水の中にぽちゃんと落とすだけで殺菌可能な切手サイズの新型デバイスを開発

By Lennart Tange

世界一安全といわれる日本の水道水ですが、これは塩素消毒で水中の細菌を殺すことでその安全性が保たれています。下水処理の設備が整っていない開発途上国などでは日本のように水の消毒を徹底することは不可能ですが、新たに開発された郵便切手サイズの小型デバイスならば、とても簡単に水を殺菌できるようになる可能性があります。

SLAC, Stanford Gadget Grabs More Solar Energy to Disinfect Water Faster | SLAC National Accelerator Laboratory
https://www6.slac.stanford.edu/news/2016-08-15-slac-stanford-gadget-grabs-more-solar-energy-disinfect-water-faster.aspx


さまざまな科学技術が発展している現代でも、世界の多くの地域で「細菌だらけの水」を「きれいな飲める水」に変えるために「水を沸騰させる」という手法がとられています。また、ペットボトルに水を入れ、日光にさらし続けることで、紫外線で水中の細菌を殺すという方法もあります。しかし、紫外線は太陽光エネルギーの4%しか有していないので、この方法で飲料水を確保しようとすればペットボトルを日光に6~48時間さらし続ける必要があるそうです。

これらの方法よりもはるかに効率的に水を殺菌できるデバイスが、アメリカ合衆国エネルギー省所有のSLAC国立加速器研究所とスタンフォード大学の研究者たちにより開発されています。それが、「太陽光の可視スペクトルを使ってわずか数分で水を殺菌できる」という郵便切手サイズのナノ構造デバイス。紫外線が太陽光エネルギーの4%しか活用できていないのに対し、新開発のナノ構造デバイスはなんと太陽光エネルギーの約50%を活用できるとのことです。

SLACとスタンフォード大学の研究者たちが開発したナノ構造デバイスはこれ。指先くらいの小さなサイズですが、太陽光を使ってわずか数分で水を殺菌可能。


このナノ構造デバイスに関する研究レポートは2016年8月にNature Nanotechnologyで公開されました。このレポートによると、ナノ構造デバイスの表面に降り注ぐ太陽光が過酸化水素やその他の殺菌物質を生成し、これらが水中の細菌をちょうど20分で99.99%殺菌。そして殺菌後、発生した化学物質はすぐに消えるため、不純物をほとんど含まない純水だけが残るそうです。

「我々が開発したデバイスは小さな長方形の黒色ガラスのように見えます。これを水中に落とし、太陽光の下に置けば、あとは太陽が水を殺菌してくれます」と語るのは、研究レポートの第一著者であるチョン・リウ氏。

電子顕微鏡でナノ構造デバイスの表面を見てみると、指紋のような模様が見えます。この線は二硫化モリブデン製の非常に薄い薄膜で、研究者たちは「ナノフレーク」と呼んでいます。このナノフレークが幾層にも重ねられ、迷路のような見た目になっているわけ。


通常、このナノフレークの原料である二硫化モリブデンは産業用の潤滑剤などとして使用されます。しかし、二硫化モリブデン原子レベルのサイズの層にすることで、異なる特性を引き出すことが可能とのこと。異なる特性というのは「光触媒」になるというもので、二硫化モリブデンを光触媒として光にさらすことで多くの電子が動き、細菌を殺すための化学反応が起きるというわけです。なお、二硫化モリブデンのナノフレークの層の厚さを調節することで、あらゆる可視スペクトルを吸収できるようになっています。

加えて、二硫化モリブデンのナノフレークの層に銅の層を追加することで、太陽光に反応し、殺菌剤に使用される物質である過酸化水素のような活性酸素種を生成するように調整しているそうです。


「二硫化モリブデンは安価で簡単に作れる物質であるため、開発途上国などでも広範囲で作成できる」と同研究に参加したイ・キュ氏は語っています。

ただし、このナノ構造デバイスが万能というわけではありません。これはあくまで水中の細菌を殺菌するためのデバイスなので、水中の化学汚染物質を取り除くことはできません。また、研究ではこれまでのところ3種類の細菌に対してナノ構造デバイスのテストを行い、殺菌に成功していますが、だからといってその他すべての細菌に対しても有効であるかどうかは不明です。

また、テストは研究所で作られた特定の細菌が混ざった水に対して行われただけなので、実際のさまざまな汚染物質などが混ざった水に対して有効に働くかどうかも今後実証していく必要があります。

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in ハードウェア,   サイエンス, Posted by logu_ii