インタビュー

最高レベルのCGを駆使し他には考えられないキャストを揃えた映画「サマーウォーズ」の細田守監督へインタビュー


時をかける少女」のスタッフが再結集して作り上げた映画「サマーウォーズ」が8月1日(土)から公開となります。今回、この「サマーウォーズ」の細田守監督にインタビューを行うことができたので、作品についていろいろとお話をうかがってきました。

子どもからお年寄りまでありとあらゆる世代の人に見て欲しい映画で、この役にはこの人しかいないというキャストを揃え、CGはデジタル・フロンティアによる現代最高レベルの仕事が見られる作品になっているそうです。

舞台はよみうりテレビ。


ということで、細田監督へのインタビューが始まりました。


GIGAZINE(以下、G):
時をかける少女」が終わってすぐに「次はアクションものを作りたい」ということでこの「サマーウォーズ」を作られたそうですが、視聴対象として考えている客層などはあるのでしょうか?

細田監督(以下、監督):
だいたい僕は主人公と同じような感じの人に見て欲しいというのがあって、前作の「時をかける少女」は主人公の真琴みたいな高校生の女の子に見て欲しいと思って作ったんですよ。実際に高校生へ取材もしたし、街で高校生を眺めながら彼女たちは何を考えているんだろうと思いを巡らせたりしつつ、この高校生たちのためにと作り上げました。

G:
なるほど。では、「サマーウォーズ」では主人公の健二のような高校生の男の子がメインターゲットですか。

監督:
「サマーウォーズ」の場合は、物語の主人公は神木隆之介君演じる健二なんですが、このポスターに映っている陣内家全員が主役みたいなものなんです。だから、例えば5~6歳の子から90歳のおばあちゃんまで見て欲しいという気持ちです。さすがに90歳のおばあちゃんが映画館へ見にくるのは、場内に階段があったりして危ないかもしれませんけれど、見て欲しいと思いますね。ターゲットはいろいろな世代ということになりますね。

G:
「サマーウォーズ」を作っていく上で苦労した点はありましたか。

監督:
「時をかける少女」は登場人物が絞られた中での映画でしたけれど、今回はこのように総勢28人の大家族が出てきて、しかも一人一人が活躍するシーンがあり、最後はみんなが集まるからどのカットにも全員映っているとか、大変ですよね。

G:
確かに、主人公として健二がいますが、陣内家の人々はそれぞれが生き生きと動いていて、それこそ全員主人公と言ってもいいぐらいでしたね。

監督:
そうなんですよね。全員動かすのは大変でしたけれど、みんなを動かすと一気に沸き立つ雰囲気が伝わってくるようで、アニメーターの人たちが苦労した分、勢いが画面で表現できていると思います。

G:
作業は大変だったけれど楽しくやれたという感じでしょうか。

監督:
現場はスケジュール的に本当に終わるんだろうかとか色々と大変でした。でも、アニメの中であまりじっくり描かれない家族のお話をやっていることもあるし、しんどい中でもスタッフのみんながノってやってくれました。アフレコも今回はみんな一緒に集まってお芝居して、まるで家族のような一体感を出せていると思います。

この大人数がそれぞれに個性を主張して動くので、画面はとてもにぎやか。


G:
「サマーウォーズ」で、ここは今回かなり挑戦したぞというポイントはありますか。

監督:
「デジタル世界」と「家族・親戚」という組み合わせが、今までの映画史の中でも珍しいのではないかと思います。「デジタル」「家族」を、どちらが良い悪いということではなく、両方とも大事な僕らのネットワークだということでデリケートに描きました。家族たちを主役にしてアクション映画を作ったという、このことがまずチャレンジでしたね。今までアニメでこういった作品が無かったので「アニメで家族?何それ?」とアニメ好きに言われるんじゃないかなと、作っているときはすごく不安でした。最近始まった試写では「面白いじゃないか」と言ってもらえて「うまくいったところがあるかもな」と思っていますが、まだ公開前なので不安といえば不安です。作品としては若い女の子がいっぱい出てくるわけじゃなく、いるのは30代40代のおばさんばっかりという今のアニメ向きではない題材ですが、ぜひこのチャレンジを認めていただければと思っています。

G:
「時かけ」ではフレッシュさを出すために本職の声優ではないキャストを多数起用したとのことですが、本作のメインキャストも本職の声優ではない人が起用されているのは同じ意図があるのでしょうか。

監督:
「フレッシュさ」というよりは「キャラクターらしさ」ですね。例えば、神木(隆之介)くんは健二そのもの。この企画がスタートしたのは3年前だからまだ神木くんは12~13歳ぐらいだったのでまさか神木くんがこのキャラクターを演じることになるとは思わなかったですよ。神木くんが16歳で健二と同じぐらいの年頃で、しかも芸歴14年なのにとても謙虚な性格というところが、もう神木くん以外にこの役を演じる人はいないだろうというぐらいにそのものなんです。陣内栄という90歳のおばあちゃん役はまだおばあちゃんというにはお若くてお願いするのが失礼なぐらいですが富司純子さんに引き受けてもらって、背筋のしゃんと伸びたキリッとしたおばあちゃんを演じてもらいました。どの役も、キャラクターと役者さんの人間性が一致するような人にお願いしたという感じです。

細田監督がメインビジュアルを指さしながら説明してくれました。


神木隆之介さんが演じるのは主人公の小磯健二。


G:
なるほど。

監督:
今回のキャストでは永井一郎さんや中村正さん、信澤三惠子さん、山像かおりさんなどの名優に来てもらっていますが、その中で全然アニメ作品での演技経験がなかったのが夏希役の桜庭ななみさん。彼女の演じる夏希というのはキャラクター全員を見てもらうとわかるんですが唯一の若い女の子、美少女ヒロイン役ということで、アニメ世界に美少女ヒロインなんてたくさんいるから演じる人はすぐに見つかるだろうと思っていたんです。そしていざオーディションをやってみると、今回はオーディションの質がとても高くて実際に上手な人がたくさん参加してくれたのですが、なかなかピンと来る人が見つからなくて。

G:
どこかちょっと夏希とは違うな、ということですか。

監督:
そうなんです。やる前は美少女なんてすぐに見つかるだろうと思っていたけれど、それは僕の勘違いで、夏希がただの美少女ではないということがオーディションをやっているうちにわかってきたんです。ただかわいく演じられても困っちゃう、男の子を巻き込む17歳の先輩の素朴な罪のなさみたいなものが必要で、あまり"美少女声"すぎると合わないんですよ。

G:
かわいいだけではダメなんですね……。

監督:
見つかるまで、ずいぶんオーディションをやりましたよ。桜庭さんがオーディションにやってきた時、あまり経験がないはずなんですが、二言三言聞いた瞬間に「あ、この子が夏希だ」ってピンと来たんです。「時かけ」の時も、仲里依紗さんの声を聞いた瞬間に「これは真琴だ」ってすぐにわかりましたね。どうも、上手か下手かではなく、役そのものかどうかという所なんだと思います。夏希という役を作ってもらうのではなく、夏希の素養を持っている人を探し出すということなんですね。

桜庭ななみさんが演じた篠原夏希(のアバター)。


G:
その仲さんが本作では陣内由美という、38歳の子持ちのおばさん役をやっているわけですが、これもそういった理由ですか?

監督:
仲さんは「時かけ」では主役の真琴と一致すると思ったんですが、それから3年経ってすごくうまい女優さんに成長しています。うまい女優さんは自分と役柄が多少離れていても合わせられるもので、仲さんが自分とはかけ離れた38歳で子持ちのおばさんを生き生きと演じているというのは、それだけ仲里依紗が上手な証拠だと思うんです。どうしても由美のような役だとオバサンっぽい、年をとったような声をイメージしてしまうんですが、実際の30歳40歳というとそんなに年を取っていないんですよね。だから、むしろ若い人じゃないと今の中年、大人の声は出せないなと。チャレンジながらも仲さんに演じてもらって、リアルな30代っぽさを出せたのではないかと思います。

「ここに名前は載ってないけれど、すごいキャストばかりですよ」と細田監督。


G:
確かに、見ていてまったく違和感がありませんでした。話は変わりますが、東京国際アニメフェア2009のステージイベントで3Dのお話があり、映画「アップルシード」の3D質感には驚いたというような発言がありましたが、今回OZ世界をCGで表現したことでそういった質感というのに近づけたりしたのでしょうか。

監督:
これはもう別の話になってしまいますね。「アップルシード」はコンセプトがうまくて、デジタル・フロンティアというCG技術バリバリの会社が、トゥーンレンダリングでキャラクターを表現するという、これまでは方法としてはありかなと思っていても誰もやっていなかったことを堂々とやってみせたというコンセプトの勝利だと思うんです。でも今回のCGはそれとは違い、トゥーンレンダリングで表現することを前提として、CGのレベルの高さをどう表現するかというところで、最高レベルの仕事をしてもらいました。OZはごちゃごちゃしていないすごくシンプルな世界なんですが、シンプルだからといって簡単に作ったわけではなくて、白い色の中でも微妙にグラデーションしていたりすごく手間がかかっています。アバターも10億体ぐらいいるという世界ですから。

G:
アバターは10億体それぞれ1体1体違う顔なんだと、アニメフェアでうかがいました。

監督:
アニメフェアの時はまだラッシュフィルム段階でしたが、完成すると本当にすごいですよ。これを映画館の大画面で見るとグワーッっと迫ってくるのでエラいことになってます。アニメーションの中でCGが使われていてスゴいスゴくないなんて他の作品で言われていたりしますけれど、「サマーウォーズ」は本当にすごいですよ。「サマーウォーズ」でのデジタル・フロンティアの仕事っぷりはスゴい、「これでも食らえ!」って感じです。今までアニメだとCGが浮いているとか、マッチングさせるのがどうこうなんて話をしてますが、「これを見ろ!」と思いますね(笑)。

10億体のアバターが動く様子は大迫力です。


G:
作中に登場するOZというのはmixiやMySpaceのようなSNSのイメージだそうですが、作中でラブマシーンというAIが登場してOZをめちゃくちゃにしてしまうのは、現実世界でのSNSやインターネットへの警鐘のようなところもあるのでしょうか。

監督:
警鐘というのはなくて……僕はずっとMacユーザーで、Windowsほどセキュリティを気にせずに済むのでそういうのはないんですよ。

G:
ああ、なるほど。

監督:
どっちかというと、ネット世界はそういうトラブルも含めて楽しさがあると思うんです。僕がもし最初からWindowsを使っていたら「ネットって怖いんだぜ」という映画になったかも知れませんが、Macだとそういうトラブルが起きても呑気な気分になってしまって。

G:
なるほど、作中でもOZがめちゃくちゃになってしまいながらもどこか雰囲気が明るいのはその影響もあるんでしょうね。

監督:
Windowsだとファイルが流出してしまった事件とかありましたけれど、そういうのがあるんだなぁと思いましたから。Macはもう、例えば動画なんてほぼ見られませんし(笑)。

G:
セキュリティ面は安心かも知れませんが、ちょっと不便ですね。次は作中のことになりますが、ラブマシーンは最初は健二のアバターを乗っ取っていますが、やがて独自のアバターを手に入れています。この独自アバターが神話に出てくるような外見で、しかも後光まで背負っているのですが、なぜメカメカしいデザインではなくてこういったデザインになったのですか?

監督:
ラブマシーンをどういうデザインにしようかと考えたときに、アカウントを奪っていくAIだから奪ったものはどこかに収納するだろうと考えたんです。実はモデルは大日如来なんですが、大日如来って背中に後光や炎を背負っていていっぱい装具をつけていてカッコイイなと思い、OZのキャラクターデザインをした岡崎(能士)さんと話をしていたら岡崎さんも仏像の中では大日如来が好きだったらしいです。それで、デジタル世界を脅かす敵が仏教的なビジュアルだと新鮮で面白いだろうと。巨大化すると後光が観覧車のようにデカくなって、雲をまとっているから仏画のような世界ですよ。後半はどこか仏教的な雰囲気が漂っていますよね。

G:
これまでにファンの方に言われて嬉しかったことというのは、どういったことでしょうか?

監督:
やはり楽しんでもらえて、「スカッと面白かった」とか「すごく楽しませてもらいました」と言ってもらえると嬉しいですね。今の映画は難しい話が多かったりするけれど、自分自身はスカッとする物語や、見終わった後に楽しくなるようなものを目指しているので、そういう楽しさを受け止めてもらえると嬉しいです。

「映画は楽しくなければ」と細田監督。


G:
すでに多くのインタビューで答えられている質問だと思いますが、「これだけは言っておきたい」ということはありますか?

監督:
このインタビューはネットに載って皆さんがお読みになるんですよね。「サマーウォーズ」のようにウェブを舞台にした映画というのは、この夏のハリウッド映画のラインナップを見ても、珍しいと思います。ウェブを見ている人にとって近い世界での冒険活劇ですから、普通の人ももちろん楽しめますが、ウェブに対して親和性の高い人はさらに楽しめる要素がいっぱいあると思うので、ぜひ見に来て欲しいと思います。

G:
最後に、「時かけ」は日本の女の子のバイタリティーを表現したいということで作り上げたというお話があり、今回の「サマーウォーズ」では大家族のバイタリティーを描きたいということでしたが、次回作についてなにか構想はありますか?

監督:
次はですね……「時かけ」を皆さんに見てもらえたから「サマーウォーズ」を作れたというのがあるので、「サマーウォーズ」がヒットすれば次の作品を作るチャンスが訪れると思います。そういう連続なので、この作品を楽しんでもらい、また何か新しく皆さんを楽しませるようなものを作れればいいなと。次にチャンスがもらえたとしたら、やっぱり作るからには楽しい作品を作りたいと思います。

G:
なるほど。「サマーウォーズ」が大ヒットして、次へとつながることを期待しています。本日はありがとうございました。

映画「サマーウォーズ」公式サイト
http://s-wars.jp/

© 2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

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