XPまであったゲーム「ピンボール」がWindows Vistaから消えた知られざる理由とは？

By henry9112

PCを爆発的に普及させる原動力の一つにもなったWindows 95には数種類のゲームがプリインストールされていて、「Hover！」や「ソリティア」、「マインスイーパ」に夢中になった人も多いはず。そんなゲームに含まれていたものに「ピンボール」があったのですが、実はWindows XPを最後に姿を消していました。なぜピンボールがWindows Vista以降は削除されてしまったのか、その経緯に携わってきたレイモンド・チェン氏がブログで明らかにしています。

Why was Pinball removed from Windows Vista? - The Old New Thing - Site Home - MSDN Blogs
http://blogs.msdn.com/b/oldnewthing/archive/2012/12/18/10378851.aspx

チェン氏はマイクロソフトで20年以上にわたりソフトウェア開発に携わってきた人物。なぜかマイクロソフトのチャック・ノリスと評されることもあるとのことですが、本人はやや不満に思っていると語っています。

Windows XPがリリースされた年のブログエントリーでは、Windows XPで関わった中で最もうまく行った仕事について「ピンボールのCPU占有率が100％に達さないように修正したこと」とすら語っていたチェン氏ですが、Vistaに搭載しないことを決めたのも本人だったとのこと。その理由はさまざまな臆測を呼び、「開発元のMaxis社とのライセンス契約が切れたからだ」などの声が挙がっていましたが、チェン氏は「どれも間違いだ」としてその詳細を語っています。

Windows XPを開発するにあたり、それまで使われてきた何百万行というソースコードを32ビット版から64ビット版へ移植する作業が行われました。64ビット版のWindows XPをリリースするための作業だったのですが、ここで問題が発覚したのがゲームの「ピンボール」で、64ビット版に移植されたピンボールにはバグがあることが判明しました。バグの内容はボールが壁などのオブジェクトを通り抜けてしまうという致命的なもので、ゲームがスタートして発射台にボールがセットされてもそのまま画面の端へと消えて一瞬でゲームが終了してしまい、まるでゲームとしての体を成さないものになっていたそうです。

By John Kannenberg

チェン氏のチームでは2名がこの問題に対処することになりましたが、このゲームのソースコードは何年も前に外部のサプライヤーが書いたものであり、マイクロソフトの内部の人は詳細を把握していないこと、しかもソース内にはプログラムの内容を記述するコメントが一切記載されていなかったため原因究明は困難を極め、ゲームを作る上で最も基本的な処理の一つである当たり判定について書かれている場所さえ見つけることができなかったとのこと。

原因究明と対処が必要な案件になったわけですが、これ以外にも何百万行というコードの移植作業を抱えていたチェン氏のチームには、付属のゲームが起こしているバグを解消するために数日かけて浮動小数点のエラーを見つける余裕などとてもなかったとのこと。最終的には役員クラスの判断を仰ぎ、その結果ピンボールはWindows Vistaから削除されることになってしまいました。

By Florence Ivy

最もオーソドックスなゲーム、しかもアメリカではなおさら人気があるというピンボールが姿を消してしまうのは、さぞかし心苦しかったことと推測されます。しかしその後、WindowsストアではWindows 8.1向けに無料のピンボールゲーム「Pinball FX2」がマイクロソフトからリリースされ、新たなピンボールとして復活しています。

Windows ストア の Windows 用 Pinball FX2 アプリ