M・ナイト・シャマラン監督初のドラマ「ウェイワード・パインズ」について直接話を聞いてきた
映画「シックス・センス」や「アンブレイカブル」、「ヴィレッジ」などで知られる映画監督M・ナイト・シャマランが初めて挑むドラマシリーズ「ウェイワード・パインズ 出口のない街」の放送が、FOXチャンネルで全世界同時にスタートしました。原作小説がありながらも、予測不可能な展開はシャマラン監督らしい部分を感じる作品です。今回、シャマラン監督が来日するとのことだったので、ドラマのことについて、作品作りについて、いろいろと話を聞いてきました。
「ウェイワード・パインズ 出口のない街」|オフィシャルサイト
http://www.waywardpines.jp/
M・ナイト・シャマラン監督
Q:
原作小説は3部作で日本では第2部までが出ていますが、ドラマは原作のどこに相当するのですか?
M・ナイト・シャマラン監督(以下、シャマラン):
ドラマの第5話から第6話ぐらいまでが第1部「パインズ-美しい地獄-」に相当していて、後半は原作からは逸れる形です。
Q:
原作からアレンジを施したということでしょうか?
シャマラン:
実は、撮影し始めたときにはまだ「パインズ」しか出ておらず、後半はブレイク・クラウチ氏の執筆と同時進行になったので、参考にすべき原作がなかったのです。
Q:
ドラマは日本を含む125の国と地域で5月15日(金)から同時に放送がスタートしていて、初回放送の視聴者数は380万人、録画して視聴した人数をカウントすると3日間で倍になったとのことですが、第1話のどのあたりが人々を引きつけるクチコミのもとになったと感じていますか?
シャマラン:
第1話はパズルを組む第一歩なので、どれだけ視聴者に謎があることを明かすのか、謎の存在をどれだけ隠しておくのかというバランスの問題になってきます。例えば、「ウェイワード・パインズにはコオロギがいない」とか、5週間前に会ったばかりなのに「町に12年いる」とか、事件が起きているはずなのに保安官が悠長にアイスクリームをなめているとか……こうした謎は、堂々と提示されていることによって「解明される」という約束ができているので、どうなるのか見たくなるのが人間心理なのでしょう。実は、パイロット版では「ここも明かしてしまおう」という謎を入れていたのですが、見直してみると「これは情報過多だ」と思ったので、第3話の冒頭へと移動させたものがあったりします。
Q:
「スペシャルエージェントが奇妙な町の捜査を行う」という形式は「ツイン・ピークス」などいろいろな作品で見られますが、シャマラン監督が原作に惹かれた理由があれば教えて下さい。
シャマラン:
確かにそういう形式だとも言えますが、私の見解をフラットに述べると、ちょっと違います。たとえば車を運転していてガソリンが尽きそうになり、小さな町にたどり着いて「ガソリンスタンドはない?」と場所を尋ねたら「え?ガソリンスタンドが欲しいのかい?」という変な答えが返ってくる……。奇妙ですよね。これによって、急に恐怖が募ってきます。日常の中の異常性により、無力感が恐怖になってくるんです。誰も知らないような場所にたどり着いてみたら、みんなの動きが何だかおかしい、そういう恐怖こそが魅力だと、私は捉えています。
Q:
過去のSFでもこういった「奇妙な町に迷い込む」「周囲の人々が以前とは別人のような振る舞いを見せる」という作品はありますが、そういった設定がお好きだというわけではないのでしょうか。
シャマラン:
1つのジャンルに縛られるのが好きではないんです。この作品はずっと見ていても、どういったジャンルの作品なのか明かされるのかは後半です。だから「ツイン・ピークス」のように見えつつも、「でも、何のジャンルだろう?」と惑わされる人が出てきます。そういった「視聴者の主導権を奪う」ということが面白いんです。もともと、私は色んなジャンルをミックスすると面白いのではないか、合わないジャンルはないんじゃないかと思っていました。今年の秋に公開される予定の私の新しい映画「The Visit」も、ホラー映画でありながらすごく面白い作品になっています。共存するのは難しそうに感じるものでも、あり得るんです。
Q:
以前に別のインタビューで「私の片足は“私”という芸術性に、もう片足は娯楽性に立っている。私は戦っているのです。」「よりチャレンジングで複雑な作品を作りたい欲求が湧いています。つまり“私”に偏りつつある。ですが、娯楽性を犠牲にしたくはないのです。これがいまの私のなかでの戦い。」と答えていましたが、芸術性と娯楽性を両立させるため、どのようなことに気をつけていますか?
シャマラン:
まさに、その両面をこの作品の中に見出したからこそ、話をもらったときに「YES」と言いました。哲学的な要素というのはなかなか最初のうちは見えてこないので、前半はエンタテインメントの要素を強く楽しんでもらえます。しかし、全話見終えたときには哲学的なテーマみたいなものが見えてくるので、作中で組み立ててきた細部の意味というものが際立ってきて、面白さが増すんです。
Q:
だんだん後半に向かうにつれて娯楽性以外も見えてくる?
シャマラン:
その通り。実は第1話からエンタメ以外の要素もありますが、みなさんが気付いていないだけです(笑)。それがだんだんと表面に出てくる、ということです。
Q:
こうした長編のテレビシリーズに本格的に参加してみて、映画との違いはありましたか?
シャマラン:
もちろん時間的な問題として、テレビシリーズの方が制作に時間がかかりますよね。でも、すべてのエピソードで自分が監督したわけではないので、おかげでその間に映画を撮ることができました。と同時に、「なるほど、そうなるのか」という面白さも感じました。昔から、他の監督が撮ったらどうなるんだろう、自分と他の監督と2つのバージョンがあると見る人も面白いのではないかと、と考えてきました。例えば「ライフ・オブ・パイ / トラと漂流した227日」は私が撮る予定でしたが、最終的にはアン・リー監督が撮ることになりました。そうすると、私が考えていたビジョンとは異なる作品に仕上がっていて、「これは面白い」と思いました。今回、「ウェイワード・パインズ」ではそのときの感覚が蘇りました。脚本を各話の監督に渡してみたら、自分の中にあったビジョンとは違うものになったからです。それぞれの方向性については納得しています。
Q:
今回「ウェイワード・パインズ」を作ってみて、今後の作品に活かせそうな発見はありましたか?
シャマラン:
それはもうたくさんたくさん、たくさんありました。たとえば、ドラマの撮影では、どんどん次を撮影していかないといけないので、シーンの撮影が終わったからといってプレイバックを見たりしないんです。でも、映画だと撮って確認して、ダメならまた撮って確認して……という手順を繰り返すので、とても時間がかかっていました。もともと、テレビは制限の中で作らなければいけないので、特定のショットを狙って撮りに行く必要があります。それが10話分ありますが、たとえば見直してみて2話目・3話目あたりで「これが足りなかった」と思う部分があったら、5話を撮影中の監督に「こういうのを撮ってくれる?」と連絡して、あとから素材を差し込むことができます。
「The Visit」ではこのやり方を導入して、できるだけ早く撮って3週間の休憩を挟み、その間に編集を行って、休憩が開けたらまた撮影、というスケジュールにしました。その場で撮り直すのではなく、編集作業の中で足りないと感じたり、うまくいっていなかったと思った部分を撮り直したり、別の方向から撮ったりしたんです。すると、まるでズルでもしているみたいにうまくいきました。テストで答案が返ってきてから「この答えは間違いだから、こうしよう」と書き換えたような感じです(笑)
Q:
今おっしゃった、撮ったものを見返さないというのは古典的な映画の作り方に近いのかなと思いますが、監督はどうお考えですか?
シャマラン:
脚本を書く人間として、自分の生まれが遅かったことを残念に思うことがあります。それは、脚本を書くときにタイプライターではなくPCを使うからです。PCだと一字一句、書きながら編集することができますが、タイプライターだとそうはいかず、基本的には意識の流れのままに書き続けることになります。そうすると、書いていることへのコミットメントがはっきりと出てきます。これは、今の映像の撮り方と昔の撮り方に似ているかもしれません。プレイバックを見て変更して……というのは今のやり方であり、プレイバックを見ずに勘で撮り進めていくというのが昔のやり方ですから。
Q:
原作の第3部の内容まで把握した上で、あえての質問です。この「ウェイワード・パインズ」は「実は原作を書いていたのはシャマラン監督だった」や「M・ナイト・シャマランが監督するということ自体が1つのトリックである」と言われても信じてしまいそうな作品ですが、数々の作品で脚本・監督を手がけてきたシャマラン監督として、この作品の面白く興味深かったところはどこですか?
シャマラン:
まずは「ツイン・ピークス」的な雰囲気があるところ、そして謎解きが行われたときとの対比がエキサイティングなところです。これならできるという自信を持たせてくれました。その謎も、これまでに自分が手がけたことのないような壮大なスケールだったので、すごく魅力を感じました。
Q:
なるほど。ありがとうございました。
「ウェイワード・パインズ 出口のない街」はスカパー!FOXチャンネルで毎週金曜22時から放送中。リピート放送は金曜26時・土曜7時・土曜19時・月曜18時・水曜10時30分・翌金曜8時です。
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