サイエンス

スマホのカメラが可能にした秘匿性の高い暗号化通信の実現方法とは?

By Nokia Connect

安全なインターネット通信を確保するために広く用いられているのが「暗号化通信」で、その中では乱数列(乱数)と呼ばれる数字の文字列が重要な役割を果たしています。暗号の解読を難しくして秘匿性を高めるためには乱数列の精度を上げることが不可欠であり、そのためには精密で高価な機材が必要とされてきたのですが、ジュネーヴ大学の研究チームは比較的安価なスマートフォンのカメラをそのまま流用することで、非常に精度の高い「量子乱数列」を生成できることを明らかにしました。

[1405.0435] Quantum random number generation on a mobile phone
http://arxiv.org/abs/1405.0435

Quantum Random Number Generator Created Using A Smartphone Camera  — The Physics arXiv Blog — Medium
https://medium.com/the-physics-arxiv-blog/602f88552b64

この手法を開発したのはジュネーヴ大学で量子光学、量子通信の研究を進めるブルーノ・サンギネッティ(Bruno Sanguinetti)氏の研究グループです。


研究チームが用いたのはノキアが2011年から販売していた「Nokia N9」で、8メガピクセルのカメラを搭載していたモデル。この端末はOSにLinuxベースのMeeGo(ミーゴ)を採用していた「最初で最後」のモデルとしても知られています。


暗号化通信の秘匿性を高めるためには精度の高い乱数列を生成する必要があるのですが、このカメラを用いた手法では、カメラの光センサーが受光した光の粒子である「光子」の量を検知して乱数を生成します。スマートフォンに搭載されている光センサーは高性能化が進み、受光する光子の数を検知できるまでになっているのですが、まずは光源からカメラに向けて光を照射し、光センサーが受光した結果をデジタルに変換して乱数を生成するという仕組みになっています。このような光が放出されるという現象は量子的なものであり、そのタイミングや量を予測することは不可能であることから、精度の高い(ランダム性の高い)乱数列の生成が可能になりました。


インターネット通信などの通信の秘匿性を高めるためにデータの暗号化が広く用いられていますが、その暗号化の質を高めるためには暗号時の「鍵」として用いられる乱数列の精度が重要です。乱数列はその中に含まれる数字の並び方に法則性が存在しない文字列のことで、全く同じ内容の文字列を他人が生成することはほぼ不可能と言われています。そのため、「鍵」の内容を知らない第三者に対して暗号化されたデータの復元をほぼ不可能にさせることができます。

しかし、この乱数列は多くの場合がコンピューターによって生成されていることから、本当の意味で純粋な乱数であるとは言いがたい状況が存在しています。高度な演算を行うコンピューターであっても、突き詰めていけばその原理は誰かによってプログラムされたものであるために、純粋な意味で「予測不能」な文字列を作り出すことはできない、とするものです。


そのため、物理学の世界では本当に純粋な乱数(真性乱数)を生成するための手法が長い間に渡って研究されてきました。その答えの一つが量子物理を用いた量子乱数ジェネレーターと呼ばれる装置で、非常に高いレベルの乱数を生成することができることがわかっています。すでに実用化済みで市販もされている量子乱数ジェネレーターですが、多くの場合は複雑で価格が高価になっているのがネックになっていたのが現状。サンギネッティ氏の研究チームは、そんな装置をごく普通のスマートフォンのカメラを使って実現することに成功した、というわけです。

研究チームでは、N9に搭載されているカメラと宇宙観測にも用いられる高性能カメラ「ATIK-383L」の2台を用い、それぞれに緑色LEDから発せられた光を照射して検出される光子の量を計測しました。


その結果が以下のグラフ。上段のATIK-383Lが描いたグラフと下段のN9のグラフはほぼ同じ結果を示しており、スマートフォンのカメラを使って光子の数を測定し、乱数の生成を行えることが示されています。


ここで重要になってくるのが暗号の信頼性の高さということになってくるのですが、研究チームが試算したところによると、この技術を用いて生成された乱数の規則性を見いだすためには、演算を10の118乗回繰り返す必要があり、「これを1Gbpsの速度で計算させると、解析に必要な時間は宇宙が誕生してから現在までの『約150億年』を10の80乗回繰り返す必要があるということになります」として、暗号化の土台となる乱数列を高い純度で生成することができるという結論を示しています。また、研究チームは乱数の精度を検証するさまざまなテストを実施し、全ての試験で合格したことを明らかにしています。

この仕組みでは乱数を1Mbpsの速度で生成することが可能となっており、クレジットカード情報の暗号化はもちろん、メールや電話の通話そのものを暗号化することも可能であると研究チームは語っています。

世界に登場してわずか10年足らずで広く使われるようになったスマートフォンですが、今回はそのカメラが非常に良質な乱数を生成できることが明らかにされて、ほとんど予想もされていなかったであろう潜在能力を持っていることが判明しました。今後もどのような使われ方が考え出されるのか、楽しみにしたいところです。

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in モバイル,   ハードウェア,   サイエンス, Posted by darkhorse_log

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