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マーケティングにおける色彩心理学の本当の使い方

by Tiger Pixel

マーケティングにおいて色彩心理学を利用することは重要とされますが、色彩の持つ効果は個人の経験に依存し、学術的に裏付けされたデータが少ないため、議論も多いところです。そこでHelp Scoutがブログで研究によって明らかにされた色彩の持つマーケティングでの効果をまとめたのが「The Psychology of Color in Marketing and Branding」で、実際に商品を売り出したり、ウェブサイトをデザインする際にも非常に役立つ内容となっています。

The Psychology of Color in Marketing and Branding | Help Scout
https://www.helpscout.net/blog/psychology-of-color/

◆色彩心理学に関する誤解

どうして色彩心理学は多くの誤解を含み、そして事実としてのデータが少ないのでしょうか?それは、これまでの研究によって色彩心理学には個人的な好みや経験、育ちや文化・コンテキストの違いなどといった要素に影響されやすいことが分かっているためです。紫や黄色はある種の特別な感情を引き起こす」といった考えはタロットカード程度の正確性しか持ちません。つまり、「黄色はカラー・スペクトルの中で最も心理学的に幸福な色である」「DCコミックのスーパーヒーローグリーンランタンは黄色を恐れている」「アメリカで購入されている鉛筆の75%は黄色である」といった内容には何の裏づけもないのです。


それでは研究によって明らかになっている、色の果たす役割とはどんなものなのでしょうか?

◆ブランディングにおける色彩の重要性

これまで、異なる色に対する消費者の反応を分類しようという試みは数多くありました。しかし、それらによって明らかになったのは、色彩をどう感じるか、ということは個人の感情的経験に依存しすぎてしまうということです。しかし、調査によって色覚の中から広範囲のメッセージパターンが見つかったことも確かで、買いものやブランディングにおいて色彩はかなりの役割を果たすということが言えます。


Impact of color on marketing(マーケティングにおける色彩の持つインパクト)という研究の中で、商品によっては消費者の行った即決の90%は色彩のみをベースに行われていることが明らかになりました。また、色彩の持つインタラクティブな影響が研究されることによって、「ブランドと色彩の関係は、あるブランドに適したカラーが使われているかどうかで決まる」ということが明らかになっています。つまり、使用されているカラーはブランドに適しているか?ということが重要なのです。Exciting red and competent blue(刺激する赤と有能な青)という研究では、購入の意図は「そのブランドがどう認識されているか」というインパクトを表したカラーが使われるか否かによって大きく影響されるということが確かめられました。これは「ハードでクールな感じのしないハーレーダビッドソンのバイクを誰が購入するのか?」という理屈です。

さらに、人の脳は見覚えのある色を好むので、ブランドのアイデンティティーを確立する際には非常に「色」ということが重要になってきます。新しいブランドの場合、競合会社のロゴが青だった場合は、紫のロゴにすることによって差別化を図ることもできます。そして「正しい色」を選ぶ、という点に関して言えば、色そのものではなく、消費者が商品との関係において反応する「色」がより重要です。そう考えると、「ピンクのグリッター使用のハーレーダビッドソンは売れない」という判断ができるでしょう。


心理学者であり、スタンフォード大学の教授であるJennifer AakerさんはDimensions of Brand Personality(ブランド・パーソナリティーの特質)という論文の中で上記の点について触れており、ブランド・パーソナリティーの中に5つの特質があることを発見しました。

Jennifer Aakerさんが発見したパーソナリティーとは「誠実」「興奮」「適切」「洗練」「丈夫さ」の5つ。例えばファッションは「洗練」に属し、キャンプ用品は「丈夫さ」に属すると言えるでしょう。多くの商品はこの内一つの特性に支配されますが、中には複数の特性が交差することもあります。


「茶色は荒っぽい印象で、紫は洗練、赤は興奮」という風に、これらの特性を表す色はいくつか考えられますが、学術的に「あなたのブランドにはこの色」と示してくれるものはほぼ存在しません。緑は時に環境問題のブランドとして使用されますが、金融関係においても使用されるので、「緑は穏やかさ」という考えは過ちなのです。レザーのブランドに使われる茶色は荒っぽい雰囲気もありますが、食欲をかきたてたり、温かさを演出して歓迎の雰囲気を作り出すこともあります。

つまり、ブランドのカラーを選ぶためのガイドラインは簡単に示せないのです。ただし、商品のコンテキストについて考えることは必須。カラーが示すのはブランドの説得力における感覚であり、ムードであり、イメージです。クリーンでシンプルなデザインを愛するAppleが白というブランドカラーを使うように、カラーがブランドと一致し、説得の役割を果たしているか?ということを認識して下さい。そのようなコンテキストなしに色を選択しても意味がありません。「オレンジは銀よりも人々を購入にかきたてる」といった普遍的な法則は存在しないのです。


◆性別による色の好み

車の多くは白や黒、銀であるように、適切な色というのは確かに存在しますが、それではなぜ紫の電動工具は存在しないのでしょうか?

Joe HallockさんのColour Assignmentは性別による色の好みについて明らかにしており、環境、特に文化的なものの見方は、個人の色の好みにや影響を与えることがあるようです。Hallockさんの調査による男女の色の好みは以下のような感じ。

まずは男性の好みについて。男性の「お気に入りカラー」第一位は青で57%、その次が14%で緑、そして黒、赤、オレンジ、灰色、茶色、白、黄色と続きます。


女性のお気に入りカラー第一位も青。割合は男性よりも少なくなって35%で、その次に紫、緑、赤、黒、オレンジ、茶色、黄色、白、グレーが続きます。


一方で男性が最も「お気に入り」としなかった色は茶色。2番目がオレンジと紫で、その後に続くのが黄色、灰色、白、緑、赤、黒、青という順番。


女性の場合、第1位はオレンジ、第2位が茶色、第3位が灰色で、その後に黄色、紫、緑、白と続きました。


最も顕著な点としては、青が男女ともに優位に立っているということと、男女間で紫の人気にかなり差があるということです。紫は女性に人気ですが、男性の場合「お気に入りカラー」のリストにさえ入っていません。これが紫の工具が少ないことの理由です。

加えて、ニュアンス・濃淡・色調に関して、研究によって男性は大胆な色を好み、女性は柔らかな色を好む傾向にあるということも分かっています。


また、男性は黒が加えられたような影のある色をお気に入りとして選択しやすく、女性は白が加えられたような色調を受け入れることが多いことも分かりました。


ブランドの主要なカラーパレットを選ぶ時は、このことを覚えていて下さい。商品を購入する人の割合が男性・女性で大きく差がある場合、いずれかに合わせることも必要です。

◆カラーコーディネーション+コンバージョン

コンバージョンレートに貢献するベストカラーを明らかにするということも最近の人気トピックです。しかし、ブランディングにおいて普遍的なベストカラーがないように、コンバージョンレートに貢献する1つのベストカラーもまた、存在しません。

しかし、心理学上の原理にはThe Isolation Effect(隔離効果)と呼ばれるものがあり、それによれば「場違いである」ということは記憶に残りやすいそうです。周囲から突出したものがある場合、人々はそれを「他のものよりはるかによい」として認識し、後で思い出すということが研究で分かっています。

例えば以下のウェブサイトの右下にある赤いボタンは、周囲の青から際だっているため、後から思い出しやすいのです。


また、Aesthetic response to color combinationsConsumer preferences for color combinationsといった調査から、消費者の多くが類似色からなるカラーパターンや、アクセント色とのコントラストが強いカラーパレットを好むことがわかっています。

このことから、カラーコーディネーションという点において、視覚的構造を作る時は受動的な類似色とそれとコントラストをなす活発的な補色を使うべきだということが言えます。


また、この考えを背景・ベース・アクセントの色として利用することも可能。ウェブサイト内で階層を作り、訪問者にアクションを取らせるように導くこともできます。


上記の文章を読んでインテリアデザイナーのような気分になるかもしれませんが、この事実はコンバージョンレートにおいて非常に重要。人々が陥る「コンバージョンレート最適化の盲信」に陥らないように手助けするのです。

例えばボタンの色を変えただけの次の2例は、いずれがコンバージョンレートを上げることができるのでしょうか?


実験によれば右側にある赤いボタンの画面はコンバージョンを21%アップさせることができます。しかし、これは赤が人々に行動を起こさせる魔法のカラーだということではありません。イメージをよく見てみるとページ上にある残りの要素は緑のパレットによって作られています。緑のボタンをページに置くと、周囲と調和するのは明白で、補色の赤を置くとビジュアル的なコントラストを生み出すのです。

隔離効果のさらなる証拠として、Paras Chopraさんが行ったのが以下のテスト。ChopraさんはPDFProducerというソフトウェアが以下のいずれのボタンによって最もダウンロードされるか、ということを調査しました。


その結果、Download For Freeが赤文字で書かれ、その下のPDFProducer v1.3が黒で書かれた10番のリンクが最もクリックされる、という結果が出ました。10番のリンクは上記で述べたように、グレーの背景に対してコントラストをなす赤文字で重要なポイントが書かれ、その他の文字に関しては背景と類似した色でまとめられています。隔離効果は人々にアクションを起こさせる、あなたが頭にとどめるべきたった1つの研究なのです。


◆なぜモカという言い方が愛され、ブラウンという言い方は嫌われるのか

色に好みがあるように、色の呼び方も重要な問題です。例え同じ色であってもファンシーな名前の方が好まれやすく、ブラウンよりもモカという言い方が好まれます。これは商品についても言え、消費者はシンプルな名称よりも練られた名称の方が見ていて楽しいと感じるのです。例えば、ゼリービーンズでは「レモンイエロー」味よりも「ラズマタズ(ばか騒ぎ)」味の方が選ばれやすい傾向にあります。この効果は食品に限定されません。「水色」ではなく「空色」という叙述的な名前を選ぶことも製品に大きなインパクトを持たす重要な要素なのです。

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in メモ,   デザイン, Posted by darkhorse_log

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