シリア難民問題がなぜ起きたのかが見るだけで理解できるムービー「The European Refugee Crisis and Syria Explained」

By Global Panorama
2015年の夏に欧州難民危機が引き起こされ、ヨーロッパはシリア難民にいかに対処するかという問題に直面しています。そんなシリア難民問題はなぜ起きたのか、各国の難民受け入れ状況はどのように進んでいるのか、といった内容を見るだけで理解できるムービーが「The European Refugee Crisis and Syria Explained」です。ナレーションは英語ですが、YouTubeで日本語字幕を表示することができます。
The European Refugee Crisis and Syria Explained - YouTube
シリアの難民問題が起きた原因として、シリアの国内情勢が深く関わっています。

シリアでは、1971年~2000年のハーフィズ・アル=アサド、2000年以降をバッシャール・アル=アサドと、アサド政権による独裁政治が続きました。

そんな中、2010年から2012年にかけてアラブ世界で発生した一連の大規模反政府デモ「アラブの春」で革命の波が広がり、チュニジア・エジプト・リビアなどで多くの政治体制が倒されました。

一方で、アサド政権はこの反政府運動に耐え切り、シリアは内戦状態へ突入。シリア国内でヒズボラ、イスラム戦線(IF)、クルド人民防衛隊(YPG)、シリア政府軍、シリア反政府勢力など、さまざまな組織が争い始めたのです。

「イスラム国」(イスラミックステート、IS)はこれをイスラム教国家樹立の絶好の機会と捉え、活動を開始。

すぐさま、ISは世界で最も成功した暴力組織となりました。

ISは化学兵器の使用・大量虐殺・拷問などの戦争犯罪を繰り返し行っており……

シリア国民はさまざまな組織の対立で板挟みの状態に追い込まれました。

その結果、シリア国民の3分の1が国を追われ、400万人もの難民が発生。

シリアの近隣諸国にある難民キャンプでは、95%をシリア難民が占めています。

サウジアラビア、クウェート、バーレーン、カタール、アラブ首長国連邦、オマーンなどの、シリア南部に位置するペルシャ湾岸の国々は難民の受け入れを拒否。世界中から「恥ずべき行為」として非難を受けました。

しかし、国連にもこれほど大規模の難民を受け入れる準備はなく……

瞬く間に難民キャンプは大量の人であふれ返り、厳しい寒さや、不十分な食糧・医療で多くの人が死んでいきました。

「難民キャンプにとどまっても死を待つだけ」という状況に絶望した人々が、他国へ亡命する道を探し始めたのです。

2007年~2014年の間、EUは20億ユーロ(約2658億円)をかけて国境警備のハイテク化を進めて強化。

一方で、亡命する難民のための準備はほとんど行われなかったため、難民にとってEUへの亡命は厳しい見込みだったとのこと。

最初に難民が到着したのは、ダブリン協定の加盟国であるイタリア・ギリシャ・ハンガリーでしたが……

ギリシャは経済不況のまっただ中であるなど、いずれも少なからず問題を抱えていた国であったため、大量の難民受け入れはできない状態でした。

それでも難民が押し寄せてくるため、観光客でにぎわっていた島が飢えた人々で埋め尽くされ、地元民や観光客の不安も高まりました。

難民問題の対処には世界的な協力が必要とされていますが、実際には多くの国が受け入れ拒否を表明し、「隣国の窮状には我関せず」といった状態が続きました。

イギリスは地中海で難民希望者の援助を行っていましたが……

2014年を最後に中止してしまいました。

だからといって、危険な海路の亡命が少なくなったわけではなく、多くの人が命がけで海を渡って亡命先を目指しています。

そんな難民問題の世界の認識が大きく変わったのは、トルコの砂浜で3歳の難民少年の水死体が発見されたときでした。

実際に起きている悲劇に世界中が目を向けるきっかけとなり、ドイツは80万人の難民の受け入れを宣言。

単独で前年のEU全体が受け入れた難民数を超える人数の受け入れを準備しました。

ドイツは一時的な国境管理をスタートし、EU諸国で問題の対処を求めました。

ドイツの決断により、食糧や衣類などの物資が寄付として集まり始めています。

しかし、難民の受け入れには「イスラム教」「出生率」「犯罪の増加」といった要因が懸念されていることも確かです。

事実はどうなのか見てみると、もしEUが全ての難民を受け入れ、全員がイスラム教徒だったとしても、EUのイスラム教徒人口は「4%」から「5%」になるだけ。

ヨーロッパが「イスラム教大陸」になる、ということはないため、「イスラム教」であることを理由なく恐れる必要はないとのこと。

西欧諸国の出生率はもともと低いのですが、難民を受け入れることで、将来的に難民が人口で上回るのでしょうか。

イスラム教徒の出生率の方が高いのは確かですが……

生活水準の向上に伴って、イスラム教徒の出生率もまた、低下傾向にあるとのこと。

また、国を追われてさまよっている難民は、すでに教育を受けた人たちです。

シリア内戦が起こる前からシリア人の出生率も低下しており、人口は減りつつあったこともわかっています。

そして「難民が犯罪を起こすのではないか?」という心配もありますが……

もともと移民の犯罪率は高くない、というデータがあるとのこと。

つまり、受け入れた難民に仕事を与える準備ができれば、労働力として社会的利益の増加も見込めるというわけです。

高齢化社会になりつつあるEU諸国において、社会の支え手になり得る可能性もあります。

シリア難民がスマートフォンを使っていることがニュースになっていますが……

ネットは難民にとって必需品であり、GPSで居場所を確認したり、Facebookで現地の最新情報を得たりすることも可能とのこと。

もしあなたが危険な旅に出かけるとき、スマートフォンは不要でしょうか。

EUは裕福な地域で、民主主義・充分な社会保障・インフラ・巨大産業などの条件からから「難民を救う力がある」といえます。

しかし、それはほかの先進国にも言えること。

ヨルダンは60万人の難民を抱えていますが、ヨルダンの78倍のGDPを持つイギリスでも「5年間で2万人の難民を受け入れる」と発表している状態。アメリカ・オーストラリアでも受け入れを表明している数は1万人です。なお、日本がこれまでに受け入れた難民の数は3人です。

ゆっくりと、世界中の国が難民受け入れに前向きな姿勢を見せていますが、充分ではないことも事実。

「難民は、ほとんど私たちと変わりない人たちです」

国が前向きに受け入れて、社会に取り込むことができれば、多くの利益を生む可能性もあるわけですが、「無視すれば、何かを失うだろう」とナレーションは語ります。

誰しも、浜辺で力尽きた少年を再び見つけたくはないはずです。

ムービーを作成した教育・科学・商業系動画制作スタジオのKurzgesagtは「できる限り正しいことをしよう」と訴えています。

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