サイエンス

背が高いサッカー選手ほどファウルをとられやすいことが明らかに


サッカーのファウルは審判から見えにくい位置で起こる場合も多く、倒された選手が必要以上に痛がる演技をすることや接触していないのにわざと倒れるシミュレーションがテクニックとして存在することもあって、応援するチームの選手がファウルをとられたるたびに審判に罵声(ばせい)を浴びせる熱心なサッカーファンも多いようです。

審判にとっても判定が難しいことも多いファウル行為ですが、オランダ・エラスムス大学の科学者たちによる調査で、接触した2人の選手のうちどちらに非があるのかあやふやな場合には背が高い方の選手がファウルを犯したという判定を受ける傾向が明らかになりました。


詳細は以下から。Taller football (soccer) players more likely to be accused of fouls, research indicates

RePub: How embodied cognitions affect judgments: Height-related attribution bias in football foul calls

接触した選手のどちらがファウルを犯しどちらがファウルを受けたのか判定が難しい状況において、審判や観客の判断が無意識の先入観によりどう影響されるかを調べるエラスムス大学ロッテルダム経営管理大学院のNiels van Quaquebeke博士とSteffen Giessner博士による研究は、ビジネスにおける意思決定に関する識見をスポーツに応用することから始まりました。研究結果の詳細はJournal of Sport & Exercise Psychology誌の2010年2月発売号に掲載される予定です。

進化論的研究や言語学的な研究により、人々は身体の大きさを「攻撃性」や「支配力」といった観念と結びつけることが明らかになっています。このことからVan Quaquebeke博士とGiessner博士は、あいまいな状況では接触した2人の選手のうち背が高い方がファウルを犯したと判定されやすいのではないかと考えました。

研究ではデータ会社IMPIRE AGにより記録された過去7シーズン分のUEFAチャンピオンズリーグ(総ファウル数:3万2142件)とドイツのサッカー・ブンデスリーガ(8万5262件)および1998年・2002年・2006年のFIFAワールドカップ(6440件)のファウルのデータを分析したところ、すべてのシーズン・リーグ・データ収集方法において身長が高い選手が「加害者」とされやすい傾向がありました。

年々選手たちが高身長化していることや、リーグやポジションによる平均身長の差などの要素を考慮してデータを解析した結果、「加害者とされた選手」の平均身長は「被害者とされた選手」の平均身長より高いということが示されました。

ポジション別(ゴール・ディフェンス・ミッドフィールド・フォワード)の「加害者(Perpetrator)」と「被害者(Victim)」の平均身長。すべてのポジションの合計では「加害者」の平均身長が「被害者」より0.85cm程度高くなっています。


また、2人の選手の身長差が1~5cmの場合には背が高い方の選手がファウルをとられる割合は52.04%だったのに対し、身長差6~10cmでは55.40%、身長差が10cmを超える場合では58.81%となっていて、接触した選手間の身長差が明らかなほど、ファウルの判定に身長によるバイアスがかかりやすいことが示唆されています。

身長差・リーグ別の背が高い方の選手がファウルをとられる割合のグラフ。


また、ドイツのサッカー関連のウェブサイト上で募集した120人の被験者(男性87名・女性33名、大多数はサッカー経験者)に2人の選手がボールを取り合う絵を見せ、「左側の選手はこの後地面に倒れる」と伝えたうえで、転倒の原因を「右の選手によるファウル」「ダイブ(故意に転倒しファウルを受けたと見せかけ審判を欺くプレイ)」「偶然(単なる転倒)」の3つから選んでもらったところ、左の選手が右の選手より小柄だった場合、逆の場合と比べ「右の選手によるファウル」という回答の割合がはるかに高く、身長による先入観の存在を裏付ける結果となったそうです。

画像は一方の選手が他方より大柄に見えるよう加工され、ランダムに被験者に割り当てられました。


地面に倒れる選手が相手選手より小柄な場合、逆の場合と比べ「ファウル」という回答の割合が高くなっています。なお、転倒原因の「ダイブ」と「偶然」は「ファウル無し」に統合されています。


また、被験者に画像の2人の選手の身長と「たくましさ」(5段階評価)を推測してもらったところ、推定身長の平均は大柄な選手が184.34cm、小柄な選手が174.76cmで、「たくましさ」の平均値は大柄な選手が3.56、小柄な選手が2.59と、大柄な人の方が「たくましい」という先入観の存在を示したそうです。

次に、オンラインの消費者パネルで募集した196人の被験者(男性176名・女性20名、大多数がサッカー経験者)に同じ画像(ただし、前回使った画像で左の選手が小柄な場合は左の選手の方がボールに近いようにも見えるため、2人の選手のボールからの距離が同じに見えるよう調整されたとのこと)を見せ、「左右どちらの選手がこの後地面に倒れるか」を予想してもらったのち、その理由を前回の調査と同様に「ファウル」「ダイブ」「偶然」から選んでもらいました。

その結果、どちらの選手が倒れるかに関しては、小柄な方の選手が倒れると予想する被験者が多く、小柄な選手が転倒した場合の転倒理由は「相手選手によるファウル」の割合が高かったのに対し、大柄な選手が転倒した場合は「ファウル無し(ダイブまたは偶然)」の割合が高かったとのこと。


大柄な子どもと小柄な子どもがケンカをすると大柄な方が悪者扱いをされやすいというのは幼稚園児でも知っている法則ですが、世界トップレベルのプロの審判でもこの先入観の影響を免れないようです。

ちなみに、サッカーと同様にファウルの判定が難しい状況が生まれやすいラグビーやアメリカンフットボールでは、さまざまな角度からのスローモーション映像での判定補助が導入されていますが、サッカーの判定はFIFAの方針によりいまだに完全に人の目に頼っているとのことです。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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