レビュー

「アート・オブ・スター・ウォーズ/フォースの覚醒」はどうやって映画が完成していったのかわかる公式アートブック


2015年12月18日に全国で公開された「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」は、スター・ウォーズシリーズとしては初めてジョージ・ルーカスの手元から離れた作品です。ジョージ・ルーカスの後を受け継いだのがJ・J・エイブラムスなわけですが、同作品の公式アートブック「アート・オブ・スター・ウォーズ/フォースの覚醒」を読むと、ジョージ・ルーカスという創始者なしでフォースの覚醒がどのようにして完成したのか、その過程がよくわかります。

「アート・オブ・スター・ウォーズ/フォースの覚醒」の目次は以下のようになっています。
◆序文
◆イントロダクション
◆“導かれたイメージ”コンセプト段階
◆プリプロダクション
◆プロダクション
◆ポストプロダクション
◆「ルーク・スカイウォーカーとは何者?」


本書ではリック・カーターの率いるコンセプト・アート・チームがビジュアルデザインをどのようにして決めていったかが、大量のコンセプトアートと共に時系列で書かれています。リック・カーターがチームに投げかけた「フォースって、どれぐらい強い?」「ルーク・スカイウォーカーとは何者?」という質問が、コンセプトイメージの根底にあるそうです。


これはライトセーバーの試案。金属パーツの中にクリスタルがはいったイメージで、右に写っているのが最も原始的なライトセーバー。一番左がクリスタルです。


画面左はハン・ソロのコンセプトアート。昔のセルジオ・レオーネの映画ポスターみたいに描いてほしいという依頼をもとに描き上げたとのこと。ロングコートをまとい、ひげを生やしたハン・ソロの姿は、映画「トゥルー・グリッド」のジェフ・ブリッジズのような雰囲気がベースになっています。


惑星ジャクーは、ジャンク・プラネットというコンセプトから誕生しました。当初は帝国の宇宙ステーションが墜落しているという設定でしたが、すぐに難破したスター・デストロイヤーというアイデアが生まれたとのこと。そこに、現在のインドにある船舶解体場の資料写真が加わり、だんだんと惑星ジャクーという星につながっていきます。


2013年4月には、ストーリー/アートミーティングが開かれエピソード7でデビューする新規キャラクターの設定が徐々に決まっていきます。カイロ・レンは当初ジェダイ・キラーという名前でした。賞金稼ぎ風のデザインのジェダイ・キラーはボバ・フェットの特徴が盛り込まれています。


雪上のミレニアム・ファルコン。


「帝国の集会」と名付けられたコンセプトアートは、ナチスが開いたオリンピックの写真をPCに貼って3Dでモデリングし、人の代わりにタイ・ファイターを置いたとのこと。


ダントゥーインは、帝国がエピソード4で言及されるダントゥーインの廃虚を修復して利用しているという設定。


帝国の質実剛健さを伝えるためにブルータリズム建築の採用も検討されました。


タイ・ファイターが空襲に現れる場面のコンセプトアートは、映画「地獄の黙示録」の有名なシーンをアレンジしたもの。ヘリコプターをタイ・ファイターに置き換えるだけでドラマチックになったとのこと。


ストームトルーパーが空を監視するモハー防空壕。


壊れたタイ・ファイターが所狭しと積み重ねられているのはタイ・ファイターの墓場。元ネタはソマリアかどこかの国のジャンクヤードです。


2013年6月には映画「トロン:レガシー」や「オブリビオン」で知られるダーレン・ギルドフォードがコ・プロダクション・デザイナーに就任。この時期には、スター・デストロイヤーの内部のコンセプトアートができており、「フォースの覚醒」の世界観がじわじわと構築されていく様子が手にとるようにわかります。


ジェダイ・キラー(カイロ・レン)のコンセプトアート。真っ黒な衣装に不気味に赤く光る目は、帝国軍を想起させます。


6月時点では、ダース・ベイダーの溶けたヘルメットがストーリーを動かすカギになるという構想がたてられていました。


作中でレイが集めたジャンク品を売りにきていたジャンクヤードは西部風の町をイメージ。


壊れたAT-ATを再利用した建物。


4つの突起を持つスター・デストロイヤーや、赤色の「レッド・スター・デストロイヤー」、攻撃的なイメージのスター・デストロイヤーなど、船にも多くの種類があったようです。


2013年7月にはプリプロダクション段階へ移行。帝国軍が映画冒頭で襲撃する惑星ジャクーの村のデザイン・コンセプトには1カ月が費やされたとのこと。水と緑が多い環境を求めた結果、水田のような景色とそれに合わせた建物が考えられました。


スチームパンクのような外観の「スチームポッド」は、帝国の上陸用船艇の初期案でしたが、あまりにも複雑過ぎたため却下されました。ただし、スタッフには好評だったそうです。


レイの船やVヘッド・フリゲート、帝国軍ボーディングクラフトなどなど、多くのデザインの船があったことがわかります。


BB-8がデザインコンセプトから徐々にできあがっていく様子。最初はJ・J・エイブラムスのラフスケッチからはじまり、さまざまなデザインのBB-8が考案されました。BB-8はデザイン段階で「サーリー」という名前だったそうです。


カイロ・レンをダークサイドに引きずり込んだスヌークのコンセプトアート。壁に映っている顔は映画「ミイラ再生」のボリス・カーロフです。この時は撮影開始まで5カ月を切っていました。


ジェダイ・キラー(カイロ・レン)のデザインとして提出したものの採用されず、手下としての流用が見込まれていたキャラクターデザイン。どことなくですが、ダース・ベイダーっぽさが残っています。


発注を受けたその日に完成させたというレイの住居。光の差し加減が映画に登場するシーンに反映されているのがよくわかります。


左がレイのスピーダーの五面図と立体図、右が決定稿。デザインの細部はトラクターなどの工業製品を参照にしているとのこと。


スターキラー基地の制御室でカイロ・レンが立って外を見ているコンセプトアート。映画では、カイロ・レンがスターキラー基地から発射された光線を見ていたのが印象的です。最初にスター・デストロイヤーのブリッジを組み、それからセットを改造し、制御室に流用。スター・デストロイヤーでは黒い宇宙と白い船内で対比を見せられましたが、スターキラーでは白い雪の地表と暗く重い屋内で対比を見せたそうです。


この時点でのBB-8は作中のものに非常に近づいています。サイコロのように6つの大きな模様(オレンジ色部分)を胴体に配置し、その動きで軽快な動作を表現。頭部には3つのレンズがありますが、配置を非対称にして、1つだけを大きく目立つようにしたそうです。


象をイメージした大型の動物は、フィンが水飲み場で遭遇したクリーチャー。J・J・エイブラムスが初めてワークショップを訪れたときに、デザインチームはこのコンセプトアートを大きく引き伸ばしたものを壁に飾り、J・J・エイブラムスにアピールしたとのこと。


ミレニアム・ファルコンの通路に描かれているハン・ソロはジャケットでなくロングコートを着用。


ミレニアム・ファルコンの通路の平面図と立体図。


医務室でチューバッカを治療するのは、フィンではなくR2-D2のようなドロイドでした。


劇中ではレイのフォースにたじろいでしまったカイロ・レンでしたが、コンセプト段階では飛行するXウィングをフォースの力で岩を飛ばし撃墜するほど、すさまじいフォースの持ち主だったようです。是非、映画で見たみたいシーン。


カイロ・レンとハン・ソロが出会うシーンのコンセプトアート。


ジェダイ・キラー(カイロ・レン)のライトセーバーの初期デザイン。


ジェダイ・キラーの検討デザインとして提出されたものの採用まではいたらなかった「グレネイド・ヘッド(上)」と「Xヘッド(下)」。グレネイド・ヘッドはカイロ・レンのマスクにかなり似ています。


拷問室は幾何学的なアイデアを取り入れ、三角形の形をしています。パースを強調するデザインはヒッチコック映画にも影響を受けているとのこと。


予告編でもたびたび映し出されたカイロ・レンがライトセーバーを抜くシーン。驚きなのは、コンセプトアートのライトセーバーは十字型ではないこと。


不時着したタイ・ファイターの残骸のセット。「フォースの覚醒」では多くのシーンがセットで組み立てられていますが、その中でも、部品をまき散らして停止した姿を300mにわたって再現するタイ・ファイターの残骸は、作るのが一番難しかったそうです。


カイロ・レンがアップで写っているポスター。映画「デューン」に登場する黒と黄色のストライプを応用したのですが、劇中では銀色に落ち着きました。


カイロ・レンの側面と炎の中のクローズアップ。


最初のコンセプトアートではダスター・コートを着ていたハン・ソロですが……


最後はジャケットに落ち着くことに。J・J・エイブラムスはオリジナル三部作のときのベストを着せたかったそうです。


水上をかすめて飛行するXウィングのアイデアは、プロデューサーのブライアン・パークが考えたもの。


フライトスーツを着用したダメロン・ポー。


「スター・ウォーズ フォースの覚醒」にはさまざまなコンセプトアートやデザイン案などが約250ページにわたって数多く掲載されていて、ボリュームもたっぷり。また、ボツになったアイデアの数々に驚きました。


「スター・ウォーズ フォースの覚醒」はあまりにも巨大なコンテンツのため賛否両論があるところですが、同書を読むとなぜ本作が旧作品をリスペクトする要素を詰め込みまくったのか、その意図がわかるかもしれません。


なお、「アート・オブ・スター・ウォーズ/フォースの覚醒」はAmazonで販売中。記事作成時点の価格は税込5184円です。

Amazon.co.jp: アート・オブ・スター・ウォーズ/フォースの覚醒: フィル・スゾタック, リック・カーター, 秋友克也: 本
http://www.amazon.co.jp/dp/4864912572

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in レビュー, Posted by darkhorse_log

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