昆虫サイズなのに空を飛んだり水中を泳いだりが可能なロボット「RoboBee」
生物には自身の何倍もの重さのものを軽々動かすものや、100度以上の気体を爆発的に噴射させるという能力を持ったもの、1日に100km以上の距離を大移動するものなど、人間よりもはるかに小さい体に驚異的なパワーを秘めたものたちが多々存在します。そんな自然界の生物を模したロボットは多数存在しますが、新たに空を飛んだり水中を泳いだりすることが可能な昆虫サイズのロボット「RoboBee」をハーバード大学のマイクロボット研究所が開発しました。
Dive of the RoboBee | Harvard John A. Paulson School of Engineering and Applied Sciences
http://www.seas.harvard.edu/news/2015/10/dive-of-robobee
SFなどで水中と空中の両方を自在に動き回る乗り物が登場することがありますが、空中を移動する乗り物には揚力を生み出すための巨大な翼が必要となるのに対して、水中を移動する乗り物は抵抗を最小限にするために表面積を小さくする必要があります。このように水中と空中を移動する乗り物を生み出すには2つの相反する条件を同時に満たす必要があり、これは非常に難しいこととされてきました。
これを解決してしまったのがハーバード大学のジョン・ポールソン博士。ポールソン博士が着目したのは、海鳥の一種である「ツノメドリ」です。このツノメドリは自然界の中で最も水中と空中の両方に適応している生物といっても過言ではなく、何と2枚の翼を使って空中を飛び回るだけでなく、水中を泳ぐこともできます。
By Tony Smith
ハーバード大学のマイクロボット研究所でポールソン博士と研究を続けてきたケビン・チェンさんは、「さまざまな理論と計算をもとに実証実験を繰り返し、我々はついに鳥が羽ばたくことで推進力を得るメカニズムを解き明かしました。これは、空中でも水中でも非常に似通っています」と語ります。続けて「両方の事例(空中と水中での移動時)で、ツノメドリは翼を前後にパタパタと動かしています。違いは、翼の動くスピードだけでした」とコメント。
研究チームは、この発見を小さなロボットに応用することで空と水中を自在に動き回ることのできるロボットRoboBeeを開発したわけです。そんなRoboBeeが実際に動いている様子は以下のムービーで見られます。
RoboBee: From Aerial to Aquatic - YouTube
これがRoboBee。蚊の羽のようなものが2つ搭載された、ロボットというよりは竹とんぼか何かのような見た目をしています。
RoboBeeはまさにこの瞬間に空を飛んでいるそうですが、2枚の羽を大きく動かしたりすることはありません。
しかしよく見ると、非常に高速で翼を動かして空を飛んでいる様子。ふらふらと前後左右に空中をさまよっています。
赤枠部分にあるのがRoboBee。
これがふわふわ漂いながら……
着水してしまいました。
そのまま沈んでいくRoboBee。
水に沈んでしまったRoboBeeですが、最新の羽ばたきテクノロジーを駆使することで、なんと水中を泳ぎ回ることが可能。
そしてぷかぷか浮かび始めました。
アップでRoboBeeが泳ぐ姿を見るとこんな感じ。
プカー
空を飛んでいる際には微動だにさせなかった羽を鳥のようにパタパタと動かして水中を移動します。
RoboBeeはペーパークリップよりも小さなサイズですが、昆虫のように空中を浮遊します。RoboBeeが空を飛んでいる様子を見ても、2つの羽が動いていることは肉眼では確認できませんでしたが、実際には毎秒120回の超高速で羽が振動しているそうで、これにより揚力を生み出している模様。
また、RoboBeeは非常に小さくて軽いため、開発当初は水の表面張力を破って水中に入ることができなかったそうです。しかし、これを克服するためにRoboBeeは入水角度を調整してから羽の動きを止め、水面にぶつかることで水中に侵入することができるようになっている、とのこと。ムービーで見るとただ落水しただけに見える場面も、実際にはさまざまな計算上に成り立った「これしかない」というアプローチだった模様。
これでようやくRoboBeeは水中に入れたわけですが、水の重さは空気の約1000倍あるので、水中での羽ばたき速度を空中でのものと同じにしてしまうと、羽が簡単に折れてしまいます。そこで、1秒間の羽ばたきを120回から9回にまで落とすことで水中での移動も可能になっている、とのこと。なお、RoboBeeは水中を泳ぐ際に羽の角度を調節することで泳ぐ方向を変えるそうです。
RoboBeeから伸びているコードは本体と動力源をつなぐもので、特殊なコーティングにより水中でのショートを防いでいる模様。ただし、現在のところ空中から水中への移動は可能ですが、水中から空中への移動は不可能で、これは「水中から出る際に必ず羽が1本折れてしまうから」だそうです。
この研究についてチェンさんは「最も刺激的なことは、この研究の『羽ばたき移動』に関する分析成果が、昆虫サイズの乗り物に制限されるわけではない、という点です」とコメント。手のひらサイズの昆虫からメートル級の鳥まで、さまざまな生物が羽ばたき移動を行っているわけなので、人間が乗り込めるくらいに大きなサイズのものが将来的に登場する可能性も十分にあります。
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