母親の脳は自分の子どもとペットで類似した反応を示すことが明らかに

By Penn State

近年では人とペットとの共生関係についての意識が高まり、ライフパートナーとしてのペットの存在がさらに重視されるようになってきています。そんな中、アメリカで発表された研究結果では、人間の脳の中には自分の子どもとペットに触れ合った際に共通の反応を示す部位が存在していることが明らかにされました。

Mothers’ brains show similar responses to her baby and her dog | Harvard Gazette
http://news.harvard.edu/gazette/story/2014/10/mothers-brains-show-similar-responses-to-her-baby-and-her-dog/

研究を行ったのはアメリカ・ハーバード大学の関連医療機関であるマサチューセッツ総合病院の研究チーム。人間の女性が自らの子どもとペットの写真を見せられた際の脳内反応を観察することで、自分と子ども、そして自分とペットの関係をどのように認識しているかについての研究が行われました。

By Thomas Lillis IV

獣医学博士で、論文の共同著者でもあるマサチューセッツ総合病院・比較医学センターのLori Palley博士は「ペットは飼い主の心の中に特別な場所があるもので、臨床学的および学術的研究において、ペットとふれあうことによる身体的、社会的、健康面におけるメリットの存在が確認されています」と、ペットとの関係性を脳科学の分野で解明することを語っています。従来の研究からも、ペットと触れ合うことで脳内のオキシトシンなどのホルモンが増加することが明らかにされていましたが、今回は新しい脳イメージング技術によって、脳の中では実際にどのような動きが起こっているのかを知ることが目的とされました。

検証には2歳から10歳の子どもが一人以上、そして2年以上にわたって生活をともにしたペットの犬を一匹以上持つ女性が参加し、女性とペットとの接触、そして女性と子どもの接触によって生じる反応を比較する実験が行われました。研究チームは検証を2段階のセッションに分けて実施。最初のセッションでは、研究チームが被験者の自宅を訪れ、子どもやペットとの関係を尋ねるアンケート調査を実施。さらに自宅内でペットおよび子どもと一緒に写った写真が撮影されました。

続く第2セッションはマサチューセッツ総合病院の施設内で実施され、脳内の血流と酸素量を測定できるfMRI装置を用いて詳細な調査が行われました。被験者はfMRIのベッドに横たわり、まずは自分の子どもとペットの写真、そして次に他の参加者の子どもとペットの写真を見せられ、それぞれの時に起こった脳内の反応を測定しています。

By Janne Moren

一連の検証にはあわせて16名の母親が参加し、そのうち14名のデータをもとに詳細な分析を実施。画像データを検証したところ、自分の子どもとペットの写真を見せられた際の脳内の反応には、部位によって類似点と相違点の両方が存在していることが明らかにされました。

以前から脳内で感情や認知、視覚処理などに関することがわかっていた複数の部位では、子どもとペットの両方の場合において活発な反応が見られた一方、つながりの感覚に関する黒質(SNi)や腹側被蓋野(VTA)といった場所では、子どもの写真を見た時に限って反応が高まったことが明らかにされています。逆に、顔の認知をつかさどっていると考えられる紡錘状回の部位では、子どもよりもペットの写真を見せられた際に反応が活発化しました。

この研究結果について研究チームのLuke Stoeckel氏は「データ数は限られていますが、今回の結果からは子どもおよびペットの写真を見せられた時に共通して活動を高める神経ネットワークが存在していることが明らかになりました」と意義を語ると同時に、見る対象によって反応する部位に変化が生じた原因について「子どもの写真を見たときに黒質および腹側被蓋野が活発になったのは、つながりの感覚をつかさどる分野のため、そしてペットの写真を見た時に紡錘状回が活発化したのは、ペットの場合は言語よりも外観による反応が強まっていることを示すものであると考えられます」と指摘しています。

By Daniele Oberti

今回の検証で用いられたfMRIで得られる脳内のデータは間接的なものであるため、将来的にはより直接的な検証が行われることが期待されていると同時に、サンプル数を増加して「子どもを持たない女性」「父親」「養子を迎えている親」、さらに「犬以外の動物」などにおいてどのような結果が出るのかを検証する必要があると指摘しています。