アジア有数の交易地「香港」で体験してきたちょっとディープな街の姿など
日本から飛行機で約4時間で到着する香港は、古くから金融や流通の中心地であったことから世界中からさまざまな文化が押し寄せて独特の発展を遂げてきた都市です。1842年にイギリスに割譲されてから長らくは植民地としての位置づけでしたが、1997年に中国に返還されて「中華人民共和国香港特別行政区」と名称が変更されてからもその色合いは色濃く残されています。今回は取材で香港を訪れる機会があったので、かなり中国色も強まってきたという声もある香港の一部を体験してきました。
◆チョンキンマンションの格安ゲストハウス
今回の宿泊先は、沢木耕太郎の小説「深夜特急」にも登場し、安宿が集まっていることでも有名なチョンキンマンションの中にあるゲストハウスでした。
チョンキンマンションは、香港の中心地の一つである尖沙咀(チムサーチョイ)のど真ん中にそびえ立っています。
有名なスラム街だった九龍城砦が取り壊された今、チョンキンマンションが後を継ぐものとして取りざたされることも多いのですが、現在ではショッピングモールも入り、以前のような暗い・怖い雰囲気は少なくなってきたと言われています。
しかし、ショッピングモールとは別にあるメインの入り口を入ると、すこし薄暗い雰囲気が漂っています。慣れていないと、少し入ることをためらってしまいそう。ビルの1階と2階には、中東・アフリカ系住民による商店や、両替店が軒を連ねています。
所狭しと小さな商店がひしめき合っているビル内部。
最初はその威圧感に入ることをためらうこともありますが、いったん慣れてしまうと意外と心地よくなってくるから不思議です。黄色い看板の店は両替店で、ビル入り口の店舗を除けば市内の両替所よりも10パーセント以上も良いレートで両替を行うことができます。もちろん日本円からの両替も可能。
こんなふうに配線がむき出しになっているのも、チョンキンマンションならではの光景。
今回宿泊したのは、古くからチョンキンマンションで営業しているゲストハウスの「ドラゴン・イン(龍匯賓館)」です。ウェブサイトからはオンラインで予約を行うことも可能。エレベーターで3階まで上がり、ドアが開くと真正面にあるので、ほぼ迷うことなくたどり着くことができます。なお、現地表記ではイギリス式の「2階」になるので注意が必要です。
香港、ドラゴン・イン(龍匯賓館)&ドラゴン・ホテルの公式サイト
http://www.dragoninn.net/
こちらが利用した「スーパー・デラックス・シングル・ルーム」の内部。扉を開けると、部屋の半分ほどを占めるベッドが現れ、右手前には鏡つきの小さなデスク、そして部屋の奥にはトイレ・バスルームが備わっています。電気ポットがあるのでコーヒーやインスタントラーメンを作ることはできますが、冷蔵庫はありませんでした。取材時の宿泊費は食事なしの素泊まりで475香港ドル~500香港ドル(約6300円~約6700円)でしたが、周辺のホテルの価格が最低でも1万5000円程度だったことを考えると、非常に手頃な価格となっていました。
客室を反対側からみるとこんな感じ。壁にはハンガーが備わっています。お世辞にも広い部屋とは言えず、スーツケースを置くようなスペースはありませんでしたが、ゲストハウスのスタッフからは「ベッドの下に入れたらいいよ」との明快な回答が。非常にシンプルな設備ですが、エアコン完備・さらに宿泊者は無料でWi-Fiが使い放題となっています。
トイレ・バスルームはこうなっています。この部屋はバスタブのないタイプになっており、トイレとの仕切りもありません。シャンプー・ボディソープが備え付けられていました。
この状態でシャワーを使うので、とうぜん便器は完全に水にぬれてしまいます。1泊目にはとてつもない違和感を感じましたが、不思議と二日目には慣れてきました。トイレットペーパーはプラスチック製のケースに収められているので、水にぬれて使えなくなってしまう心配はありませんでした。
ベッドは、価格相応といったところ。マットレスは硬めであまり沈み込まないタイプですが、寝心地は悪くありませんでした。
ホテル内部の廊下はガラス張りになっていました。
非常灯などの設備は備わっていますが、火災時のことなどを考えると、少し心配は残ります。
オーナーさんの女性を始め、スタッフの対応もよくて快適に過ごすことができました。通常のホテルのようなサービスはありませんが、香港らしい雰囲気を楽しむことができるので、旅が好きな人や出張を安くあげたい人はチャレンジしてみる価値はありそうです。
◆エアポート・エクスプレス
香港国際空港から市内への移動にはバスやタクシーなどの方法がありますが、今回は約30分で中心部へ移動できる電車「エアポート・エクスプレス」を利用してみました。
By shankar s.
MTR > Fares & Tickets > Airport Express Services > Tickets and fares
http://www.mtr.com.hk/eng/fares_tickets/tf_index.html
エアポート・エクスプレスの乗り場は空港と直結しており、わずか3分程度という便利さです。
駅のプラットフォームにあるカスタマーセンターでチケットを購入します。
今回は、「エアポート・エクスプレス・トラベルパス」を購入しました。通常だと空港から市街地まで最大で100香港ドル(約1350円)のエアポート・エクスプレスの往復分の料金と、3日間のMTR(地下鉄)乗り放題がついて300香港ドル(約4030円)という、旅行者には便利なパスになっています。チケットには保証金の50香港ドル(約670円)が含まれていますが、帰国の際にカウンターにパスを返却すると返却してもらうことができます。日本で使われているSUICAやICOCAと同ように、ICチップを内蔵した非接触型カードです。
より一般的に利用されているのがこちらのオクトパスカードで、これ一枚あればタクシーを除くほぼすべての交通機関を利用したり、コンビニをはじめとするさまざまなお店での支払いにも利用できるという便利なカードです。ソニーが開発したFeliCaの技術を、世界で始めて公共交通機関向けに採用したことでも知られています。
エアポート・エクスプレスの車内はこんな感じ。2列シートが左右に装備されています。
ゆったりとしたシート幅に加えて前後のシート間隔も広く取られているため、小さめのスーツケースならば手元に置いたまま移動することができます。
大きめのスーツケースなどを置いておくスペースも用意されています。
九龍駅に到着しました。駅構内は広々としたスペースが広がっており、荷物用のカートが置かれているのがありがたいところです。
また、帰国する際に非常に便利なのが、エアポート・エクスプレスの利用者を対象としている「インタウンチェックイン」のサービスです。香港駅と九龍駅の構内に航空会社のカウンターが設置されており、空港に着く前にチェックインできる上に、スーツケースなどの荷物を預けてしまうことができるようになっています。ここで預けた荷物はそのまま搭乗する航空機に載せられるので、あとは到着地で受け取るだけという便利なサービスです。なお、すべての航空会社がサービスに対応しているわけではないので、事前の確認が必要です。
◆二階建て路面電車「トラム」
香港の乗り物の代名詞の一つとなっているのが、この二階建て路面電車の「トラム」といえるでしょう。1904年の開業以来、100年以上にわたって市民の足として利用されてきたトラムは、いまでも現役で生活の中に溶け込んでいます。
トラムに乗る方法は以下の通りです。街中の停留所にトラムが到着すると、車体後方のドアが開きます。後払い式になっているので、乗り込む際には支払いやカードのタッチなどは必要ありません。
一階部分では、通路を挟んで一人がけシートと長椅子が配置されています。車内幅は約2メートル程度と、けっこう狭め。
二階部分へは、急な階段を通って上がります。
一階部分よりは広く感じますが、やはり狭い二階部分。
非常に多くのトラムが走り回っているため、後続の車両に追いつかれることもしばしば。
目的地に到着しました。トラムから降りる際は、運転席横の扉を通ります。扉の横には運賃を入れるための現金投入口と、オクトパスカード用のタッチ用端末が設置されていますが、ほとんどの乗客はオクトパスカードを使用していました。
トラムの二階部分からの眺めはこんな感じ。ビルの間をぬうように走る様子を見ることができます。
香港島のトラム・2階部分からの眺め - YouTube
マニアックなところでは、交差するレールを上を通過する際の様子がこちら。レールの曲率が大きいためか、「ぎぎぎ……」という音が発生しています。
香港島トラム・レール交差部分通過 - YouTube
なお、トラムに関しては以下のようなアプリもリリースされており、行き先や路線をスマートフォンで確認することも可能です。
iTunes の App Store で配信中の iPhone、iPod touch、iPad 用 Hong Kong Tramways
◆香港島と九龍サイドを結ぶスターフェリー
ビクトリア・ハーバーによって隔てられた香港島と九龍サイドを結ぶ海の交通手段がスターフェリーで、その運行開始は1890年頃からと、香港島のトラムよりも古い歴史を誇っています。フェリーの運賃は大人料金で2.5香港ドルから3.4香港ドル(約35円~45円)と非常に安いため、地下鉄や海底トンネルが開通した今でも市民の足となり続けていると同時に、重要な観光資源となっています。
フェリーでもオクトパスカードは使用できますが、今回は乗船用の「トークン」を買ってみました。
黒いプラスチック製のトークン
三脚回転式のゲートをくぐって乗り場へと向かいます。
待合室で待っていると、対岸からのフェリーがやってきました。
乗ってきた乗客を降ろし終えると、すぐに折り返し便の乗船が始まります。
船内の様子はこんな感じ。船体中央部分は、窓のないオープンデッキになっています。
船体の前後部分には、ガラス窓が装着されて雨や風の日にも安心なエリアが用意されています。
ビクトリアハーバーの幅はおよそ1キロと比較的に狭いため、対岸がすぐそこに見えます。三角形を組み合わせたような中国銀行タワーや、雲を突き抜ける世界第9位の高さを誇るTwo IFCタワーが見えています。
タワーの足下には、「中環(セントラル)」のフェリーふ頭。
わずか10分弱の短い船旅ですが、波に揺られて島を渡る風景はのんびりとして心地よいものでした。
◆いろんなバス
香港といえば二階建てバスが有名ですが、市内では大小のバスが道狭しと縦横に走りまくっています。
定員が15名程度のミニバス(小巴)も市民の欠かせない足です。ミニバスには2種類のタイプがあり、こちらは屋根が緑色のタイプ。車体はトヨタ製です。
そしてこちらが最もローカルといえる赤いタイプのミニバスです。このタイプのバスは、出発場所と最終目的地だけが決まっており、途中の経路や停車場所は定まっていないのが特徴です。
目にもとまらぬスピードでガンガン走るミニバス
そして、観光バスツアー大手のビッグ・バス・ルート・ツアー(BIG BUS ROUTE TOUR)の二階部分がオープンになったバスも走っています。
街のところどころには、大きなバスターミナルが作られています。
複数のレーンを持ち、さながら大きな鉄道駅のような雰囲気。
多くのバスが来ては次の客を乗せて走り去って行きます。
こちらは珍しい一階建てタイプ。
夜遅くなっても、バスの波が収まることはありませんでした。
二階建てバスの上階部分はこんな感じ。降りたい停留所が近づいてきたら、日本と同じようにボタンを押して運転手に知らせるようになっています。
最前列に座って街の景色を楽しむのもいいものです。
一方、ミニバスの中はこのようになっています。乗り合いバスのようになっており、停車ボタンは装備されていません。代わりに、大きな声で「ヤゥロッ!(有落・降りますの意味)」と叫んで運転手に知らせます。
◆MTR(地下鉄)
バスと同様に発達しているMTR(地下鉄)にも乗ってみました。こちらは駅の改札口。
オクトパスカードを使用する場合は、黄色い端末にタッチ。日本のICカードと同じような感覚です。
ホームには事故を防止するガラスの保護壁が設けられています。
少し狭く感じる車内ですが、乗っている時間が短いのでさほど苦痛は感じません。シートはすべてくぼみの付いたステンレス製となっており、よく滑ります。
MTRで便利なのが、全線で携帯電話の電波が拾えることです。日本でも増えてきたサービスですが、香港では乗車中に圏外になることは一度もありませんでした。日本とはマナーが異なり、車内で通話しても迷惑とはとられません。そのため、大きな声でずっと喋りまくっているご婦人の姿をよく見かけました。
駅構内にはコンビニや軽食店が入っていますが、非常に小さな店舗の作りになっています。
何かドリンクでも買おうと自販機を見つけましたが、何か様子が異なります。
2台あるうち、右側の自販機では折りたたみ傘が販売されていました。
販売はオクトパスカードのみで、値段は78香港ドル(約1050円)と少し高め。
透明のPET製ケースに収まっていました。高価なだけあって、耐久性も高い商品でした。
◆その他いろいろな風景
CIA元職員で、米政府が国民の情報収集をしていた「PRISM」問題を暴露したエドワード・スノーデン氏が香港で潜伏先としていた「The Mira Hong Kong Hotel」も中心地に位置しています。
香港名物、竹で組んだ工事用足場。
接合部は、黒いポリひもでくくりつけただけになっています。
キッチリと作り上げられたボックス構造が見事です。弱そうに見える竹の足場ですが、実はこの足場を組むためには専門の学校で実技を積んで資格を取得しなければならないという、専門性の高い職種なのです。竹を使用することで、香港を襲う強い台風の際にも「しなる」ことで、強い力を受け流すというメリットがあるそうです。
街中あちこちで見かける、移動式のアイスクリームバン。
いつみても行列です。
一つ食べてみました。甘みの強い味付けになっており、あまりミルク感は感じません。一昔前のソフトクリームといったところです。
バス停の広告では、映画「風立ちぬ」の広告が掲示されていました。
ジャッキー・チェンが時計台から飛び降りるシーンが有名な映画「プロジェクトA」でも名前を聞く香港水上警察の建物を復元した1881ヘリテージは、尖沙咀(チムサーチョイ)の中心地にあります。
復元後は高級ホテル・レストランとして営業しています。建物の下にはブランドショップが並んでいます。
夜にはキレイなライトアップも。
世界屈指の高級ホテル「ザ・ペニンシュラ香港」がすぐ隣に位置しています。
この日はクリスマスシーズンに向けたプロジェクションマッピングイベントが行われていました。
ザ・ペニンシュラ香港のクリスマス・プロジェクションマッピング - YouTube
香港のナイトマーケットで有名な「女人街」の風景。間口2メートルほどの店が約1キロにわたって軒を連ねる名物マーケットです。
こちらの店では雑貨類を販売。
お土産用のプレート
ベルトやバッグなどの日用品も売られています。
サッカーのユニフォームなどもありました。
夜11時頃の風景はこんな感じ。夜遅くまで人が途切れることはありません。
女人街に対し、「男人街」と呼ばれるのがすぐ近くにある「テンプル・ストリート(廟街)」です。
女性向けの商品が多い女人街に比べ、テンプル・ストリートでは男性向けの商品が多いことから男人街の通称で呼ばれています。
商店と並んで、屋台の飲食店が多く営業しており、どこも大繁盛です。
思わず吸い寄せられそうな光景
路肩の箱の上で寝る人もいます。
よりディープな香港を味わえること請け合いです。
女人街の近くにある「モンコック・コンピューター・センター(旺角電腦中心)には、大小のコンピューター関連の商品が数多く店を出しています。
ビルの2階から5階にかけて、ところ狭しとひしめき合うお店。
竹でできた変わり種キーボードも売られていました。価格は299香港ドル(約4000円)と、けっこう安め。
新旧の文化が入り乱れる香港は、極めて近代化した風景の中にどこか懐かしい雰囲気を残した不思議な街で、その魅力にとりつかれる人も多くいるように、興味深い街でした。
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