サイエンス

インターネット時代の天体観測はアマチュア天文家が大きな役割を果たせるようになってきている

By European Southern Observatory

2016年3月17日、2人のアマチュア天文家が木星の表面で発生した閃光現象の観測に成功しました。この時に衝突した天体は、直径5mから20mほどの小惑星と考えられているのですが、インターネット時代が到来したことで、天体観測の現場でもこのようなアマチュア天文家による観測が大きな成果を残すようになっています。

Backyard telescopes and amateur eyes see where “pro” astronomers can’t | Ars Technica
http://arstechnica.com/science/2016/08/amateur-astronomy/

この閃光現象の観測に成功したのは、オーストリアのGerrit KernbauerさんとアイルランドのJohn McKeonさんの2人でした。まず最初にその様子を公開したのはKernbauerさんで、撮影から10日後に映像を確認したところ、閃光現象が収められていることに気づいたとのこと。Kernbauerさんは20cmクラスの望遠鏡で木星を撮影しており、YouTubeにその映像をアップロードしたところ注目を集めることとなり、記事作成時点で実に450万回も再生されるに至っています。

Asteroid impact on Jupiter? - YouTube


Kernbauerさんの動画を知り、同じタイミングで撮影していたことに気がついたMcKeonさんは2日後に以下の動画をYouTubeに公開してRedditでもスレッドを作成。McKeonさんは28cmクラスの望遠鏡で撮影を行っていたとのことで、Kernbauerさんの映像よりもやや鮮やかな映像が収められていることがわかります。

Jupiter Impact March 17th 2016 - YouTube


いずれも貴重な瞬間を捉えた映像となっているわけですが、その両方がアマチュア天文家によって撮影されたということが現代における天文学の在り方をよく示すものとなっているとのこと。


天文家にとって、地球よりも太陽から遠くにある外部太陽系の惑星は魅惑の的であり、ごく限られた観測可能時間で競うようにプロ・アマ両方の天文家が夜空に望遠鏡を向けて数々の小惑星や、さらに遠い宇宙に浮かぶ星雲や星団を観測しています。また、2014年9月にサイディング・スプリング彗星が火星に大接近してあわや衝突というイベントの際には、多くの望遠鏡が火星に向けられていたものと見られます。

このような特別なイベントが起こる際には多くの人の目を集める天体ショーですが、それでもなお観測者の数が限られていること、そして観測できる時間が夜間に限られることなどから、世界中の愛好家をかき集めても、その観測体勢にはおのずから限界が存在しています。特に、研究所レベルの大きな望遠鏡はさまざまな研究対象を持たされていたり、複数の研究チームで利用時間を共有していることから、ある特定の星を継続的に追い続ける観測は非常に困難なもの。そのため、そのような継続的な観測には、アマチュア天文家による活動が大きな役割を持つようになってきているとのこと。

1994年には、シューメーカー・レヴィ第9彗星が木星の重力による潮汐力で9つに砕け、次々に木星表面の大気層に衝突するという天体イベントが繰り広げられました。この時はNASAをはじめとした研究機関が注目したほか、多くのアマチュア天文家も競うように望遠鏡を向けました。以下の写真は、NASAが撮影したものですが、それから20年以上が経った2016年になると、天文機器の性能が大きく向上したことから、以前よりもクオリティの高い観測が可能になっています。


今日では、天文の専門家もアマチュア天文家による観測に大きな信頼を寄せているとのこと。前述のように、ハッブル宇宙望遠鏡をはじめとする超高性能な望遠鏡は常に宇宙のあらゆる場所を観測する必要があるため、いわゆる「定点観測」を行うアマチュアの存在が必要不可欠になってきているというわけです。木星には過去数年で5回の天体衝突が発生しましたが、これらを観測したのもアマチュア天文家による活動の結果でした。1994年のシューメーカー・レヴィ第9水星の衝突の際には「我々が生きている間で最初で最後の天体ショー」などと言われたものですが、実際には2009年に1度、2010年に2度、そして2012年と2016年に1度ずつ観測されるなど、実は多くの天体衝突が木星では発生している事が判明し、実際にカメラにも収められてきたのです。

NASAのジェット推進研究所の天文科学者であるGlenn Orton氏も、そんなアマチュアの力に信頼を置いている1人です。大きな天体イベントが発生した際にOrton氏は、有用なデータを求めてアマチュア天文家のオンラインコミュニティに顔を出すことが知られており、さらには木星の観測コミュニティであるJunoCamの活動を広く拡散する活動を行っているとのこと。世界中で多くの望遠鏡による観測を行うことで、途切れることなく惑星の観察を継続できるという、従来にはなかった、ネット時代ならではの観測体勢が実現するようになっているのです。

By Steve Hill

機材レベルが向上したことで、アマチュアの観測レベルも従来には考えられなかったほど向上を見せていると専門家は語ります。いまや、十数万円レベルの「そこそこ」の性能を持つ観測機器を手に入れると、誰でも簡単に天体観測の世界に飛び込めるようになっています。ただしそこから先の世界が奥深いのは他のどんな趣味とも同じで、同じアマチュアでもトップレベルになるとプロ顔負けの成果を残す人物も現れるほど。

天体写真の第一人者であるイギリス人のダミアン・ピーチ氏は、天体観測の世界に足を踏み入れようとする人は、まずは地元の天文クラブなどに所属することが良い方法であるとArsTechnicaのインタビューで語っています。コミュニティに参加することで、天体観測や撮影に必要なノウハウを得ることができ、さらには最新の機材に触れられるチャンスも得られるとのこと。ピーチ氏は、コミュニティに所属する人はオープンな人が多く、さまざまな情報を共有することに積極的であると語っています。

これまでは単なる「趣味」の色合いが強いといえたアマチュア天文観測の世界が、ネットの普及とコミュニティの役割が大きくなったおかげで、誰でも科学の進歩に寄与できるようになっています。たとえ具体的な見返りがないとしても、自分が科学の1ページに関与できるというのは、非常に興味深いことといえそうです。

By Ira152

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in サイエンス,   動画, Posted by darkhorse_log

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