デザイン

「服は買わずにダウンロードして3Dプリンターで印刷」という時代が現実のものに


シャネルが3Dプリンターで出力した素材で服を制作したり、応用運動学に基づいて3Dプリンターで出力した服など、3Dプリンターを使った服作りが行われていますが、3Dプリント技術が進歩するにつれて「服を買いに行くのではなく、誰もが自宅で流行の服をダウンロードして印刷する」という未来が徐々に近づいています。

Forget shopping. Soon you'll download your new clothes - Danit Peleg - YouTube


デザイナーのDanit Pelegさんは、数週間の旅行に出かける際に、スーツケース1個だけでいろいろな場所を巡っているのですが、ある時に大事なイベントに参加するために特別な服が必要になったそうです。


スーツケースの中にはフォーマルな衣装を入れてこなかったPelegさんですが、幸運なことにイベントはテクノロジー系のカンファレンスだったので、会場で3Dプリンターを自由に使うことができたとのこと。そこでPelegさんは急きょPCでスカートをデザインして、、3Dプリンターでデータを読み込んで夜通しパーツを出力したそうです。翌朝、出力したピースをホテルの部屋で組み合わせて、1着のスカートが完成しました。


以下の写真でPelegさんが着用しているスカートが、実際に3Dプリンターで制作したもの。


バックスタイルはこんな感じで、言われなければ3Dプリンターで作ったとは思えないほど自然な仕上がりです。


Pelegさんが3Dプリンターで服を制作するのは初めてのことではなく、ファッションデザイン学校に通っていた学生時代にも3Dプリンターで服を作ったことがあるそうです。しかし、当時は3Dプリント技術について詳しい知識がなく、たった9カ月の制作期間で5着の服を作るのは至難の業だったとのこと。以下のイラストは、学生時代にPelegさんが描いた服のデザイン案です。


Pelegさんは家に大きな機械を持ち込んで服を制作するのが好きで、毎日新しい素材を試したり独創的なテキスタイルを作ったりしていたそうです。


また、Pelegさんは「古い工場や古着屋にある変わった素材を集めるのも好きだったため、自宅のリビングを巨大な機械や不思議な素材が占領していてルームメイトが迷惑がっていた」と当時を振り返ります。


そこでPelegさんは作業所を移して、編み機やレーザーカッター、シルクスクリーンなどさまざまな機械を集めて服の制作を行うことにしました。以下の機械は、自宅に置けないほど巨大な編み機。


こちらはレーザーカッターです。


夏休みにニューヨークのチャイナタウンにある服飾店でインターンシップを始めたPelegさんは、3Dプリンターを使ってドレスを2着仕立てました。


しかし、当時は服の素材に固いプラスチックを使っていたため、非常に壊れやすいという欠点がありました。


さらに、服を着た状態でイスに座ることが不可能だったり、プラスチックのトゲが肌に当たると引っかき傷ができてしまうという問題も抱えていたそうです。服の制作に3Dプリンターを使えば、デザイナーがイメージしている服の形をそのまま出力できるという大きなメリットがありますが、3Dプリンター自体が高価かつ巨大なので、費用も置き場所も工面するのが難しいというデメリットも持っていました。


インターンを終えたPelegさんは、インターンで服の制作に使用した業務用の3Dプリンターよりも安くて使いやすい家庭用の3Dプリンターの存在を知り、「家で3Dプリンターを使った服が作れるのでは?」と思いついたそうです。


お店に行くことなく、自分でデザインした服を自分で作るというアイデアを実現するため、Pelegさんは小さなワークスペースを探して3Dプリント技術について詳しく学び始めます。


そして3Dプリンターを使えるようになったPelegさんは、服の素材に適した3Dプリンター用フィラメントを探し始めました。PLA素材は固くて肌に引っかかりやすく、簡単に壊れてしまうことが分かっていたので、Filaflexという新しい素材を試したところ、出力したパーツが非常に丈夫かつ柔軟であり、服の素材に向いているとPelegさんは気付いたとのこと。


Filaflexは、以下のように力を込めて握っても壊れない、非常に柔らかい素材です。


このFilaflexを用いてPelegさんは赤いジャケットを制作。このジャケットのデータは誰でもダウンロード可能で、家庭用の3Dプリンターで同じジャケットを作ることができるようになっています。


着用中の様子は以下の通り。


ただし、家庭用3Dプリンターで出力できるパーツは非常に小さいので、多くのパーツをパズルのように組み合わせる必要があります。


組み立て中の様子は以下のような感じです。


さらにPelegさんは、一般的な衣服と同じように、模様付きの服を作ることを目指すことにしました。衣類用の模様をオープンソースで探し、3Dプリンターでパーツを出力して普通の布と同じように使える美しい織物を作ることに成功したとのこと。


パーツの色と組み合わせ方法によって、レースのような薄さとストライプ模様の布を作ることに成功。


このレース状の布を使ったスカートは、裾を持ち上げて……


ポトンと落とすと、地面に当たってバネのようにびよんびよんと跳ねるという、かなりの弾力性を持っています。


Pelegさんは3Dプリンターで服を5着制作するために、実に6台もの家庭用3Dプリンターを24時間動かし続けて、合計で1500時間(約62日)かかったそうです。


以下の5着が実際にPelegさんの制作した服です。


実際にモデルの女性が着ている様子は以下のような感じ。


ざっくりと大きい網目模様が特徴的です。


靴も、Pelegさんが自宅で3Dプリンターを使って出力したもの。


横から見たところ。


3Dプリンターの技術がさらに進歩すれば、もっと短時間で服を出力できるようになり、自宅でわずか2~3時間で自分の体形にフィットしたTシャツを作ることが可能になる、とPelegさんは予測しています。また、3Dプリンター用の素材も進化して、綿や絹のような見た目と手触りの布が作れるようになるだろうとのこと。


Pelegさんは、音楽がレコードショップではなくダウンロードで買うという方法に変化したように、服も同様に「流行のデザインを自宅でダウンロードする」という時代が来る、と語っています。

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in ハードウェア,   動画,   デザイン, Posted by darkhorse_log

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