サイエンス

NASAは将来の月面探査ミッションに備えて2026年末までに「月のタイムゾーン」を策定する予定


アメリカ航空宇宙局(NASA)は宇宙飛行士の月面着陸プロジェクト「アルテミス計画」を進めており、2026年9月には約半世紀ぶりに人類が月面へ降り立つ予定となっています。本格的な月面探査が間近に迫る中、NASAはアメリカ合衆国科学技術政策局(OSTP)の指示を受けて2026年までに「月のタイムゾーン」を策定する予定だと報じられました。

White House Office of Science and Technology Policy Releases Celestial Time Standardization Policy | OSTP | The White House
https://www.whitehouse.gov/ostp/news-updates/2024/04/02/white-house-office-of-science-and-technology-policy-releases-celestial-time-standardization-policy/


Exclusive: White House directs NASA to create time standard for the moon | Reuters
https://www.reuters.com/science/white-house-directs-nasa-create-time-standard-moon-2024-04-02/

Moon Standard Time? Nasa to create lunar-centric time reference system | Nasa | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2024/apr/02/moon-nasa-coordinated-lunar-time

NASA to create a new time zone for the moon by 2026 | Live Science
https://www.livescience.com/space/space-exploration/nasa-to-create-a-new-time-zone-for-the-moon-by-2026

OSTPのアラティ・プラバカール長官は4月2日にNASAへ送った(PDFファイル)メモで、アメリカ政府のその他の機関と協力して2026年末までに「Coordinated Lunar Time(協定月時間:LTC)」を策定するように指示しました。

月は重力が少ないため、時間の進み方が地球よりも1日あたり平均58.7マイクロ秒速くなっています。一見すると大した差ではないように思われますが、月探査ミッションには極めて高い精度が要求されるため、協定月時間を確立して月探査船や人工衛星の計時ベンチマークを提供することは重要だそうです。


NASAの宇宙通信・航法プログラムマネージャーを務めるケビン・コギンス氏は、「地球にあるのと同じ時計でも、月面では異なる速度で動くでしょう。アメリカ海軍天文台の原子時計を思い浮かべてください。これらは国の鼓動であり、すべてを同期させています。月にも独自の鼓動がほしいと思うでしょう」とコメントしました。

OSTPの職員はロイターに対し、統一された月の標準時間がなければ、宇宙船間のデータ通信の安全性を確保したり、地球・月の人工衛星・月面基地・宇宙飛行士間の通信を同期させたりすることは困難だと主張。また、時間が統一されていない場合、月面や月周回軌道のマッピング、位置特定などに誤りをもたらす可能性があるとのこと。OSTPの職員は、「もし世界が時計を同じ時刻に同期させていなかったら、それがどれほど破壊的であり、日常生活がどれほど困難になるのかを想像してみてください」と述べています。


地球上では、ほとんどの時計とタイムゾーンは協定世界時(UTC)に基づいています。協定世界時は世界中のさまざまな場所に配置された原子時計の時刻を平均して作られており、協定月時間を策定するには月面への原子時計の配備が必要になる可能性もあるとのこと。

NASAはアルテミス計画で2025年に月周回軌道へ宇宙飛行士を送り込み、2026年には有人月面着陸を成功させることを目指しています。OSTPのメモには、「厳しい月面環境におけるミッション実行のため、必要な精度と回復力を達成する適切な標準を定義する上でアメリカがリーダーシップを発揮することは、宇宙を利用するすべての国に利益をもたらすでしょう」と記されています。

協定月時間を策定するためには、既存の標準化団体やアルテミス合意に参加する36カ国を通じた国際協定が必要になるとのこと。なお、宇宙開発でアメリカとしのぎを削るロシアや中国は、アルテミス合意に署名していません。

なお、アルテミス計画は2028年以降、2人の日本人宇宙飛行士も月面に着陸する方針で調整されています。

日本人2人が月面着陸へ、「アルテミス計画」で28年以降想定…日米政府が合意方針 : 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20240316-OYT1T50176/

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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