「ゼルダの伝説」などのゲーム音楽が観客減のオーケストラを救う

オーケストラが奏でるクラシック・コンサートのチケット販売枚数は、アメリカで過去10年以上にわたって年間2.8％ずつ減少する傾向にありました。そんな中、「ゼルダの伝説」のようなゲーム音楽が本格的なオーケストラのコンサートで演奏されるようになりつつあり、普段のクラシック・コンサートと比較して2倍以上の人数を動員するほどの人気を呼んでいます。

How Videogames Are Saving the Symphony Orchestra - WSJ
http://www.wsj.com/articles/how-videogames-are-saving-the-symphony-orchestra-1444696737

2015年9月にアメリカ・フィラデルフィアにあるMann Center for the Performing Artsで行われたオーケストラのコンサートで、演奏者のFrancesca Buchalskiさんは任天堂のゲームシリーズ「ゼルダの伝説」のキャラクターであるリンクの服装で登場しました。

ゲーム音楽のコンサートでは、トランペット・ハープなどの管楽器やコーラスを含めたフルオーケストラでゲームのテーマ曲などが演奏され、演奏隊のバックでは大きなスクリーンにゲームのプレイ映像が音楽と同調して映し出されるとのこと。演奏者たちだけでなく、観客もドラゴン・王妃・魔法使いのコスチュームに身を包み、演奏は花火で締めくくられるという、これまでにないオーケストラのプログラムが行われています。アメリカの複数の交響楽団で音楽監督を務めるアンドリュー・リットンさんは「もはやベートーヴェンを演奏するだけでは、オーケストラの席に座り続けることは難しいでしょう」と話します。

By Sathish J

Mann Center for the Performing Artsでは2012年からゲーム音楽のオーケストラコンサートが開催されており、平均して6500人を動員するクラシックコンサートに対して2倍近くの人数を集客しているとのこと。高まるゲーム音楽のオーケストラの人気は、アメリカにおけるオーケストラのチケット販売枚数の低下を防いでおり、ナッシュヴィル交響楽団のラリー・タッカー副社長は「2010年にナッシュヴィル交響楽団が経済的に苦しかった時、ゲーム音楽がなければ借金をしていたでしょう」とコメント。

タッカー氏は「ゲーム音楽のないシーズンは考えられません」とも述べており、ナッシュヴィル交響楽団のある公演では、チケット以外にアクション・フィギュア、ポスター、Tシャツなどの物販売上が1万3000ドル(約155万円)を超えるそうです。通常の公演では2000～3000ドル(約24万～36万円)を売り上げるだけでも高額な売上にあたるとのこと。「ポケモン」のコンサートでは演奏者の横にピカチュウのぬいぐるみがセットされていたり、聴衆が演奏に合わせて歌うことがあるなど、これまでにないユニークなコンサートが開かれているわけです。

オーケストラによるゲーム音楽のコンサートは1980年代の日本から始まり、2000年初期にはヨーロッパの数カ所で行われるようになりました。コロラド交響楽団は「ギーク・シリーズ」という名目で「Banner Saga」や「ゼルダの伝説」などのコンサートを行っており、実際に行われた「ゼルダの伝説：女神のシンフォニー」の公演は以下のムービーから見ることができます。

Zelda: Symphony of the Goddesses: Second Quest-Toronto 2013 *FULL CONCERT* - YouTube


古典的なクラシック音楽のファンからは、全く異なるゲーム音楽を伝統あるオーケストラが演奏することに対して「ブランドの価値を下げてしまう。安価なサングリアを売るために高価な年代物のワインを開けているようなものだ」という意見も出ていますが、ゲーム音楽のコンサートを経験したことで「初めてクラシック音楽に興味を持った」という若者も登場しています。ゲーム音楽が新しい集客を呼んでいるのも事実であるため、オーケストラに転換期が訪れているのかもしれません。