インタビュー

2009年版「ジャングル大帝」を手がけた谷口悟朗監督にアニメ監督の仕事やコードギアスの続編などについて聞いてみた


今から60年前の1950年から4年間にわたって学童社「漫画少年」に連載された手塚治虫の「ジャングル大帝」は、日本初の本格カラーアニメとなったフジテレビ版を皮切りに、何度もテレビアニメ化が行われました。

2009年にはフジテレビ開局50周年・手塚治虫誕生80周年作品として、人間が作り上げた「ネオジャングル」を舞台にするなど、大きく設定に手を加えた形で4度目のテレビアニメ化を果たしましたが、同作の監督を務めた「コードギアス 反逆のルルーシュ」や「ガン×ソード」「プラネテス」などで知られる谷口悟朗氏に、同作を手がけた心境や大作を手がけるプレッシャー、新作の構想、コードギアスの続編、アニメ監督の仕事などについて、いろいろと聞いてみました。

どうやらアニメの監督になるためには、とんでもないハードルがあるようです。

詳細は以下から。
今回インタビューを行った場所は、高田馬場にある手塚プロダクションです


鉄腕アトムの顔が目印です


社員専用通用口にはこんな案内が


入口はこんな感じ


鉄腕アトムの像があります


かなりの迫力。とてもよくできています


谷口悟朗監督


■谷口悟朗監督、「ジャングル大帝」を語る

GIGAZINE:
フジテレビ開局50周年・手塚治虫誕生80周年という節目の年に大作を手がけることになったわけですが、どういう心境で臨みましたか?

谷口悟朗:
最初に話が来た時に、「これはどういう意味があるのかな」と裏をいくつも考えてしまったんですよ。なぜかというと、20年くらい前に私自身は手塚プロの方に内定をもらっておきながら「ごめんなさい」ということで一方的に辞退したことがあったので。

これはちょっと呼び出されて説教をくらうのかと思っていたのですが、結果的には別に当時のことはどなたも覚えていなくて、まったく違う事情であるというのが分かったわけです。


従来の手塚治虫ファンの人たちは良いのですが、「手塚治虫」という記号が立派すぎるがゆえにその作品を知らないという子どもたちやその親御さんたちがいるわけですよね。事情というのは、そういう人たちへ「手塚治虫」というものを提示したい、より広く門戸を開きたいという思いが、手塚プロにあったということなんです。

そうすると確かに今までずっと手塚プロでやってこられた方々のところだとちょっと難しいのかもしれないということで、私に話が来たということですね。

GIGAZINE:
舞台が人間たちが人工的に作り出した「ネオジャングル」という、原作に大胆な変更を加えた内容となっていますが、ここまでドラスティックに変えることに対して、プレッシャーはありましたか?

谷口悟朗:
プレッシャーはなかったですね。まったくです。というか、従来の作品に対して変化を加えるということについても(プレッシャーは)なかったんです。もしかしたら一部に誤解があるかもしれないので確認しておきたい事があります。従来の、というか一番最初にフジテレビさんで総天然色という形でアニメ化された「ジャングル大帝」から今まで、いろいろイベント用のムービーなども込みで、どれも原作通りにはやっていないんですよね、実は。みんな、変更しているんですよ。

とすると、アニメ「ジャングル大帝」というものは、原作に対してどう立ち向かって、どう解釈するか、各時代や、スタッフによって違うつくりをすべきタイプの作品なんです。原作から何を引き抜くかによって表層は変わります。

これが2009年版の「ジャングル大帝」です

(C)手塚プロダクション・フジテレビジョン

等身大レオぬいぐるみ


谷口悟朗:
たとえば今の時代にシェイクスピアの戯曲「リア王」や「ハムレット」をやるとしても、今の時代の価値観だと少し合わないから、リア王は社長にしちゃおうとか、そういったことを劇団でも普通にやるわけじゃないですか。要するに「戯曲通りにしなくてはならない」というのであれば、例えばさっきのシェイクスピアの話ならば、まず日本で日本語でやってる段階でNGなんですよ。言語が違うんだから。原作通りではないんですよ。

そのようなものであるという視点に立った時に、原作の「ジャングル大帝」にある、未開の荒野であり、みんなが知らない動物や人、文化、風習がいっぱいある「楽しい、未開の怖いかもしれない不思議な空間、アフリカ」というのが原作の面白さの一つだったわけなんですよ。でも、このご時世にもうそれは通じないじゃないですか。そんなものはもうありえなくて、もしそのままやろうとするなら、もうドリーム…というか100%ファンタジーにするしかなくなってしまって。そうしたらそれこそ「ジャングル大帝」じゃないだろうと。だったらせめてそちら側の設定を変えるしかないということだったんですね。

そんなわけで「ネオジャングル」の場所をどうするか色々話をしたんですが、その中でフジテレビさんに即座に却下されたのが、衛星軌道上をジャングルがぐるぐる回っているというものだったんですよ。地球とジャングルが一直線に並んでぐわっと回るみたいな。「機動戦士ガンダム」でララァが死んでしまった時の、アムロの何だかワケ分かんないイメージのような映像みたいな感じですね。

で、衛星軌道上を回るジャングルの下に、日本列島が見えるというシーンを提案したら、フジテレビさんから「一般向けに作りましょう」みたいな感じで真っ先に却下されました(笑)でも、もしその案が通ってしまっていたら、ラストは「さらば地球よ」という感じになってしまうから、もっと間違ってしまったのかもしれないですよ。

GIGAZINE:
今回の「ジャングル大帝」は家族だけでなく、自然や環境保護をテーマにしていますが、劇中で語られている内容は谷口監督の環境に関する考えを反映したものなのでしょうか。

谷口悟朗:
そうだと思いますね。ただ、同時に脚本の鈴木おさむさんの考えというのも入っているから、100%自分のものだとは言えないと思いますけど。ただ、最初に鈴木さんと確認していたのが、「人は人の思惑で動くし、動物は動物の思惑で動く」というところで、それぞれの思惑のところが動いたりはするけれども、やっぱりそれらとは別に自然の力は冷徹に存在する……という立ち位置で行きましょう、というのが一番最初に確認したところです。

■声優と芸能人の違いは?

GIGAZINE:
声優陣として、川田妙子さんや矢島晶子さんといった専業声優以外に、時任三郎さんや松嶋菜々子さん、船越英一郎さんといった芸能人を数多く起用していますが、芸能人を起用することで何か違ったことはありましたか?

谷口悟朗:
ありましたね。顔出しする芸能人の方たちを呼ぶというのはどうだろう、というのがまず最初にフジテレビさんからの提案としてありましたが、私の方としても、それは面白いからやりましょうということで受けました。

あと、「声優が本職」というか、声優だけでご飯を食べている人たちとだけ仕事をする、ということは実は私自身一度も無いんですよ。舞台役者さんなどを使うケースが多くて、例えば「無限のリヴァイアス」の時は、主人公の声をあてている白鳥哲さんは、今は映画監督にもなっていますが、もともとは舞台役者の方でした。「ガン×ソード」の主人公のヴァンを演じた星野貴紀さんも舞台役者でしたね。そういう意味で言うと、何をもって「声優が本職」とするのは微妙に難しいんですよ。

たとえば、普通のアニメファンからすると、氷川博士役の千葉紗子さんは最初から声優が本職だと思ってしまうのかもしれませんが、もともと舞台をやっておられたはずですから、純粋な声優と言って良いのかどうか、わからないですよね。そういう方は、他にもいっぱいおられます。とすると、そんなところにいちいちこだわったって仕方がない。だから、私は声優オンリーという発想は初めからなかったんです。

GIGAZINE:
逆に声優さんならではの強みというのはありますか?

谷口悟朗:
子役に関してはいわゆる声優本職の人にお願いしましょうというのがありました。それは、声優としてのスキルがある人のほうが優れていますから。子役としてのキャラクターを作ったり、即座に必要な芝居を出し入れするというトレーニングは、普通の顔出しの芸能人さんはなされていません。当意即妙とでも言うべき対応には、「声優」という技術が必要です。

いつもレオを馬鹿にしている3匹組の子猿、イワザ(永澤菜教)とキッカー(山口勝平)ミザール(小桜エツ子)。いずれも声優本職の人が手がけています。

(C)手塚プロダクション・フジテレビジョン

谷口悟朗:
まず今回のアフレコは本職の声優さんだけを呼んで、彼らだけの音声テープを先に録って、音声ガイドにしました。音声ガイドというのは、その後で芸能人さんたちが声を当てる時に、どれくらいのペースでセリフをしゃべっていいのか分からないとか、どこでブレスを作っていいのか分からないとか、そういったことがあったらそれを聞かせてあげればよいというためのものだったんです。保険ですね。

ただ、これを使ったのは女子アナウンサーの方のアフレコの時くらいでしたね。いや、ほんとに皆さん、それぞれ存在感があって、勉強になりました。クリスタル・ケイさんやキャスターの小倉智昭さんなども、面白かったですしね。また機会があれば、お願いしたいぐらいです。あとですね、誤解している方が多いみたいなんで、言っておきますが、船越英一郎さんは、私の中では最初から声優枠なんですよ。声優経験がありますし。

話を戻すと、やっぱり声優や顔出しの芸能人に、線引きをするというのは、ちょっと難しいです。声優といったもの、芸能人といったものを、「生業」としてとらえているのか、「生き方」としてとらえているのかによって変わってきますからね。

また、専門的なところに突っ込んでいきますと、本職の声優さんはレスポンスが早いんですよ。マイクの入り方によって年齢の違いや息の違いとかを、使い分けるんですよね。「こっちから入るとどんな感じに聞こえるか」などといったことに、やっぱり慣れているんです。

これはちょっと難しいところなんですけど、「キャラクターとしての押し出しの強さ」だと、顔出しをする芸能人の役者さんの方が上かもしれないんですよ。かもしれない、と言ったのは、ジャングル大帝に出演した川田妙子さんや大塚明夫さん、矢島晶子さんといった人たちは、自分たちのキャラもありますし、押し出しの強さもあるので何ら問題はないんですよ。釘宮理恵さんみたいに自分の武器とするものを承知の上で使い分けている人もいますしね。

でも、トータルの広い意味での声優というところまで広げてしまうと、実は芸能人の人たちの、たとえば小倉さんのキャラの押し出しの仕方、もしくは時任さんや松嶋さんといった方たちのキャラの押し出しの仕方というのは、ある部分、そういったトップの声優さんたちと同じくらいの強さがあるわけなんです。となると、常に「自分」というキャラと向き合うしかない方々のほうが、より「押し出し」といったものを意識して行くんでしょうね。どちらが上とか下といったことではなく、あくまで割合や総数の話ですが。

レオの父親で、「ジャングル大帝」と呼ばれて慕われているパンジャの声は時任三郎さんです。

(C)手塚プロダクション・フジテレビジョン

谷口悟朗:
これは確かにいい勉強になりました。テレビシリーズの場合は、いわゆる「声優」さんと長く付き合っていくことで生まれる味があるんです。ただ、テレビスペシャルや劇場であったり、もしくはある程度本数が限られてしまうビデオアニメというのは、最初から役者さんにキャラクターを芝居で説明してもらった方が見やすいという時があるんですよ。

「コイツはいいやつです」「カッコイイやつです」とかあるいは「ヘタレです」とか、先に声で説明してもらった方が見やすかったりすることもあって。今までも、経験として知ってはいましたが、監督として実感できたのは良かったですね。諸条件が許すなら、顔出しの芸能人さんを、もっと選択肢の中に入れてあげた方がいいだろうなと思いましたね。広い意味での使い方というのはとても勉強になりました。

GIGAZINE:
確かに、「もののけ姫」での美輪明宏さんのインパクトはものすごかったですしね。

谷口悟朗:
ええ、美輪明宏さんはすでに「幻魔大戦」の時に、なんだか特徴ありすぎる芝居をされていましたけれど(笑)

■谷口監督作品に迫る

GIGAZINE:これまで谷口監督は「無限のリヴァイアス」「スクライド」「プラネテス」「ガン×ソード」「コードギアス 反逆のルルーシュ」など、数多くの作品を手がけてきましたが、どの作品にも一貫したコンセプトがあるように感じましたが、手がけた作品の順番には何らかの理由があるのでしょうか。

谷口悟朗:
私はアニメを制作するときに、コンセプトを意識してどうこうということはしないのですが、気がついたら、あるいは後で指摘されて気付くことはありますね。もしかして、結構こだわってしまうのかなと思うのは「社会構造としての上下」とか、要するに「差別・被差別」だとか、それは必ず何らかの形で入ってきてしまう気がするというのと、後は「親子関係」とか。私自身はまったく気づいていなかったんですよ。割と自然に入ってきちゃってて。

ただ、今回の「ジャングル大帝」に関しては、当初全く意識していなくて、後で「あれ?」と思ったのは、大山社長(主人公の父親)が着けているダーツだったんですよ。あれはそんなに意識していなかったんですけどね。寺岡さんにデザインしてもらって、木村さんにキャラ表として起こしてもらったのがいけなかったのかな。木村さんの方から「どうしてもカギ爪が浮かんじゃうんですわ」と言われまして。私も「あっ…」と。

GIGAZINE:
「ガン×ソード」に登場した「かぎ爪の男」を思い起こさせる話ですね(笑)

谷口悟朗:
はい。最初はただ単にダーツを持っているだけだったんですが、ただのダーツを投げているだけでは絵にならなくて面白くないし、漫画チックなものがいいし、ダーツを1本1本投げるのは作画も大変だから、全部それが指にくっついているような感じがいいかなと話していただけだったんですよ(笑)

GIGAZINE:
谷口監督の作品で、新プロジェクトが始動していることが発表された「コードギアス ~反逆のルルーシュ~」の続編を待ち望む人も多いと思われますが、完全新作の構想などはあるのでしょうか?

谷口悟朗:
「コードギアス ~反逆のルルーシュ~」の続編というのは、月刊少年エース連載の「漆黒の蓮夜」のことで良いんですかね?だとしたら、あれは続編じゃないですよ?としか言えないんですよね。時代設定がすでに違いますし。あえて言えば、あれは私の中で最初から想定していた「コードギアスプロジェクト」の一環です。

昨今のリーマンショック以来の不況で、完結にあと何年かかるんだろうと思っているくらいなのですが(笑)、いくつか「コードギアス」としてやっておかねばならないことがあるんですよ。個人的な宿題として。他にも考えている事はあるんですが、もしかしたら将来的に「●●編」が登場するとして、小説の方が向いているなら大河内一楼が書くといったことがあるかもしれませんよ。ただ、それ以上はわからないですね。誰かがお金を出してくれないとつくれないんで。どうなるのかは、私が聞きたいぐらいですよ。どうなっているんですかね?

■今後について

GIGAZINE:
完全新作の構想はありますか?

谷口悟朗:
これがあるにはあるのですが、まあいつものことながら企画が通らないんですよ(笑)仕事がなくって、どこかのお仕事いただけないかな、と思っているんですよ。 私、すぐ無職になるんで。たまたまNHKさんで「プラテネス」という作品を制作している時に「ガン×ソード」の企画が入ったので、その後の「コードギアス」とつながったんですけれど、あの時もし「ガン×ソード」が入っていなかったら、「プラテネス」のあとしばらく無職でしたからね。

私の名刺の肩書きは基本的に「演出」なんですよね。「監督」という肩書きの人もいるんですが、私には、そんな度胸ないですね。

「監督」と言ってしまったら、監督以外の仕事が来ないじゃないですか。「演出」ということにしておけば、それ以外のお仕事も来たりするので、それで何とか生きていけるというのもあるので。だから、逆に私が「誰か制作費出してくれ!」とお願いしたいくらいですよ(笑)。ホントに困っているんです。制作費を出してくれるのであれば、もういくつか企画はありますけど。でも、しょうがないところはありますけどね。(不況で)アニメーションの企画がほとんど通らなくなってしまっていますし。

GIGAZINE:
やはり企画が通る背景にはプロデューサーとの関係などもあるのでしょうか。

谷口悟朗:
新しく抜てきされたプロデューサーがいるとすると、今まで自分が一緒に組んできた新人の演出さんだったり、世話になった中堅の人だったりとか、そういう人を監督にしてあげたいなと思うのが、まあ言ってしまえば人情ですよね。私が担当演出だった時に制作進行や設定をやったりとか、年も近かったので一緒にバカをやったりしていた人が多かったんですけれど、やっぱりそういう人たちは管理職などになって出世していくわけなんです。

そうすると、(プロデューサーという役職に当時の仲間がいない状態になり、監督の枠を用意してくれる人がいなくなってしまって)私は無職になるわけなんです。まぁ、みんなそうなんでしょうけどね。どこかの会社にしっかり食い込むか、細田守さんみたいなローテーションの回し方をしない限りは厳しいでしょうね。でなかったら、水島精二さんのように、営業力に長けているとかね。何にもない人間が食えなくなるのは、仕方ないっちゃあ仕方ないですが。


■「アニメの監督」という仕事

GIGAZINE:
そもそも監督の仕事というのは何をするものなのでしょうか。

谷口悟朗:
えっとですね、すごく難しいです、この質問に対して答えるのは。どうしてかと言うと、人によって全然違うんですよ。たとえば「装甲騎兵ボトムズ」などの監督をされた高橋良輔さんという人は、自分でコンテを切ったりということはほぼしません。コピーのコンテに「もうちょっとかっこよく」とか、そういう直し指示が降りてくるから、「ああ、もうちょっとかっこよくね」とかそういう感じで直していくんです。

その代わり、あの人は次回予告の文章は必ず自分で書くんですよね。カット決めの時もかならず立ち会うんですよ。セリフの言い回しとかは全部自分で決めるんです。映像の基礎に当たるところは、みんなプロだから作れるでしょう、と。セリフの言い回しや単語のチョイス、語感とか、そういうものによる言霊は自分でコントロールするという、そういうタイプの監督さんなんです。

対して、「銀魂」の前の監督の高松信司さんという人は、担当演出さんに任せて、打ち合わせしたらそれでもうおしまい、みたいな。頭良いというか、それ以前にすべて手配してあるタイプですよね。「カウボーイ・ビバップ」なんかの渡辺信一郎(アフロじゃない方のナベシン)さんは編集とダビングにやたらめったらこだわるんです。その時に自分で編集した音楽テープも持ってきちゃうんですね。だから、人によって全然違います。


谷口悟朗:
ただ、共通していることがあります。これができない限り、私は監督と呼ぶことは認めないんですけど、まずは「ジャングル大帝」のプロジェクトがあるとします。これに対してのお金の責任はプロデューサーが取るわけです。対して「この作品がどういう方向性に向かって走っていけばいいのか」という話をするのが監督なんです。それさえできれば、どんな人でも監督になれます。

それがなければ、各スタッフは自分の趣味でやり始めますから。方向性を示さないと「今からマラソンしましょう」と集まっても、ポーンとスタートしたが最後、360度ばらばらの方向になってしまうわけなんですよ。全速力で走ってもいいし、ゆっくり走ってもいいんだけど、「まず最初はあそこのルートから走れ」と指し示すことができれば、どんな人であってもその人は「監督」です。

GIGAZINE:
つまり方向を指し示すことができる人が監督になれるということですね。

谷口悟朗:
でも、実際には「監督」になるためのハードルのところで持ちこたえきれなくなります。持ちこたえられなくなる理由ですが、1つは自分自身の「名誉欲」です。「自分が監督をやる限りは」といった名誉のところで、作品を手がける前にとらわれてしまって判断ができなくなる、といえばいいんでしょうか。

それが自分にとってのプライドだったらいいんですけど、「自分さえ目立てばいい」という形の名誉に働いてしまったら、今度は周りのスタッフの方がついてこないですよ。スタッフからしたら「え、俺ら雑魚?」みたいな意識になってしまいますし。加えて「監督」は実はそんなに収入がありません。脚本家みたいに印税が認められているわけでもないですから、そのソフトが売れようが売れまいが得られるお金には関係ないです。

そしてスタッフを代表する人格になってしまうので、ある程度、周囲から叩かれるわけですよ。でも、これは基本なんです。監督やりたいとか演出やりたいという人間にはまず言いますから。「大事なことは、2chでアンチスレが立てられて、氏ねとか業界のクズとかあいつオワタとか言われてやっと一人前だ」と。

こういうことに耐えられる人間はあまりいないんですよ。自分の名誉を追い求めてはいけません、お金も手に入りません、2ch見たら自分のアンチスレが立っています、田舎に帰っても友達とかに笑われてしまいます。こんなハードルを越えた上で、「でもアニメ好きだよね?作りたいよね?」という問いに答えられないと、監督とは言えないんですよ。その上で方向性を示さなくてはいけません。


谷口悟朗:
耐えられないなら最初からネットなんか見るなとか、最初から名誉なんか求めるなとか、金は別のところで稼いでおけ…と、そうなるわけです。本当はこんな監督のあり方というのはいけないんでしょうけれど、「次のステップとしてどうしたらいいのか」というのは、アニメ業界の問題として、世代で方向性を示さねばならないのかもしれませんね。私や細田さん、水島さん、もしくはProduction I.G.などで活動している神山健治さんや京都アニメーションの石原立也さんだったりとか。

富野由悠季さんの世代はやるだけやってしまいましたし、押井守さんの世代もやられています。そして、大地丙太郎さんや原恵一さん達の世代があったところで、それでも突破できないものがあって、業界全体の問題には取り組めませんでした。少しずつ進むしかないんでしょうけどね。だから、まあそんなものですよ、監督というものは。

それでもアニメが好きだという人は、どうぞアニメ界に来てください、と。ただこれからアニメ界に来る人たちが監督になるころには、もうちょっと良くなっていると思います。今言ったパターンというのはここ10年のパターンなんです。10年というのは、2chがちょうど10年前にできているんです。今はまだそのようなものに対するモラルやルールが確立しきれていない状態のものなので、これからもうちょっと整備されていくはずなんです。システムではなく倫理として、ですかね。

GIGAZINE:
完全新作をやるとすれば、いったい何がテーマになりますか?

谷口悟朗:
何を作るにしても、基本的には「コミュニケーション」といったものに関しては入ってくると思います。あと「価値観」ですかね。人にとって大事なものとか、生きていく上での価値観だったりとか、そこのところに関しては常に入ってきます。


■谷口監督のプライベート

GIGAZINE:
最近見て「これは面白かった、よくできているな」と思った作品は何がありますか?(映画・アニメなど)

谷口悟朗:
NHK教育の「こたつたこ」ですね。ピタゴラスイッチだとか10分アニメをやっている枠に「こたつたこ」という歌があるんですよ。ゆるゆるの脱力した感じなんですけど。要するに「こたつたこ」は上から読んでも下から読んでも「こたつたこ」じゃないですか。その次に「いかとかい」という感じで、繋がっているのかいないのか分からないような歌が延々と流れて、じゃあもう一回最初からと言われて、また最初から流れたりして。つまらないおもしろさ、というのがありますね。だいたいその辺さえチェックしておけばなんとかなるというのが私の考えなので。

GIGAZINE:
好きな食べ物を教えて下さい。

谷口悟朗:
なんですか、その質問(笑)
えっとですね、まず、基本は好き嫌いがないんですよ。好きなもの……改めて聞かれると結構困るなあ。ごく普通のものになりますよ。飲みに行ったりすると、玉子焼きと唐揚げと冷やしトマトを頼むんですよ。積極的に枝豆は頼まないんです。あと、結構困るのが機械的に串焼きの盛り合わせとか刺身の盛り合わせを少人数なのに頼んじゃう人がいたりして、そういうのは結構困るんですよね。

多分ね、時期的には「ラーメン」と言った方がいいかもしれません。ビッグコミックスペリオールで連載されている「らーめん才遊記」という漫画の第1巻が先日発売されまして、そこに推薦文を書かせていただいたので(笑)そうするとやっぱり時期的にはラーメンと言っておくのが正しいと思うんですよ。

GIGAZINE:
最後に、GIGAZINE読者に対して何かメッセージをいただけますか。

谷口悟朗:
日々の生活で一服の清涼剤が欲しいと思っている皆様方、もしもよろしければ日々のお小遣いをちょっとだけ我慢して貯めていただいて、ぜひともジャングル大帝をお買い上げいただけると、そのちょっとした一服の清涼剤が毎日あなたの手元に届くと思います。倉田英之も10枚買うと言っております。あなたも1枚いかがでしょうか?

GIGAZINE:
……ありがとうございました!

なお、谷口悟朗監督の「ジャングル大帝」DVD版ですが、発売元はポニーキャニオンで、「通常版」と特典もりだくさんの「特装版」の2種類があり、詳細は以下となっています。

これが通常版のパッケージ


特装版は書き起こしオリジナルスリーブパッケージです。


内容は手塚治虫と天野喜孝のオリジナル書き起こしジャケットおよびピクチャーレーベルに加えて、キャラクター相関図や谷口監督コメントシート、天野喜孝、豪華原画カードセット・オリジナル着せ替えジャケットなどが封入されているなど、とても豪華な内容となっているほか、番組予告CM集や予告番組、美術設定集、コンテ撮影なども収録されたディスク2枚組構成となっています。


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タイトル:ジャングル大帝 ~勇気が未来をかえる~ 特装版
発売元: フジテレビ/手塚プロダクション
販売元: ポニーキャニオン
発売日: 2010.3.15
価格  : ¥6,825(税抜価格¥6,500)/2枚組
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タイトル:ジャングル大帝 ~勇気が未来をかえる~ 通常版
発売元: フジテレビ/手塚プロダクション
販売元: ポニーキャニオン
発売日: 2010.3.15
価格  : ¥3,990(税抜価格¥3,800)
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in 取材,   インタビュー,   アニメ, Posted by darkhorse_log

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