主題歌決定のきっかけはMADムービー、新海誠のサービス精神が光った「星を追う子ども」トークショーイベント
いよいよ5月7日から新宿バルト9、シネマサンシャイン池袋ほか全国劇場にて「星を追う子ども」が公開となります。
これは「雲のむこう、約束の場所」「秒速5センチメートル」で高い評価を受けた新海誠監督が4年ぶりに放つ新作で、「マチ★アソビ vol.6」では監督自ら徳島に初上陸し、作品の内容や魅力について詳しく語るトークショーを行いました。
また、「できるだけファンの方の期待に応えたい」という監督の意向で、かなり長い時間をかけてサイン会が行われました。
詳細は以下から。
『星を追う子ども』公式サイト/新海 誠 最新作
http://www.hoshi-o-kodomo.jp/
トークショー開始前、ボードウォークに新海誠監督の姿を発見。ファンの声に応えて、サイン会を行っていました。
新海さんがサインを入れたメインビジュアルのパネル。「星を追う子ども」は5月7日公開で、徳島ではシネマサンシャイン北島で見ることができます。
トークショーは新町橋東公園で行われました。
本作を作ったきっかけとしては、「秒速5センチメートル」製作後に外務省のワークショップで中東へアニメ作りを教えに行った際、「秒速」を上映すると喜んではもらえたものの、日本の文化に根ざした表現、たとえば中東では共学は少なかったり、男女とも結婚までは純潔を保ったり、そもそも桜が咲かなかったりということに、共感してもらえないのではないかという思いや不安があったので、次に作る作品では前提条件を知らなくても「2時間見て楽しかったな」と思える作品にしたい、ということで冒険ものにしようということになったそうです。
本作では地下世界の名前として、そして「ほしのこえ」でも登場するアガルタは実際にチベットにある伝説で、新海さんがこれを知ったのはある児童文学作品から(タイトルは映画公開後に明らかにする予定とのこと)。この作品についてはよみうりホールでの試写会後舞台挨拶でも話が出ましたが、少年時代にハマったにも関わらず作者が亡くなったため未完に終わってしまっていて、他の方によるエピローグにピンと来なかった新海さんは「もし自分が書くのだったら、どういうラストにしただろうか?」という思いを抱いていたそうです。そういう思い出のある作品なので本作では地下世界アガルタが登場し、「ほしのこえ」でもアガルタの名前が出てきたというわけです。
「絵の雰囲気がだいぶ変わったという意見を見かけますが?」という質問に対しては、「いままでは日常を多く描いていてたが、今回は冒険もの。『ジブリっぽい絵』という声もありますが、もともと(名作劇場などを作っていた)日本アニメーションから連綿と受け継がれてきたものだと思います」と回答。スタイリッシュに変化を続ける絵柄がある一方で、ずっと変わらない日本のアニメの絵柄としてああいったものがあり、何十年も続いているということは物語を作るときに人格を込めやすかったり、器として性能の高いキャラクターになるのではないかと考えた新海さんは、作品の敷居を下げるためにこの絵柄を選んだそうです。
わざわざマチ★アソビ用に編集された5分間のプロモーション映像が持ち込まれました。この映像はトークショー内だけではなく、コミックス・ウェーブ・フィルムのブースでもずっと流されていました。また、映像が出るのにちょっと時間がかかったため、新海さんはその短い時間にもサービスとしていろいろなトークを繰り広げてくれました。
こちらがその映像の一部。
アスナ役は金元寿子さん、シュン役およびシン役を入野自由さん、モリサキ役を井上和彦さんが担当。モリサキは脚本執筆段階から井上さんを想定してのあて書きが行われていますが、それは死んだ奥さんを生き返らせるためにアガルタを目指している複雑なキャラクターで、アスナとの距離が微妙なところもあり、井上さんのように上手い人であれば、という考えがあったそうです。
金元さんが選ばれたことについて、新海さんは「(「侵略!イカ娘」の)イカちゃんを好きだから選んだ」という噂を笑って否定した上で、アスナも難しい役だからこそ複雑な声の演技ができる人を選ぶべくたくさんのテープを聴き、その中から金元さんであれば演じられそうだからと選んだと語りました。
初めて新海さんが金元さんと会った時点ではまだイカ娘は始まっておらず、イカ娘を知らなかった新海さんに「語尾にゲソとかイカをつけるんですよ」と金元さんは説明を行ったそうです。最初は「へぇ、そんなのがあるんですね」とだけ思っていた新海さん、いざ放送が始まるとかわいさにやられてしまい、放送のある月曜日は走って帰るぐらいファンになっていたそうです。ちなみに、金元さんは以前レンタルビデオ店でバイトをしており、そこで新海さんの作品を知ったのだとか。
ここで、金元さんからのシークレットメッセージ映像が流されました。「子どもの一生懸命な姿や大人の葛藤する姿は自分たちの生活する現実と重なる部分があるので、みんなもアスナたちと一緒に旅をするように、劇場で観てください」とのことでした。
話は入野自由さんのことへ。入野さんは今回、シュンとシンという兄弟を一人二役で演じています。シンは直情型タイプで、ちょっと子どもっぽいところがあったりして、アニメで言うとヒーローポジションになりやすいタイプで比較的演じるのは難しくない方なのですが、一方のシュンは王子様のようなポジションで日常だと口に出さないようなセリフを言うことがあり、その非現実的な言葉を言ってもわざとらしく聞こえない演技を入野さんはうまくできていて、そこが決め手になったのだそうです。
主題歌は熊木杏里さんが担当。ここには不思議な縁があり、YouTubeのMADムービーの中に新海さんの映像と熊木さんの曲を組み合わせたものがあって、それを「すごくいい組み合わせなのでみてください!」と新海さんに知らせた人があり、そこから新海さんは熊木さんのアルバムをiTunesで買ったりするようになったのだそうです。一方、熊木さんもこれを全く同じ理由で新海さんの映像のことを知っていて、今回、主題歌を担当してもらうことになったとのこと。
ここからは質疑応答タイムに入りました。「新海監督作品には遠距離恋愛をテーマにしたものが多いが、何かこれまでにトラウマのようなものはあるのか?」という質問に対しては、特に遠距離恋愛にどうこうというものはないが「秒速5センチメートル」にあった「1000通もメールのやりとりをしているのに、心が1センチぐらいしか近づいた気がしなかった」というような心理的距離を感じる恋愛はしたことがあると回答。また、本作でテーマががらっと変わったことについては、「秒速」で自分たちの思っていた形は一つ作り上げることができて区切りの感じがあったので、別のタイプに挑もうと思ったから、だそうです。
また、本作の映像を見るとかなりアクションをしている様子があり何か参考にしているのかという質問については、沙村広明さんの「無限の住人」や和月伸宏さんの「るろうに剣心」がかなり参考になったとのこと。
あまり直接的ではない「星を追う子ども」というタイトルについては、最初は「さよならの旅」というコードネームだったものの、足りないニュアンスがあるとずっと感じていて、「登場人物たちが見えているけれども手が届かないもの(=星)を追い続ける」ということでこのタイトルになったそうです。
最後は豪華賞品をかけてのじゃんけん大会。賞品は「星を追う子ども」ポスターと、コミックス第2巻が2冊。
激しい戦いの末……
3名の方が品を獲得。その場で新海さんがサインを入れていました。
ちなみにこのトークショーイベント後、新海さんは飛行機の時間まで昼食も取らずにずっとコミックス・ウェーブ・フィルムのブースでサインに応じていたそうです。
これがサインを求める行列、川沿いからビルの中まで伸びており、見えていませんがビル内左側で折り返して行列が続いていました。
新海さんはTwitterなどで作品の感想をよくチェックしたりしているようなので、5月7日公開の「星を追う子ども」を見に行った人はぜひ感想をツイートしてください。「次が観たい!」という声が多ければ、ひょっとすると次の企画が素早く動き始めるかもしれません。
・関連記事
「マチ★アソビ vol.6」全記事一覧まとめ - GIGAZINE
新海誠監督と主演の金元寿子&井上和彦が登壇した「星を追う子ども」完成披露試写会舞台挨拶レポート - GIGAZINE
新宿バルト9、シネマサンシャイン池袋ほか全国劇場にて公開となります。
・関連コンテンツ