取材

新海誠監督と主演の金元寿子&井上和彦が登壇した「星を追う子ども」完成披露試写会舞台挨拶レポート


4月26日に「星を追う子ども」完成披露試写会&舞台挨拶が行われました。登壇したのは新海誠監督と、ヒロインの渡瀬明日菜(アスナ)を演じた金元寿子さん、森崎竜司(モリサキ)を演じた井上和彦さん。

新海監督作品には初参加となった金元さんと、2度目の参加となる井上さんによるアフレコの様子や作品のイメージ、そして新海監督が語る作品のポイントなど、舞台挨拶の詳細レポートは以下から。作品の場面カットもあります。

なお、試写会後のトークだったため作品のかなり深い部分に触れた発言も含まれているので、映画館まで一切のネタバレには触れたくないという人は注意してください。


司会:
では、これより本日のゲストの方々をお迎えしたいと思います。みなさま盛大な拍手でお願いいたします。「星を追う子ども」に声の出演をしている金元寿子さん、井上和彦さん、そして新海誠監督です。

左から井上和彦さん、金元寿子さん、新海誠監督。


上映後の舞台挨拶ということで、まずみなさん、映画はいかがでしたでしょうか?

(会場拍手)

通常の舞台挨拶だと上映前に行ったりするのですが、本日は上映後と言うことで、みなさんの感じた思いも話の中で出てくるのではないかと思います。それでは、改めましてみなさんから完成披露試写会を迎えての感想を踏まえてまして、一言づついただければと思います。


まずは、主人公アスナの声を担当した金元寿子さんです。

金元寿子:
こんばんは、今日はお越しいただきましてありがとうございます。アスナをやらせていただきました金元寿子です。よろしくお願いします。

司会:
ありがとうございます。続きまして、森崎竜司を担当した井上和彦さんです。

井上和彦:
どうもみなさんこんばんは、井上和彦です。森崎竜司というすばらしい役をいただきまして幸せの限りです。本日はお越しいただいて誠にありがとうございます。

司会:
ありがとうございます。そして、この映画の原作、脚本、監督を務めます新海誠監督です。

新海誠:
こんばんは、新海と申します。このアニメーション映画はたくさんの人の力で作りました。今日は僕がそれを代表してここに登壇させていただいていますが、僕の後ろに200人ぐらい人がいると思って聞いてください。よろしくお願いします。

司会:
早速お話を伺っていこうと思います。まずは金元さん、今回、新海監督作品に初参加して、重要な役どころで大変だったと思いますがいかがですか?

金元:
本当に最初は緊張していて……。監督の作品は繊細で柔らかいイメージがあって、私にそんな心の動きを表現できるかなと緊張したんですが、アスナをやらせていただいてからだんだんと監督の作品にのめり込んでいって、途中からは本当に楽しくやらせていただきました。

金元さんが演じたアスナ。


監督とお会いするのも初めてだったので、アニメの監督さんということでやっぱり厳しい方なのかな、どんな方なのかなと思っていたら、新海監督はとても優しく柔らかい方だったので、とてもリラックスさせていただきました。

新海:
ありがとうございます。

司会:
井上さんは「雲のむこう、約束の場所」以来2度目の新海監督作品でしたが、今回はいかがでしたか?

井上:
今回は監督、厳しかったですね。まさかアフレコ現場に鞭を持ってくるなんて……冗談ですよ(笑)
アフレコ監督の三ツ矢(雄二)さんの隣にずっと座って、一言一言にこだわってこだわって、こだわり抜いて収録を進めていったので、何回かシーンを繰り返して録ったりするんですが、そのたびにどんどん良くなっていくのを感じました。

井上さんが演じたモリサキ。


監督の作品に対する思いの強さが出ていて、普通は何回もやると凹んだりしますが、そんなことはなくて「もっと良くしよう」という欲に駆られたところがあります。
前回もそうでしたが、スタジオに入る前に一度別のスタジオで金元さんとお会いして、一緒に掛け合いをしてこんな感じでいきましょうと役作りをやらせていただいたので、収録はとてもスムーズに進みました。

司会:
ありがとうございます。監督、ついに作品がお客さんの目に触れたわけですが、ステージに上がってどんなお気持ちですか?

新海:
この2年間、誰かに見てもらうためにずっと作ってきたので「ようやく仕事が終わったかな」という気持ちになりました。アフレコでは何度も何度もしゃべっていただいてすみませんでした。

司会:
アフレコはいかがでしたか、金元さん。大ベテランの井上さんと一緒で緊張したりはしませんでしたか?

金元:
すごく緊張しました。

井上:
うそでしょ(笑)

金元:
井上さんは会うととても優しくしてくださって、他にも大先輩方が多くいらっしゃる中でアドバイスをいただいたりして、みなさんに助けていただいて収録ができました。

司会:
井上さん、いかがでしたか?

井上:
緊張しました(笑)
作品は凄くまじめで緊張感のあるシーンがたくさん出てくるんですが、だからでしょうか、インターバルにはみんなで目に当てる蒸しマスクみたいなのをつけてふざけあったりして、和やかに収録をしておりました。

司会:
完成版をご覧になったときはいかがでしたか?

金元:
最初に見たときは正直、自分のだめ出しをしながら見てしまったんですが、2度目に見たときは作品に入り込んでしまって、音楽などすべてが交じり合ったときに、こういう作品になるんだと感じました。アフレコの時にはわからなかった情景や場の雰囲気がよりリアルに感じられて、この先のストーリーを知っているのに、最後までどうなるんだろうかと思いながら見てしまいました。

井上:
モリサキは最初は出てこないんです。でも、映画が始まった瞬間、めちゃくちゃきれいな絵に圧倒され、自然の中にいるみたいに癒されて「うわぁーっ……」って思いながら見ているといつの間にか僕が出てきてしゃべっていて。
気付いたら最後のエンドロールで「モリサキ:井上和彦」というのが出てきて、ようやく「あ!僕もやっていたんだ」と思うぐらいに、自分を忘れて見ていました。


司会:
新海監督の作品は毎回情景が本当に美しいわけですが、この作品ではモリサキはあらかじめ井上さんをイメージして作られたというのは本当ですか?

新海:
はい。絵コンテや脚本の段階から「これなら井上さんかな」と思いながらのアテ書き(演者を想定して書くこと)だったんです。モリサキはちょっと複雑なキャラクターで、ヒロインはアスナなんですが、影の主人公がモリサキですよね。アスナに対しても一瞬優しい瞬間もあるし、急にころっと変わって怖い瞬間もある。子どもから見たときの大人の未知な感じ、「大人って何を考えているんだろう」という複雑さを、井上さんならやっていただけるだろうと思って、最初から勝手にアテにしていました。

井上:
はい、とても難しかったです。

司会:
それぞれのキャラクターを演じてみて、ご自身ではどんなキャラクターだと思いましたか?

金元:
アスナは子どもの割にはしっかりとしていて、自分とはかけ離れているなと思いました。でも、作品が進むとだんだん子どもらしさが戻ってきたり、森崎先生と旅をして「お父さんみたいだ」と思ったり、だんだんと生き生きしてきたのが印象的でした。
大事なセリフもたくさんあって、別れのセリフや自分が何をしたかったのかなと思うセリフ、そういうところは本当に難しいなと思いながらも、大事だなと思ってやらせていただきました。

井上:
モリサキは一見大人なんですが、奥さんを思う優しさからこうなってしまっていて、男としての切なさみたいなものを感じながら演じさせていただきました。アスナに「お父さんみたい」って言われて思わず照れるシーンがあるんですが、照れるのもなにか不器用で、優しくて不器用で一途な人なんだなと感じました。
僕の声をイメージして書いたと監督が言ってくれたんですが、僕の中にはあまりモリサキっぽいところはなくて「うーんうーん……がんばろう」と思いつつ、自分に鞭打ってがんばりました。

新海:
アスナはやっぱり難しいキャラクターで、どなたにお願いするか迷ったんです。アスナは子どもだけに、自分が何をしたらいいかわからないんですよね。シュンくんのことを好きなのか、アガルタに行って何をしたいのか。わからないままに体を動かして物語のあいだ走り続けていくうちに、ただ寂しかったんだということに気付くキャラクターで、すごく複雑。そういうキャラクターがヒロインだというのは映画を2時間で構成するというのは、作っていても難しいなと思ったんです。物語を引っ張っていってくれる人が欲しいなと。その役割がまさにモリサキなんです。

アスナが出会った少年、シュン(CV:入野自由)。


モリサキは自分が何をやるべきかが固まりきっていて、それ以外はやりたくないというキャラクターですから、二人のバランスがどういう距離なのかなと。この作品は、登場人物全員が少しずつバラバラの方向を向いていて、少しずつ近づいたり離れたりする距離を繰り返していく作品なので、なんとか手で描かれたキャラクターに人格らしいものを感じられるようになったのは、声を入れてくれた声優さんたちの演技のおかげだなと思いました。

司会:
秒速5センチメートル」から、今度はどんな作品だろうかとみなさんずっと待っていたと思うんですが、この作品、構想は昔からあるとうかがいました。

新海:
いくつかのインタビューで答えていたり、映画のパンフレットにすべて書いてあったりして……ぜひ手に取っていただきたいのですが(会場笑)
きっかけは小学生の時に読んだある本で、地下世界アガルタというのはその本からなんです。ただ、その本の作者の方は途中で亡くなってしまって未完だったんです。他の方によって補足のエンディングが書かれているんですが、「どうも違うな、読みたいものじゃないな」と10歳ぐらいのときから思っていて、自分だったらどういう物語が見たいだろうというのをずっと考えていたんです。それが一つのきっかけです。
あと、その本ではじめて「人が死ぬ」というのがどういうことか、「ずっとやり続けてきたことが途中で終わってしまう」というのが「人が死ぬ」ということなんだ、というのに初めて気付かされて……その意味では、子どものころからずっと作りたい話だったと思います。

司会:
お二人はキャスティングの時にこういった話は?

井上:
これははじめて聞きました。

(会場笑)

新海:
不必要な情報ですから(笑)

司会:
セリフの一つ一つが深くて、脚本には相当時間がかかったのかなと思うのですが。

新海:
ロンドンに1年半ぐらい居たときにこの脚本を書き始めたんですね。冒険モノを作りたいけど、空にどこまでも昇っていく、何かをつかむような話は書きたいけどどうしても書けない、と。結果、地の底にどこまでも沈み込んでいって、その底で大事なものを見つける、気付くことだけでもできて、また地上に戻ってこられればいいなと思って書きはじめたんです。
なので、ロンドンのどよんとした空気が影響しているかもしれないし、僕自身の気持ち、上に行くよりは下に下がってしまうような、そういう気持ちで作り始めた作品ではありますね。

司会:
脚本をはじめて読んだときの気持ちはいかがでしたか?

金元:
いろんなテーマ性があるなと思いました。私はアスナの視点で読ませてもらって、他のキャラクターからはこの旅が全然別のもののように見えているのかなと思ったりしながら、何回も読み返してしまいました。

井上:
「人ってひどいなぁ」と思いました。地下で平和に暮らしているところに入り込んでいって荒らして……人の生き様、どういう風に人は生きたらいいんだろうというようなことをすごく考えさせられて。いろんなキャラクターが出てくるんですが、それぞれが生き生きとしていて、本当にそこに存在しているような感じを受けましたね。
今日、映画をご覧になった方も感じたと思いますが、きっと何回も見て、毎回色々なことを感じられる作品だなと思います。なので、いっぱい見てください。

司会:
作中にすごく印象的なセリフがいくつかある中で、モリサキに対してアスナとシンが言うセリフ「喪失を抱えてなお生きろと声が聞こえた。それが人間に与えられた呪いだ。でもそれは祝福でもあるんだと思う」というのがとても詩的で響くなと思ったんですが、この言葉に込めた思いは?

新海:
この言葉は、当たり前のことでもあるわけですよね。大切な人がいなくなってしまうということは、人が永遠に生きられない以上はあるわけで、喪失を抱えて生きるというのは当たり前のことなんです。それを、「ああ、そうだな」と改めて思ってもらうために2時間積み重ねてきたんです。
もう一つ、シンがクラヴィス(地下世界アガルタへの鍵)を壊すときに「生きているものが大事だ」と叫びますよね。僕自身や作品のメッセージというより、あれはシンがあの瞬間に感じた叫びだと思うんです、「アスナが大切だ」という。

アガルタの少年、シン(CV:入野自由)


でも、モリサキにとっては死んだ人の方がずっと大事なんですよね。それは間違いじゃないと思います。たとえば死んだペットが一生大切だという人もいるし、隣にいる生きた人が大事な人もいる。
どれが一番正しいということはいわず、一本のアニメーション作品を作りたいと思って作ってきたアニメですので、難しいなと思うところはいっぱいあって、見ていただいてうまくいっているかはわかりませんが、そんなところも考えながらもう一度見ていただきたいと思います。

司会:
最後にメッセージをお願いします。

井上:
本当にすばらしい作品で、このあと何年も何十年もいろんな人に見ていただきたい作品だと思います。5月7日から公開が始まります。ぜひみなさん、たくさんの方に見ていただけるように伝言ゲームをよろしくお願いします。本日はありがとうございました。

金元:
この作品から私が受けた印象は、普段はなかなかストレートに考えられないことをストレートに考えさせてくれて、他の人とも話せる機会になるし、テーマ性、生と死についてはなかなか触れられないことなので、いろいろな人や身近な人と見て「ああだったね、こうだったね」と話してもらえる作品だと思います。
私も家族や大事な人と見に行きたいと思います。なので、みなさんももう一度ぜひ見に行っていただけたらと思います。

新海:
僕は10年近く前に「ほしのこえ」という作品を一人で作って50人の小さな劇場からアニメーション作りをはじめました。今はスタッフが200人ぐらいいて、こうして作品を作らせ続けてもらっているのは、ここに居る方の中にもいるであろう「ほしのこえ」から見ていて支えてくれているみなさんや周りのスタッフのおかげです。全力で放ったボールのつもりですので、これを受けてどのように感じたか、またぜひネットとかに書いてください。検索して見ますので。

(会場笑)

新海:
また見てください。本当にありがとうございました。

トーク終了後のフォトセッションの様子。


こちらは作品の場面カット。繊細で美しい情景が伝わってきます。


トークイベントでも出てきた「アガルタ」というのは、あらゆる願いが叶うこの世の秘密が隠された場所だといわれている地下世界。地上で、アガルタの存在を唯一把握している組織が「アルカンジェリ」です。アガルタの秘密を追い続けており、強力な軍隊も所有しています。


アガルタへの鍵、「クラヴィス」。特殊な鉱石の結晶で、使い手によって様々な能力を発揮します。


「ケツァルトル」は人類に精神や文明を授けた神々で、姿は様々。何体かはアガルタへの門番として地上に残っているそうです。


アガルタの空を巡る巨大な船「シャクナ・ヴィマーナ」。


アガルタの果てにある巨大な穴「フィニス・テラ」。


アガルタで、闇の中でだけ実体を持つ「夷族(イゾク)」。人間の負の想念が積もった存在で、世界をそのままの状態にとどめようとする維持的機構でもあります。


映画「星を追う子ども」は5月7日、シネマサンシャイン池袋、新宿バルト9ほかにて全国ロードショー。新海誠監督は5月4日に「マチ★アソビ vol.6」に参戦、作品を語るトークショーを行うことになっているので、こちらも来られる人はぜひ足を運んでください。

©Makoto Shinkai/CMMMY

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in 取材,   映画,   アニメ, Posted by logc_nt

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