持ち運び可能で太陽光でも最大8km圏内にラジオを放送できるFM放送局「Pocket FM」
発展途上国や紛争地帯のようなインフラが整備されていない地域では、ラジオ放送が新聞・テレビ・インターネットよりも重要な情報源や娯楽として利用されています。そのため、ラジオ放送局が災害や戦争などで情報発信を停止することは住民の生命に関わる問題なのですが、片手で持ち運び可能で、太陽光で動作でき、最大で半径8kmにFM電波を発信できるFMラジオ送信機「Pocket FM」が発展途上国・紛争地帯向けに開発され、実用化を目指してシリアとタンザニアでベータテストが始まっています。
Pocket FM
http://www.pocket-fm.com/
Pocket FMは扱いやすいインターフェースで誰でも簡単に操作できるよう設計されており、バックパックなどに収納できる靴箱サイズで、太陽光パネル・コンセント・発電機・自動車用バッテリーなどの電源で動作します。
どんなアンテナと接続しても電波を発信でき、ヘッドホン端子付きの再生機器を接続したり、USBメモリを接続して音源として使うことが可能。衛星ラジオ放送の受信機も内蔵しています。ラジオ放送局の設備が使えなくなっても、ある程度の準備があれば野外でもラジオ放送を発信できるようになっています。また、Pocket FMはPINロックで保護することができるため、安全に使用可能。周波数が見つからない場合は自動的に新しい周波数を検知する機能を持ち、リスナーはRDSで放送を発見できるほか、RDSに短いメッセージを表示することも可能です。
インターフェースはこんな感じ。画面には電波の周波数や、現在の電力消費量(ボルト)が表示され、電力インジケータ・電波インジケータ・物理ボタンがついています。
Pocket FMを開発したのは紛争地帯の問題に取り組んでいる「IXDS」と「MiCT」という2つの組織で、1台あたりの開発コストが2万5000ドル(約300万円)かかっていたところ、共同開発によって5000ドル(約60万円)ほどまでコストを下げることに成功しています。
通信・輸送・電力インフラが破壊された状況でも、ラジオ放送を可能にすることで、危険地帯や発展途上国で暮らす現地住民、現地で働くジャーナリストやNGOを支援することを目的としています。Pocket FMは故障しても現地で修理が行えるように、可能な限りどこでも調達できる部品で構成されているとのこと。
すでにベータテストとしてタンザニアや、シリアの「Syrnet」で運用が開始されており、実際にPocket FMを運用している様子を収めたドキュメンタリームービーも公開されています。
Syria Radio Network - YouTube
なお、記事作成時点のPocket FMは「Version 2.0」ですが、次回のアップデートでFMラジオ送信機の安定性の向上させ、発信半径を10kmまで広げる予定。さらに今後はGSM・3G回線を通じたインターネット接続や、クラウドを通じた遠隔操作システムの提供も予定されており、複数のPocket FMを連携させることや、連携端末のネットワーク内で壊れている端末を識別できるようになるということです。
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