サイエンス

顧客が決済端末でのチップ支払いを「監視されている」と感じるとビジネスに悪影響が及ぶ


アメリカなどの一部の国々では、正規の料金とは別にサービスを受けたことへの感謝を示すチップを支払う習慣がありますが、近年はデジタル決済の普及によってチップの習慣にも変化が生じています。学術誌のJournal of Business Researchに掲載された論文では、顧客がチップを支払う際のプライバシーについて調査したところ、「チップの支払いを監視するとビジネスに悪影響が及ぶ」という結果が示されました。

Tipping privacy: The detrimental impact of observation on non-tip responses - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0148296324005125


Tip pressure might work in the moment, but customers are less likely to return
https://theconversation.com/tip-pressure-might-work-in-the-moment-but-customers-are-less-likely-to-return-242089

近年のアメリカではデジタル決済が普及しており、これに伴って「デジタルチップ支払いシステム」も台頭しています。しかし、チップを支払う際に「従業員に監視されている」と感じる顧客も多いそうで、従業員による監視が暗黙のプレッシャーになっている可能性があるとのこと。


そこでアメリカのリッチモンド大学でマーケティング学准教授を務めるサラ・ハンソン氏らは、実際の店舗で行われた3万6000件以上のデジタル決済の取引データと、合計1100人以上の被験者を対象に行った実験データを分析しました。一連の調査では、従業員から手元が見えやすいタイプのデジタル決済端末でチップを支払う場合(低プライバシー)と、従業員から見えないタイプの決済端末でチップを支払う場合(高プライバシー)が比較されました。

たとえば、以下の画像左にあるカウンタートップタイプの決済端末は、画面が従業員の逆方向を向いているため、高プライバシーの決済端末といえます。一方、画像右の手持ち操作タイプの決済端末は、デバイスそのものが従業員の手元付近にあり画面が見えやすいため、低プライバシーの決済端末だというわけです。


分析の結果、低プライバシーの決済端末を使った顧客は、高プライバシーの決済端末を使った顧客と比較して、その店舗に再来店する割合が明らかに低いことが判明。また、その店舗を他の人にオススメする割合も、低プライバシーの決済端末を使った顧客では低下することもわかりました。

研究チームは、「プライバシーが守られることで顧客はより寛大になり、自分の意思決定をコントロールできるようになったと感じることが多くなりましたが、監視されていると感じると憤りを感じ、忠誠心が低下しました」と述べています。

過去の研究では、人々は慈善団体に寄付する際に、周囲から見られた方がいいと感じていることがわかっています。しかし、チップの支払いは完全に自発的なものではなく、社会的な期待に応えるプレッシャーを感じるものであるため、一般的な寄付とは感じ方が異なると考えられます。


デジタルチップ支払いシステムは便利なものですが、近年は店側によるチップ支払いの期待が上昇していることを問題視する「tipflation(チップフレーション)」という言葉も登場するなど、消費者にストレスを与える要因になっています。

研究チームは、「企業にとっては、顧客にチップをコントロールさせることと、寛大さを持たせることの適切なバランスが非常に重要です。顧客がチップを支払う際のプライバシーを守るように従業員を教育し、その従業員に適切な給与を支払うことで、そもそも顧客にプレッシャーを与えないようにする企業は、よりよい評判と忠誠心の高い顧客基盤を築くことができるでしょう」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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