人間の平均身長はどんどん伸びていくのか?
By Daniel M Viero
総務省統計局が開発を行っている政府統計の総合窓口が公開している、平成26年国民健康・栄養調査を見ると、20歳以上の日本人男性の平均身長は167.2cm、女性は153.9cmとなっています。この平均身長は年々伸びており、それは日本だけでなく世界中の国々でも同様に平均身長が伸びてきているそうです。その原因は一体どこにあるのかを、イギリスのBBCが解説しています。
BBC - Future - Will humans keep getting taller?
http://www.bbc.com/future/story/20150513-will-humans-keep-getting-taller
人類はここ1世紀半で大きな変化を遂げてきました。世界人口は10億人ほどから70億人以上に増加し、先進国では平均寿命が45歳(1800年代中頃)から80歳にまで伸びています。そして、何といっても見た目の変化としては、イギリスやアメリカ、日本などの先進国で平均身長が10cm以上も伸びています。中でも、過去150年での平均身長の上昇値が最も高いのがオランダです。現在のオランダの若者の平均身長は男性が184cmで、女性が170cmとなっており、それぞれ150年前と比べると平均身長が19cmも高くなっています。
「これは人々を驚かすのにちょうど良い数字だ」と語るのは、ミュンヘン大学で経済史の名誉教授を務めるジョン・コムロス氏。「なぜ人間は時間と共に平均身長を伸ばしているのか?」「なぜ、特にオランダ人の平均身長が伸びているのか?」「平均身長の伸びは何かの兆候なのか?」といった、身長に関するいくつかの疑問にコロムス教授が回答してくれています。
By Christine Cavalier
経済状況や社会的情勢により、人口における平均身長や平均体重などがどのように変化するのかを調査するため、コロムス氏はアメリカ軍が蓄積し続けていた兵士の身長や体重などの身体データを使用した分析を行いました。分析調査の結果、個々人の身長の高さは「食事」と「疾病」という、2つの要素と深く結びついていることが判明しています。また、特に幼少期における「食事」と「疾病」が、個人の身長に大きな影響を及ぼしていることが明らかになり、幼少期に十分な食事をとっていないなかったり、下痢などの病気で十分な栄養が吸収できていなかったりする場合、成人するまでに身長があまり伸びないなどの悪影響があることをつきとめます。
ノースウェスタン大学の人類学教授であるウィリアム・レオナルド氏は、「人間の平均身長が伸びてきた主な原因は、食事の改善により多くの栄養を摂取可能になり、より健康になったからです。つまり、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上が平均身長が伸びてきた原因です」と語っています。
By Mike Burns
実際に、身長と健康のつながりを示す事例は数々あります。
例えば、ヨーロッパでは17世紀に平均身長が最低の数値だったそうで、当時のフランス人男性の平均身長はなんと162cmしかありませんでした。これは、14世紀半ばから19世紀半ばにかけて続いた寒冷な期間「小氷期」の影響と考えられており、小氷期の影響で農作物の収穫量が激減し、食糧が不足することで十分な栄養を摂取できなくなり、さらにはイングランド内戦や三十年戦争など数多くの戦争が起こったことで、市民のQOLが低下して平均身長が現在からは考えられない数値になっていたと推測されています。
しかし、18世紀に産業革命が起き、好景気と共に19世紀後半までに都市の下水道設備などが急速に整えられていったことで、ヨーロッパに住む人々の食事が豊かになり、QOLが向上します。これにより、現在ではヨーロッパの人々の平均身長は他の地域よりも高くなっています。
さらに最近の事例でいうと、朝鮮戦争後の韓国と北朝鮮が興味深い数字を出しています。韓国と北朝鮮は元は同じ朝鮮民族による国家ですが、双方の人間開発指数(HDI)を比較すると経済レベルに大きな差が出ていることがわかります。HDIでみると、韓国は195か国中15位にランクインしており、北朝鮮は推定で188位と考えられており、2つの地域の国民のQOLに大きな差があるであろうことは明らか。そして、2014年の成人男性の平均身長を比べると、北朝鮮の成人男性は韓国の成人男性よりも3cmから8cmも身長が低いそうです。
By Ronan Shenhav
ただし、アメリカを含む先進国のいくつかでは19世紀以降平均身長が伸びていない国もあります。18世紀の産業革命から20世紀中頃に起きた第二次世界大戦にかけて、アメリカは世界で最もめざましい成長を遂げてきました。しかし、現在のアメリカ人男性の平均身長は176cmで、女性の平均身長は163cmと、45年前の数値とほとんど変化がありません。
コムロス氏は、アメリカの平均身長が45年ほど前から伸びていない理由は、先進的なヨーロッパの国々と比べてアメリカでは貧富の差が激しく、貧しい人々が栄養の豊富な食事を摂取したりヘルスケア関連の制度を活用したりすることが難しいから、と考えているそうです。実際、何百万人というアメリカ人が医療保険に加入しておらず、定期的な検診なども受けていません。また、アメリカでは妊婦に対してほとんど援助がありませんが、オランダでは無料で看護師による在宅ケアや必ず受けることが可能です。加えて、アメリカ人口の3分の1はジャンクフードの食べ過ぎで肥満となっており、カロリーの取り過ぎや加工食品の食べ過ぎが、成長に影響を与えている可能性も示唆されています。
By Happy Meal
もちろん、人間の身長を決めるのは「食事」や「疾病」だけではありません。遺伝子も重要な役割を担っており、身長の高い両親の間には身長の高い子どもが生まれやすくなるものです。しかし、貧困にあえぐ家族は、豊かな家族よりも不健康で、背が低く・子どもを多く作る傾向にあります。世界で最も貧しい国のひとつであるニジェール共和国は、世界で最も多産な国でもあり、女性は平均で7人以上の子どもを産むそうで、「世界的に見れば、平均身長の違いは社会経済での地位や安定した栄養を得ているかどうかから来ているのは明らか」と、レオナルド氏。
By Mathieu Dessus
それでは、身長が高いことはどのような魅力を持っているのでしょうか。例えば、高身長は所得の高さを示す指標のひとつと言われています。2004年に公開された研究によると、平均身長よりも1インチ高くなると、年間の収入が789ドル、現在のレートで976ドル(約10万円)も高くなることが明らかになりました。ただし、スポーツ選手やファッションモデルを除けば、身長の高さが収入に直結しているという職業はないとのこと。また、身長が高すぎるのも考えもので、身長が高いと低い人よりも心血管障害のような疾病を患いやすいそうです。
なお、コムロス氏は「オランダは人間の平均身長の最大値に達してしまったように思える。人間が最適な条件下における最も高い身長に達しているようだ」と語っており、レオナルド氏も「一般的に、先進国の人々は遺伝子が持つ可能性の限界まで到達してしまったように思える」と語っています。
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