メモ

かつて市場を制覇していたソフトウェアがその地位を失って凋落した理由とは

By Nick Royer

先人が「諸行無常」と記したように、いくら栄えていた者であっても何かのきっかけで勢いを失うことはよくあるものです。かつて出版業界で圧倒的な地位を築いていたソフトといえばQuark社の「QuarkXPress(クォークエクスプレス)」でしたが、2000年代に入った頃からはAdobe社の「InDesign(インデザイン)」によって大きく差をつけられる状況になっています。

How QuarkXPress became a mere afterthought in publishing | Ars Technica
http://arstechnica.com/information-technology/2014/01/quarkxpress-the-demise-of-a-design-desk-darling/


QuarkXPressは1990年代を代表するDTP(デスクトップパブリッシング)ソフトで、「Macで組む(ドキュメントを作成する)」といえばQuarkXPressを使ってDTPを行うことと同義とされていました。QuarkXPressを操作できないと仕事が来ないといわれていたほどで、その様子はまさに業界のデファクトスタンダードと呼べるものでした。デザイナーのデイブ・ジラードさんがDTPの世界に飛び込んだときがまさにそういう時代だったのですが、1999年に登場したAdobe InDesignが数年の間に業界地図を大きく塗り替えることになったのにはどのような経緯があったのか、ジラードさんが振り返っています。

◆OS Xへの対応遅れ
2001年6月、Appleは従来の流れを一変させるUNIXベースのOSであるMac OS X Cheetahを発表しました。Mac OS Xでは、DTPに非常に重要となるAppleScriptColorSyncが搭載されているのですが、QuarkXPressはこれへのネイティブ化対応に遅れをとります。Mac OS Xリリース後にアップデートされたバージョン4.1、それに続くバージョン5(日本未発売)と続き、対応が完了したのはバージョン6になってからで、その間ユーザーはバージョンアップの度にライセンス料を渋々払わされるという不満を抱えていました。さらにバージョン5の時には、当時のCEOだったフレッド・エブラヒミ氏が自ら「Mac版の市場は先細りである」としてMac版に満足できないユーザーはWindows版QuarkXPressに乗り換えるよう発言してユーザーの心象を悪くしたという出来事もありました。

By William Hook

◆InDesignの登場
市場を寡占するQuarkXPressに対してAdobeが挑む戦いはとてつもなく大きいものと捉えられていましたが、実際には想像されていたほどの困難には直面しませんでした。AdobeはQuarkの手法を踏襲するだけではなく、デジタルDTPが本来あるべき姿をユーザーに提供することに成功したのです。ジラードさんはその中でもいくつかのキーとなるポイントを挙げています。

◆1:ぶら下がりインデント
設定どおりにレイアウトされた紙面でも、人の目は錯覚によってレイアウトが崩れていると感じることがあります。下記のサンプルイラストでは、タイトルの「Thin & Pretty」の段落がほんの少し左に移動されており、その上に表示されているロゴや下の文面よりも「T」の横棒が数ミリ飛び出すようにレイアウトされています。これは、Tの文字形状による錯覚を補正するための調整となっているのですが、当時のQuarkXPressにはこの機能が実装されていませんでした。



下のイラストでは、文字「i」の「・」がレイアウト枠よりも少し飛び出している様子が確認できますが、この小さな差がレイアウトをより美しく見せるための工夫となって仕上がりに響いてきます。


◆2:OpenTypeフォント対応
文字コードにUnicodeを採用し、WindowsとMacなど異なるプラットフォーム間での互換性を持つOpenTypeフォントに対応したInDesignは、業務効率を上げることにつながります。

◆3:プレビュー機能
DTPの際には、実際の印刷面よりも広いワークスペースが表示されるため、ディスプレイで確認する際には最終の仕上がり状態とはやや異なる表示になっていましたが、InDesignでは余分な部分を省いて表示する機能を搭載。小さな機能ですが、実際の現場では重宝される機能なのです。

◆4:プレビューの正確さ
下図で顔が表示されている部分は、QuarkXPressのプレビュー画面と実際の印刷出力のイメージ。QuarkXPressがかなりかけ離れた結果になっているのに対し、InDesignではかなり正確なプレビュー表示が行われていることが確認できます。


◆5:透明部分のサポート
PhotoshopやIllustratorのようにオブジェクト内部の透明部分がサポートされ、表現の幅を大きく広げることに成功しました。

◆6:grepを使った検索/置換のサポート
UNIXベースのOSの利点を生かして、より高度な検索と置換が可能になる「grep」コマンドをサポート。


◆7:QuarkXPressファイルのサポート
QuarkXPressで作成したファイルに対応したことで、InDesignに移行するハードルを低くすることができました。

上記に挙げたポイント以外にも、Excelファイルのサポートやペンツールの実装、文字のアンチエイリアス表示、段落のラッピング(回り込み)などはInDesignがQuarkXPressに先駆けて搭載した機能でした。


ジラードさんは、これらInDesignが持ち込んだ機能は「QuarkXPressの何歩も先を行くものだった」と語ります。その結果、QuarkXPressはその優位性を失うこととなっていくわけですが、それ以外にも別の理由が存在している点を示唆します。ジラードさんの元同僚で、QuarkXPressを使った新聞の発行に携わっていたデニス・ウィリアムズさんは「ソフトウェアが強制終了した際に有効なオートバックアップ機能がない、オブジェクトに影を付けるだけでも多くの手間がかかる」などの違いを挙げ、「Quarkは長い間にわたって優位的な立場に立っていたために、変化に対応する機会を逃してしまったのでしょう。QuarkXPressのバージョンが進むにつれてもっと多くの機能が搭載されると思いますが、すでにInDesignに移行してしまった私たちには関係のないものでしょう」と意見を述べています。

◆価格・マーケティング戦略
InDesignが普及したのには、価格と顧客へのプロモーション戦略がうまく機能したという点も挙げられるとジラードさんは語ります。以前にInDesignとQuarkXPressのどちらを導入するか検討していた際に価格を比較したところ、以下のような結果になったそうです(価格は現在のものとは異なります)。

・InDesign CS: 699ドル(約7万2000円)
・QuarkXPress 6: 945ドル(約9万7000円)
・QuarkXPress 6 Passport: 1795ドル(約18万4000円)

価格の違いが明らかなのに加え、InDesignはQuarkXPress 6 Passportしかサポートしていない「全言語対応」を搭載していることから、さらにコストパフォーマンスは高まります。しかも、InDesignは2003年にリリースされていた「Adobe Creative Suite」にバンドルされていたため、PhotoshopやIllustratorを購入したつもりのユーザーがいつの間にかInDesignを手に入れていたという状況を作り上げていました。

これらの要因が組み合わさって、InDesignはQuarkXPressの牙城を崩すことに成功し、新たな市場の覇者としての地位を築くことに成功したとジラードさんは語ります。

しかし同時に、AdobeにもQuarkと同じ道をたどる可能性があるという点を指摘。Adobeが提供を開始した月額制のAdobe Creative Cloudについて「市場の覇者が取る戦略」と不満を述べています。巨大になって栄華を極めた企業は顧客の声を聞くことを忘れてしまう可能性を指摘し、AdobeがQuarkXPressと同じ失敗を繰り返さないよう願っているとのことです。

By misskoco

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in メモ,   ソフトウェア, Posted by darkhorse_log

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