を持ち運べるということで制限されていった女性のポケットは、20世紀にかけて、再び女性に獲得されていき「秘密」を運べるようになったわけですが、クリントン氏のポケットのないスーツには何かを隠す場所も、何かが現れる場所もありません。有権者がポケットの歴史を知っているかどうかはさておき、クリントン氏は自らの意志をパンツスーツによって表明しているとも言えるわけです。
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in デザイン, Posted by darkhorse_log
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