Googleが支援する遺伝子検査キット「23andMe」に出荷停止命令が下る
By nosha
アメリカ食品医薬品局(FDA)は、遺伝子検査キットを販売する「23andMe」に対して、遺伝子検査キットの販売を停止するよう命令を下しました。
FDA Inspections, Compliance, Enforcement, and Criminal Investigations 2013 > 23andMe, Inc. 11/22/13
http://www.fda.gov/ICECI/EnforcementActions/WarningLetters/2013/ucm376296.htm
FDA Tells Google-Backed 23andMe to Halt DNA Test Service - Bloomberg
http://www.bloomberg.com/news/2013-11-25/fda-tells-google-backed-23andme-to-halt-dna-test-service.html
My deadly disease was just a bug – mnt.mn
http://mntmn.com/pages/23andme.html
23andMeは、遺伝子情報を分析することで、難病など特定の疾病の発症リスクを早期に発見できるサービス「Personal Genome Service(PGS)」を提供する会社で、Googleの共同創業者セルゲイ・ブリン氏の妻であるアン・ウォジスキ氏が共同創設者をつとめ、Googleによる出資を受けて2006年に創業したベンチャー企業です。
23andMeの提供するPGSは、利用者宅に遺伝子検査キットを送付し、利用者が唾液を採取してキットを返送すると検査を実施して完了後にメールで通知。利用者は専用ウェブサイトにログインして結果をオンラインで確認できるというもので、費用は200ドル(日本では1万9800円)となっています。なお、ユーザーの遺伝子情報はデータベースに記録され、DNAサンプルとして遺伝子研究に利用されるということです。
23andMeの検査キットによって検査できる遺伝子項目は、肢帯型筋ジストロフィーや糖原病(I型・II型)などの難病のキャリア状態(Carrier Status)が全50項目、カフェイン代謝やC型肝炎の治療に対する反応などの薬物応答(Drug Response)が全50項目、アルコール依存症やアルツハイマー病などの疾病リスク(Disease Risk)が全120項目、ハンセン病感受性や男性型脱毛症のなどの体質(Traits)が全60項目の計254項目で、このうち日本人を含む東アジア系住民の対象検査項目は123種類となっています。23andMePGSの1項目あたり約161円という価格は、従来の遺伝子検査サービスの約50分の1という安さとのこと。
手軽に格安で遺伝子検査ができる23andMeのPGSはアメリカで人気を博し、テレビCMが流され急速に普及していたところでしたが、FDAは、11月22日に、23andMeに対して、遺伝子検査キットの販売を停止するよう命じました。停止命令の理由は、23andMeのPGSが、FDAが規定する安全性基準を満たしていないというもの。
23andMeとFDAは、2009年以来、14回以上の直接協議を行い、何百通を超えるEメールによる折衝を行い、その過程で23andMeは2度調査用のテストキットを提出しました。しかし、FDAは、同社検査キットをチェックした結果、ラルファリン感度・クロピドグレル効能・フルオロウラシルの毒性などの潜在的リスク評価で誤った陽性反応が生じて利用者に無用の不安を抱かせ、また、逆に誤った陰性反応によって早期治療を受ける機会を失わせる可能性があると判断し、23andMeの検査キットの検出能力に問題があると結論づけました。
さらに、検査キットの利用者が、専門的な知識を持つ医師のチェックを受けずに自分で遺伝子検査を行ったことで健康被害が生じる可能性や、正しい検査が行われた場合でも検査結果を利用者が十分に理解できないことで健康被害が生じる可能性も指摘しています。
By Brendan Lim
なお、実際に23andMeのPGSを利用して間違って難病発症リスクが高いという結果を提示されたと主張する人も現れています。Spacedeck社の共同創業者で最高技術責任者のルーカス・ハートマンさんは、2010年11月に23andMeのPGSを利用したところ、肢帯筋ジストロフィー(LGMD)の遺伝子キャリアを持つことを指摘されました。この検査結果に落胆したハートマンさんでしたが、自称"ネットオタク"の能力をフルに活用し、肢帯筋ジストロフィーに関するあらゆるサイトを駆け回り、さらに遺伝子工学に関する文書も読破、果ては「Promethease」という遺伝子分析ツールを使って23andMeから提供された遺伝子の生データを解析したところ、23andMeのアルゴリズムには間違いがあり、極めて希な条件でしかLGMD発現の可能性がない遺伝子上の変異からLGMDの発症リスクがあると判断していたとのことです。ハートマンさんが、このことを指摘したところ数日後に23andmeがアルゴリズムのバグを認め謝罪したということです。
今回のFDAによる検査キットの販売停止命令に対して、23andMeは、FDAとの関係の重要性を認識しておりFDAの指定する基準への対応に迅速に取り組む予定であるとのこと。手軽な遺伝子検査サービスは、10年以内に250億ドル(約2兆5000億円)の市場規模に成長すると試算される中、検査品質の向上と信頼性の確保が当面の課題だといえます。
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