熊本駅高架化で実現するかもしれない熊本市電延伸計画を見てきた
3月14日(土)に北陸新幹線が金沢まで開業したり、中央新幹線(リニア中央新幹線)が2027年に東京~名古屋間で開業予定だったりと、鉄道は人の移動を支える大動脈として広く利用されていますが、地方では経営が苦しいケースも多々見受けられ、4月1日(水)から近鉄内部線・八王子線が公有民営方式の四日市あすなろう鉄道による運営に移行します。
そんな中でマニフェストの1つに市電の路線延伸を掲げた候補が新市長になったのが熊本市。過去にも何度か延伸の案はあったものの実現はしていませんでしたが、今回の案はどういったものなのか、ちょうど熊本駅の高架化も進められているということだったので見てきました。なお、撮影は3月上旬なので、在来線一部高架区間が開通した2015年3月14日以降とは事情の異なる部分があるかもしれません。
熊本市交通局ホームページ
http://www.kotsu-kumamoto.jp/
熊本)市電延伸へ調査費計上 熊本市長が方針:朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/articles/ASH1545HSH15TLVB00Y.html
◆西側への延伸案
まずはJR熊本駅に到着。これは新幹線口のある西側で、2階のガラス張りの向こう側が九州新幹線のホームです。
九州新幹線の改札口。隣り合ったところに在来線の改札口もあります。
地下通路をくぐって駅の東側へ抜け、歩道橋を上がりました。中央が熊本市電の熊本駅前電停、右側がJR熊本駅。
JRを降りて東口を出ると、そのまま雨に濡れることなく市電に乗れるような作りになっています。
延伸計画と同時に、高架化後のJR熊本駅の地平部分に熊本駅前電停を移設してトランジットモール化する案もありましたが、これは危険だということもあって中止に。現在の乗換でも相当便利な方です。
ちょうど市電の新型車両「COCORO」に乗り合わせる機会がありました。
超低床車で、乗り場と車内の高さはほぼフラット。
さらに、内部もほぼ段差がなく、車いすやスーツケースを持った人でもスッと乗り降りできます。
座席は向かい合わせで、観光にはピッタリ。
いかにも新しい運転台。
市長による市電の延伸計画は、現在西側の終点となっている田崎橋電停から高架化したJRの下をくぐって卸売市場方面へ伸ばす案と、東側の終点となっている健軍町電停から近くの自衛隊、ないしはさらに東の沼山津(ぬやまづ)方面へ伸ばすという案の2つ。
まずは西側の方から見ていくことにします。熊本駅前電停の次は二本木口電停。
電停の目の前は熊本地方合同庁舎です。
その先が田崎橋電停。
振り返ると、二本木口電停に白い電車が止まっているのが見えるぐらいの近さ。
ここで線路は途切れています。
かつては道路中央にあった電停を移設したので利便性が向上しています。
計画では、ここから線路を西(写真左手側)へ伸ばすことになっています。
Googleマップで見るとこんな感じ。田崎橋電停の南側に田崎本町交差点があって県道28号が東西に走っています。
県道28号線はこのように西へ向けて陸橋になっていて……
かつてはまっすぐJRを越えていましたが、今は写真奥に見える緑色の右カーブにつながっていて、ぐるっと迂回するルートになっています。
これは、正面に九州新幹線の高架ができたためです。
そのため、歩行者は踏切を横断できますが、車は九州新幹線の高架と在来線との間に作られた道を使って北側へ迂回させられています。
熊本駅新幹線口にあった、区画整理事業前の熊本駅周辺を示した写真を見ると……
まだ切断される前の田崎陸橋が写っています。
これはJRを渡った西側からカットされた陸橋の方を見たところ。写真中央、重機の向こうに、左側へ曲がっていく迂回路と、陸橋の切断面が見えています。
もうちょっと引いたところはこんな感じで、すでに陸橋は取り壊され整地されています。
くまモンがあちこちで活躍中。
このまま県道沿いに西に進むと……
「イオンタウン田崎」があります。
総合診療クリニックなどが2015年春にオープン予定だとのことなので、市電で来られるようになれば便利かもしれません。
その西側にあるのが熊本地方卸売市場。
市場利用者の多くは車で来ていました。
以前であれば、市電を西へ延伸するためには地平を走るJRを越える必要があり、陸橋上に軌道を敷設するか、新たに市電用の跨線橋を作る必要がありましたが、JRが高架化されれば延伸コストを抑えられるのではないかということで改めて検討されることになりました。今後、JRの東側に残った陸橋も取り壊すはずなので、そのときに道路の敷き直しと軌道敷設を同時に行えば、JRをくぐるところまでの延伸は、やろうと思えば容易にできそうな感じがします。
ただ、そこより西側は道路が2車線に減少するので、いかに線路を敷設するかで苦労しそう。また、28号線を道なりに走っていった先に産交バスの西部車庫があって、かなりの本数が確保できているため、わざわざ市電にする必要があるのか、という点にも疑問があります。なお、さらなる延伸候補先としては市場から南に1km以上離れたアクアドームくまもとの名が挙がっているほか、熊本経済同友会では市場から南西に8kmほど離れた熊本港を候補としていますが、さすがにこれは遠すぎるという印象です。
◆東側への延伸案
今度は熊本駅から健軍町へと移動します。市立体育館前電停を過ぎるまでは、車道は片側3車線あるのですが、県庁通りが分かれると片側1車線にまで減少します。
そのまま、健軍町電停に到着。
田崎橋電停と同じく、乗り場と降り場が分けられていて、終端部は単線になっています。
健軍町周辺の地図はこんな感じ
降りたらすぐ目に入るのがピアクレス。
戦時中、まだ市電がここまで来ていなかったころに三菱重工業の戦闘機工場があって、その跡地に公営住宅や自衛隊が作られて宅地化しました。ピアクレスは昭和29年ごろにできたアーケードです。
電停の先は片道2車線の道路が続きますが、延伸すれば道路を片側1車線に削って軌道を敷設することになります。
この先で北上する「自衛隊ルート」だと、税務署や陸運支局などへの交通の便が良くなります。
道路も歩道・車道とも広く中央分離帯まで設けられているので、以前延伸案が出された時には、中央分離帯を削って軌道を敷設し片側2車線を維持するか、中央分離帯を残したままで片側1車線にするかという2案が出ていました。
一方の「沼山津ルート」は、健軍町からずーっと東へ進んで……
道路が片側2車線から片側1車線に減少するところまで延伸する、という案です。
近くには小楠公園という、横井小楠を記念した公園がありましたが、これという施設のある場所ではありません。
自衛隊ルートにせよ沼山津ルートにせよ、東側への延伸は最終的にはグランメッセ熊本、そして熊本空港を目指すことになります。
健軍町電停からグランメッセまで車で移動した場合のルートを出してみました。このうち、東区役所の西側を通っているルートなら「自衛隊ルート」、桜木中・桜木東小の西側の道(県道232号)を通れば「沼山津ルート」に該当します。
ということで、グランメッセ熊本まで来てみたのですが……
とにかく「遠い」というのが第一印象。
九州自動車道の益城熊本空港インターチェンジに隣接しているので便利といえば便利です。ちなみにこれは東側を向いて撮っていて、西側は九州自動車道で遮られて遠くが見えませんが、ジョイフルやスーパー銭湯、ショッピングモールがあります。
バスのダイヤはちょっとむらがありますが、おおむね20~30分に1本ぐらいのペース。空港リムジンバスなので、市内までは40分ほど。市電だと健軍町から熊本駅前までが40分ほどなので、もし延伸するならスピードアップは不可欠です。
グランメッセまで来た時点で「空港まで市電を延伸する」というのはあまりにもドリームすぎるということには気付きましたが、念のため、空港まで行ってみることにしました。驚いたのは健軍町からグランメッセまではまだロードサイド型の店舗を見かけたのに対して、グランメッセを通り過ぎるととたんに周りに何もなくなったこと。
何にもないまま空港に到着。「阿蘇くまもと空港」の愛称があります。
レンタカー会社の送迎車にくまモンが描かれていました。
熊本空港は1日の着陸回数が平均54回で全国で13位(2013年データ)、乗降客は年間約299万人で全国11位。これは、空港連絡鉄道がない空港としては鹿児島空港に次ぐ規模です。
ただし、延伸元として考えられている健軍町から空港までは直線距離でも約11kmあり、これが熊本駅前~健軍町間と同じ速度だった場合、2時間かかる計算になります。一方で、主要な連絡手段は熊本駅まで50分(800円)のリムジンバスしかないので、複数の交通手段を設けることには十分な意義があると言えます。
引き続き、今回の延伸案には含まれなかったものの、以前から何度か話題になっている上熊本駅での市電と熊本電鉄の結びつきの改善、および熊本電鉄藤崎宮駅周辺についても見てみます。
・つづき
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