サイエンス

1億以上の色を知覚できる「スーパービジョン」を持つ女性が12%もいる可能性

By Natalie Barletta

人間は目の中に3つある錐体細胞という部位で色を感じています。通常、人が見分けられる色は約100万色ですが、世の中にはこの錐体細胞が4つあり、1億色を知覚できるという「スーパービジョン」の持ち主、4色型色覚者がいます。実際にこの能力を発揮している人はごくわずかしかいませんが、潜在的には女性の12%がこの能力を持っているそうです。

The Humans With Super Human Vision | Discover Magazine


人間は、目の中にある錐体細胞(赤錐体、緑錐体、青錐体)が色を感じ、脳へ「これは何色だよ!」というメッセージを送ることで「色覚」を得ています。一般的に、1つの錐体細胞が約100種類の色を識別しており、それを3つ組み合わせることで合計100万色を識別しています。この3つの錐体細胞を使って色を識別している人はtrichromat(3色型色覚者)、錐体細胞が2つだとdichromat(2色型色覚者)となります。錐体細胞が2つになると知覚できる色の数は1/100、1万色ほどになります。犬や新世界ザル(広鼻小目)など、人間を除くほとんどのほ乳類は2色型色覚を持っています。一方で、鳥や昆虫の一部だけが、紫外線までを知覚することができます。しかし、研究者は、人々の中にそれ以上を知覚する人がいるのではないかと考えています。それが4つの錐体細胞を持った人、tetrachromats(4色型色覚者)です。この4色型色覚者は1億色、色見本がないような色まで知覚可能です。

By incurable_hippie

ニューカッスル大学の神経学者ガブリエラ・ジョーダンさんは20年にわたって同僚と共に「スーパービジョン」を持った人を探し続けてきました。そもそも、最初に「4色型色覚者がいるかもしれない」とほのめかしたのは1948年、オランダの科学者HL・ド・フリースによる色覚障害についての研究でした。ド・フリースは、2色型色覚者が通常の錐体細胞2つと、1つの突然変異体の錐体細胞(緑や赤を見分ける力が弱い)を持っていることを、多くの人に対してマッチングテストを行うことで確認しました。このテストは、赤色と緑色のライトを見ながら色を調節して、黄色く見えるように合わせるというもので、2色型色覚者は、3色型色覚者に対して、色が赤か緑に偏る傾向がありました。

ド・フリースは好奇心から、3色型色覚者だと考えられていた少女でテストを行いました。その結果は、3色型色覚者では出ないはずの、赤に寄ったものでした。少女の色覚自体には問題が無いはずということで、ド・フリースは原因を探り、色覚障害が遺伝的に出るもので、男性由来で出てくることを突き止めました。ある2色型色覚の男性の母や娘を調べたところ、3つの錐体細胞と1つの突然変異体錐体細胞、合計4つの錐体細胞を持っていることがわかったのです。この1つ多い錐体細胞が、3色型色覚者とは異なる色覚の原因なのではないか、とド・フリースは考え、これを持つ女性たちはより多くの色を識別しているのではないかと推測しました。しかし、ド・フリースはこの結果を公表することはなく、以後の研究でも4色型色覚者に触れることはありませんでした。


1980年代になって、サルの色覚を研究していたケンブリッジ大学の神経学者ジョン・モロンさんは、このド・フリースの研究に行き当たりました。ジョーダンの研究のアドバイザーでもあったモロンさんは、ジョーダンさんと共に「4色型色覚者の女性はいるに違いない」とこの研究を把握。ジョーダンさんは「女性のうち、12%は4色型色覚者なのではないか」と推測を立てました。

そこで、4色型色覚を持つ人を探し出すため、色覚障害者の母親を探し出し、ド・フリースのテストを改良して実施しました。もしも本当にド・フリースの言うとおりであればこれで4色型色覚者を見つけられるはずでしたが、実際には見つかりませんでした。ジョーダンさんは「4つめの錐体細胞はアクティブではないのではないか」「『スーパービジョン』は現実にはないのではないか」と疑念を抱きはじめました。

2007年、ジョーダンさんは新しいテストを導入しました。これは、暗室の中で、3色の円が目の前でフラッシュする装置を凝視するというもの。円は、3色型色覚者であれば色が全く同じに見えるが、実際はコンピュータで合成した赤と青の微妙な混合色になっており、4色型色覚者だけがこの違いを見分けられるようになっています。ジョーダンさんは4つの錐体細胞を持つ25人の女性に対してこのテストを実施。その結果、書類番号「cDa29」という女性が、すべてのテストに的確に回答を行いました。

By Nisha A

とうとう4色型色覚者を見つけたジョーダンさん。しかし、我々が色覚障害の人に対して「赤はこういう色です」と的確に説明できないように、「cDa29」さんに世界がどのように見えているのか、彼女は我々に説明する言葉がありませんでした。ジョーダンさんは、4つの錐体細胞を持った女性は多いにもかかわらず、4色型色覚者の数が圧倒的に少ないのがなぜなのか、「cDa29」さんが他の4つの錐体細胞持ちの人とどう違うのかを調べています。

ワシントン大学で色覚について研究しているジェイ・ナイツさんは、潜在的に有している4色型色覚が力を発揮するには、能力を呼び覚ます何らかの訓練が必要なのではないかと考えています。「我々が見ているさまざまな色つきのものは、3色型色覚者向けに作られています。つまり、世界は3色型色覚者向けなのです」とナイツさん。自然界はそれほど十分な色の変化がないために、4色性色覚がフルに力を発揮する必要が無く、能力が秘められたままなのではないか、ということです。

今後の研究によって、4色型色覚の秘密が明らかになっても、3色型色覚者からはそれがどういう世界なのかを知ることはできない……というのは、何とも歯がゆいものです。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
生物のオスがカラフルなのはメスをひきつけるためだけではない - GIGAZINE

「鷹の目」は実は凄くない、本当かウソか - GIGAZINE

AJAXで配色を決める無料サービス「Accessibility Color Wheel」 - GIGAZINE

カラフルな色彩の帯が広がるオランダの花畑の美麗写真 - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by logc_nt

You can read the machine translated English article here.