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多くのファンを魅了しながら突然姿を消した謎の天才オーディオエンジニア「NwAvGuy」

By Rantes Aguirre

2011年ごろに海外のオーディオフォーラムに突然現れた「NwAvGuy」と名乗る人物は、その高い技術力をもとに的確な機器評価能力を誇示し、更には自ら開発した安価なオーディオ機器が周囲から非常に高い評価を得るなどして多くのフォロワーを集めていましたが、ある時点を境にぷっつりと消息を経ち、ファンの中ではさまざまな謎を呼ぶ事態になっています。

NwAvGuy: The Audio Genius Who Vanished - IEEE Spectrum
http://spectrum.ieee.org/geek-life/profiles/nwavguy-the-audio-genius-who-vanished

まるでマイクをたたくような、「トントン、トントン、これスイッチ入ってる?」とオーディオエンジニアらしい書き出しで2011年2月にスタートしたNwAvGuy(Northwest Audio & Video Guy)と名乗る人物のブログは、さまざまな音響機器の性能評価について取り上げることを目的としたもので、特に価格の安いポータブルオーディオやデスクトップオーディオ、そしてヘッドフォンなどのように、コストやサイズの制約がある機器を中心に扱って「客観的な測定結果と、主観的なリスニングの感想を結びつける」ことに重点を置いて活動が続けられてきました。

NwAvGuy: Introduction
http://nwavguy.blogspot.jp/2011/02/introduction.html


NwAvGuy氏は、音響機器を評価する唯一の適切な方法は「定量的ブラインドテスト」であると主張し、ブログ内でも数値的検証を取り入れた評価を実施。その結果、主観的評価では高く評価されていた高価なオーディオ機器が、実際には低価格の機器よりも低い能力しか持ち合わせていなかったことを明らかにして、オーディオ業界に大きな波紋を投げかけることになりました。


その評価手法などから高い技術力と能力を持っていると推測されるNwAvGuy氏ですが、活動範囲は既存の機器の評価に留まりません。自らオーディオ機器を開発することにも着手し、設計を全てオープンソース化したヘッドフォンアンプ「Objective 2(O2)」を完成させるに至ります。「本来は小型のイヤフォンを鳴らすために設計されたポータブルオーディオ機器でヘッドフォンを使っている人のため」に作られたヘッドフォンアンプは、約1万円程度の予算だとは信じられないほど高い音質を備えていることが評判を呼び、その名前は一気に広がりを見せることになりました。


オープンソースで設計図が公開されたこともあり、O2を自作する人が急増。ついにはアメリカのJDS Labs社やイギリスのEpiphany Acoustics社などのようにライセンス生産で製品化・販売を行う企業まで出現しました。JDS Labsの社長であるJohn Seaber氏はあまりの音の良さにほれ込み、「すぐに取り扱いを決めた」とその時の様子を語っています。

Seaber氏がライセンス契約についてコンタクトを取った際にも、NwAvGuy氏の正体が明かされることはありませんでした。そして驚くべきことに、契約にあたってNwAvGuy氏はO2の売上からは一切の金銭を受け取らず、唯一の条件として「オリジナルの状態を尊重すること」を要求。同氏はブログの中で「皆さんには、設計の帰属を含むライセンスを尊重していただきたい」と表明し、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスにおける「改変禁止」としてのライセンスが与えられることに。これは、多くのオープンソースプロジェクトが参加者に自由な改変を許可しているものとは異なり、一切の改造や派生製品の製作を禁じることを意味していました。

なお、2014年3月時点でもO2の設計図はネットから入手することが可能です。

Nwavguy O2 V11 Docs 30 Nov 2011.pdf - Google ドライブ
https://docs.google.com/file/d/0B52Awjeyc5zKMjRlYjlhNGItNGJlNC00ODlmLWIwM2MtNDI4ZWU4YWRjY2Y4/edit?hl=en_US&pli=1


その後もNwAvGuy氏は、カナダに拠点を置くYoyodyne Consulting社を率いるGeorge Boudreau氏と共同でDAコンバーターの「ODAC」を開発します。その時にもNwAvGuy氏は自身の秘密を貫き、その正体を明かすことはありませんでした。


開発した機材が高い評価を受け続けていたNwAvGuy氏ですが、2012年7月を境に突然活動を停止します。その理由や経緯は一切明らかにされておらず、全てが謎のまま同氏の消息はそれ以降一切伝えられない状態が続いています。

NwAvGuy氏が開発した機器はその後も形を変えずに生産が行われているのですが、同氏が姿を消したことが小さな問題を引き起こしたこともありました。ヘッドフォンアンプ「O2」に使用されていた電源端子を製造するメーカーが倒産し、代替の部品を搭載することになったために電子基板のアップデートが必要になったのですが、ここでNwAvGuy氏が設定していた「改変禁止」のライセンスが障害として立ちはだかったのです。さまざまな紆余曲折の末「オリジナルである製品のコンセプトを逸脱するものではない」として、部品をハンダ付けするために基板に開けられた穴の直径を大きくするという措置がとられ、O2の生産は継続されることとなりました。


交通事故にあったという説や一部では死亡説まで流れ、NwAvGuy氏が消息を絶った原因はさまざまな憶測を呼んでいますが、その裏では興味深い出来事が発生しています。NwAvGuy氏の名前が入ったドメイン「NwAvGuy.com」の登録は、同氏が姿を消した後にも更新が続けられており、2013年3月と2014年3月10日にも更新されています。


何らかの問題や事件に巻き込まれているとすれば更新は容易ではないと思われますが、複数回にわたって更新されている状況を考えると、同氏はそのような制限を受けていない状況にあると多くのメディアは推測していますが、天才エンジニアが謎の沈黙状態に入って約20ヶ月が経過した段階でのドメイン更新が何を意味するのか、同氏の活動再開はあるのか、海外のオーディオコミュニティでは人々の関心を集める状況が続いています。

なお、AmazonではJDS Labs社のO2が販売されているので購入することも可能になっています。

Amazon.co.jp: 国内正規品 JDSLABS Objective2 By NwAvGuy ヘッドホンアンプ JDS LABS: 家電・カメラ
http://www.amazon.co.jp/dp/B007RVW43Q

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in ハードウェア, Posted by darkhorse_log

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