サイエンス

体外から神経を刺激し、てんかんやうつ病を治療する注目を集める治療器具とは?


脳神経に関連した疾患の治療法の1つに迷走神経刺激治療というものがあります。英語ではVNSと呼ばれる迷走神経刺激治療は、胸に電気刺激発生装置を埋め込み、そこからリード線を伸ばして首の部分にある迷走神経に巻き付けて刺激を与え活性化させるというもの。装置を埋め込むため治療には手術が必要なのですが、アメリカのElectroCore Medicalというスタートアップが埋め込まないタイプの装置「gammaCore」を開発し、業界から大きな注目を集めています。

gammaCore
http://gammacore.com/

The Vagus Nerve: A Back Door for Brain Hacking - IEEE Spectrum
http://spectrum.ieee.org/biomedical/devices/the-vagus-nerve-a-back-door-for-brain-hacking/

迷走神経刺激治療は、1997年にアメリカで承認され、主に突然意識を失ってしまう難治性てんかんやうつ病に対する治療法として日本でも認可されています。一度の治療で済むのではなく、数年間ほど治療を続けるとてんかんの発作を抑えることができるとのこと。また、てんかん以外にも注意力や集中力、記憶機能、言語機能の改善が認められるケースもあり、副作用として変声や喉頭炎といった症状がでることもあるそうです。

By cobalt123

胸の皮下に装置を埋め込んで迷走神経に一定間隔で電気刺激を送る迷走神経刺激治療には手術が必要で、およそ10万円ほどの費用がかかります。体に負担は少ないとされているそうですが、注射を打つような感覚で行えるようなものではありません。

また、装置はバッテリー駆動式で、その寿命は約6年間。電池が消耗したら交換するのに手術をする必要があります。さらには、MRIの撮影時に装置の電源をオフにする必要があるなど、数年間装置を体に埋め込むことで発生するデメリットもあるため、てんかんやうつ病治療で最初に選ばれる治療法ではありません。

スタートアップのElectroCore Medicalが世界で初めて開発したのは、手術を必要としない「gammaCore」と呼ばれる非侵襲迷走神経刺激装置です。この装置は首に押しつけて頸部の迷走神経に電気刺激を与えるというもので、開発当初は群発頭痛や片頭痛の新しい治療法として2013年に開催されたシンポジウムで注目を集めました。


gammaCoreはiPhone 6くらいの大きさなので持ち運びが可能。使い方も1日2回ほど首に2~3分間押しつけるだけで手術と比べればはるかに簡単。患者にgammaCoreを与える医師自身が、1回にどれくらいの時間電気刺激を与えるかなどを設定できるのもポイントです。患者が自己治療できる点以外にも、薬物療法と併用できる利点があります。

gammaCoreの値段は約200ドル(約2万5000円)から約400ドル(約5万円)くらいで、手術を行う迷走神経刺激治療よりも治療コストを大きく下げることができます。


大きな期待がかかるgammaCoreですが、片頭痛および他の頭痛の治療法としてヨーロッパの規制基準をクリアした一方で、アメリカではまだまだ数多くの臨床試験を行う必要があります。もし臨床試験の結果からgammaCoreの慢性疾患に対する正確な効果が認められれば、難治性のてんかんや偏頭痛、群発頭痛など多くの疾患の新しい治療法として採用される可能性があります。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「脳神経インプラント」「集中スイッチ」、人間の脳を改良する未来技術とは? - GIGAZINE

脳への電気的刺激で意識をスイッチのようにオン・オフできることが判明 - GIGAZINE

人間の脳細胞を持って賢くなった「半人間脳マウス」が誕生 - GIGAZINE

貧困は若い脳にどのような影響を与えるのか? - GIGAZINE

脳のリセットボタンを押して創造性を発揮させる方法 - GIGAZINE

ネットを介して脳に直接メッセージを送る実験が成功 - GIGAZINE

in ハードウェア,   サイエンス, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.