インタビュー

ロボット工学やLEDを映画撮影に取り入れたアルフォンソ・キュアロン監督に「ゼロ・グラビティ」についてインタビュー


ジェームズ・キャメロン監督が「これは史上最も優れた宇宙の映像美で創り上げた、史上最高のスペース・エンターテイメント」と語り、2014年アカデミー賞最有力候補と言われている映画「ゼロ・グラビティ」のアルフォンソ・キュアロン監督にインタビューを行いました。

映画『ゼロ・グラビティ』オフィシャルサイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/gravity/

GIGAZINE(以下、G):
記者会見で、デイビッド・ヘイマンプロデューサーが「キュアロン監督から脚本をもらった時点で明確な作品だった」と話していましたが、キュアロン監督はいつからゼロ・グラビティを考えていたのでしょうか?何か、思いつくきっかけはありましたか?

アルフォンソ・キュアロン監督(以下、キュアロン):
今から4年半前くらいのことになるのですけど、私はゼロ・グラビティの脚本を一緒に書いた息子のホナスと、ゼロ・グラビティとは別の作品を書いていたんです。この脚本は映画化される予定だったのですが、2008年に発生した経済危機の影響で頓挫してしまったんですね。「脚本が映画化されなかったことを悔やむより、何か新しいものを作ろう」と気持ちを切り替えて制作したのが、ゼロ・グラビティの始まりです。

ホナスは「逆境をテーマとした、ジェットコースター的な緊張感が常に漂い、かつ観客が感情移入して感動できる作品を作りたい」と言いだして、2人で試行錯誤を重ねた結果、宇宙飛行士が何もない宇宙空間にクルクルと飛ばされていく絵が思い浮かんだのです。

あと、話は変わるんだけど、(記者の胸を指し)かっこいいTシャツを着ているね。


G:
ありがとうございます。脚本に着手してから完成まで4年半かかった理由として「技術がアイデアに追いつくのを待っていた」と聞きました。具体的に、当時の技術では何が不可能だったのですか?

キュアロン:
正確に言うと、「技術の発展を待っていた」というわけではありません。自分の脚本をどうやって映像化できるか、常に試行錯誤して、さまざまなことに挑戦していました。その中で、映像化に一筋の光を照らしてくれたのがロボット工学とLEDだったのです。

具体的には自動車の製造工場に導入されている、正確に同じ動作を繰り返すアームのようなマシンとカメラや照明などを組み合わせたり、LEDをライトボックスに使用することで、脚本を自分が描いたとおりの映像に仕上げられました。

G:
作中には、ほぼライアン・ストーン博士(サンドラ・ブロック)とマット・コワルスキ(ジョージ・クルーニー)の2人だけしか出てきませんが、当初からこういう作品として考えていたのですか?それとも、他の登場人物がいましたか?

キュアロン:
登場人物に関しては最初から1人もしくは2人にすると決めていました。どうしてかというと「これだけのサスペンスや緊張感を1人や2人で保つことができるのか?」というテーマがゼロ・グラビティの核にあるからなんです。


G:
CGを極力避けて、巨大なターンテーブルや回転装置などを擁する特殊装置を作って撮影を行った、と聞きました。撮影監督が作った装置とのことですが、どのようにして特殊な撮影方法を思いついたのですか?

キュアロン:
CGは映画中で使われていて、極力避けたということはありません。ただ、実写で撮影した映像とCGをいかにして組み合わせるか、という点には1番労力を割きました。カメラマンと視覚効果のスーパーバイザーと共に照明や撮影手段を研究し続けたかいもあって、なんとか映像とCGをうまく組みあわせることができたんです。

G:
監督の過去の作品にはロング・テイク(長回し)が使用されていて、それはゼロ・グラビティでも多く使われており、途切れない緊張感を生み出していました。ロング・テイクを使う理由は「緊張感を生むこと」以外にもあるでしょうか?

キュアロン:
周囲の環境や状況が登場人物に対して牙をむいたり、反対に環境が人物に情報を与えたりしてサポートするなど、人物と環境の関係をリアルタイムで描きたいときに、カメラを回しっぱなしにするから必然的にロング・テイクになるんです。


G:
「美しい地球」と「恐怖感あふれる宇宙」や、地球に交信するシーンでの「死におびえるライアン博士」と「平和そうな地球からの交信」などの対比表現が作品の至るところで見られたのですが、どのような意図があったのでしょうか?

キュアロン:
おっしゃる通りで、「命あふれる地球」に対して「生のかけらも感じられない宇宙空間」などの対比表現を映画に組み込んでいます。対比表現は、それだけで映画のなかに緊迫感を生みだすんです。主人公であるライアン・ストーン博士の精神の中にも、「生」と「死」の対比表現から生まれる緊迫感があります。地球と宇宙を重要なメタファー(隠喩)として、対比表現が作り出す張り詰めた雰囲気というのは、映画全体を通じて保っているものです。


ストーン博士が地球と交信するシーンでも対比表現を使用しています。「極限状態にいるストーン博士がヒューストンと交信を試みるがつながらなかったり、また、つながったと思ったら全く違う言語を話す人とつながってしまい、意思疎通できなかった」というシーンですね。実は、息子のホナスはストーン博士と偶然無線がつながった人の視点で描いたショートフィルムを制作しました。わざわざグリーンランドまで行ってイヌイット民族の1人に焦点をあてて撮影したんですよ。

G:
ホナス・キュアロン監督の「Aningaaq」という作品ですね。ゼロ・グラビティのスピンオフムービーでもあるAningaaqについてお聞きしたいのですが、Aningaaqはもともと作る予定があったのでしょうか?それとも、ゼロ・グラビティを制作している途中で作ってみようということになったのでしょうか?

キュアロン:
息子のホナスと脚本を制作している段階で、ストーン博士と交信する人間の視点から描いたシーンはあったのですが、ゼロ・グラビティに入れたくなかったんです。すると、ホナスが「ゼロ・グラビティに入れないなら、そのシーンをショートフィルムとして制作したらおもしろそうだね」と提案したので、ゼロ・グラビティを撮影しながらAningaaqを作ったというわけです。ですから、ゼロ・グラビティのDVDとブルーレイにはAningaaqが特典として盛り込まれる予定です。

G:
これまでにも何度か息子のホナス・キュアロン氏と一緒に仕事をしていますが、親子で仕事するのはどうでしたか?率直な感想を聞かせてください。

キュアロン:
ホナスは脚本家として素晴らしい才能を持っていて、私がホナスから学べることもあります。自分とは違う若い世代の観点からアプローチをしたり、古い先入観にとらわれずに物事を見ることができます。ホナスは、内容としてはディープであるけれど、娯楽性や笑いを取り入れた作品に興味があり、どんな映画であってもエキサイティングな要素を大切にする脚本家です。

G:
今回の「ゼロ・グラビティ」の製作を終えた後に「予想外に良かった」と思えるシーン、つまり、思い描いていたものや予定していたものとは違う内容になったけれども「すばらしい」と感じる結果になった場面はありますか?また逆に、撮るときに難航したシーンはありますか?


キュアロン:
撮影が難航したシーンは、全てですね(笑) 予想外に良かったシーンは、サンドラ・ブロックが関わっているシーン全てです。

G:
「パンズ・ラビリンス」「ハリー・ポッター」「ゼロ・グラビティ」などなど、ジャンルにとらわれない映画作りを行ってきた監督が、この先作りたい作品はどういったものですか?

キュアロン:
私は、パンズラビリンスではプロデューサーであって監督でありません。パンズラビリンスの監督は、ギレルモ・デル・トロ様ですから(笑) 次回作については全くわかりませんが、1つだけ言えるのは人が歩いている作品、つまり重力のある作品を作りたいですね。

G:
では、最後に監督の好きな映画はなんですか?また、映画監督になるにあたって影響を受けた作品があれば教えて下さい。

キュアロン:
私はリストを作るのがすごく苦手なんです。例えば、買い物に行くときも必要じゃないものばかり買ってしまい、後で「あ!アレを買うのを忘れてしまった」となってしまうんですね。ですので、好きな作品や影響を受けた作品を1つ言い出すと、他にもたくさん言いたくなったり、買い物のように「あの作品を言うのを忘れてしまった」と後悔してしまうので言えません。

でも、いろいろなジャンルの映画を見ますよ。その中でも、映画を言語として尊重している作品や脚本家の個性が投影されている作品が好きですね。


インタビュー終了後、キュアロン監督は記者のTシャツを気に入ったようで、Tシャツの写真まで撮っていました。キュアロン監督が気に入ったのは、イギリスのミュージック・ユニットであるケミカル・ブラザーズの「We Are the Night」というアルバムのアートワークがプリントされたもの。


映画「ゼロ・グラビティ」は2013年12月13日公開。アルフォンソ・キュアロン監督が、息子のホナス・キュアロンと制作した脚本を見事に映像化し、映画を見ている人までもが無重力空間に飛ばされてしまうような感覚を味わえる本作品は映画館で見てこそ、神髄を楽しめる映画に仕上がっています。

◆「ゼロ・グラビティ」
12月13日(金) 全国ロードショー
3D/2D同時公開
オフィシャルサイト:オフィシャルサイト:http://zerogravitymovie.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/zerogravitymovie
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c) 2013 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.

・つづき
「ハリー・ポッター」を支えたデイビッド・ヘイマン氏に「ゼロ・グラビティ」の詳細について聞いてみた


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in 取材,   インタビュー,   動画,   映画,   ピックアップ, Posted by darkhorse_log

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