サイエンス

砂まみれの草を食べる「牛の歯」が一体なぜすり減らないのかが判明


「古代エジプトのミイラの歯がよくすり減っているのは、石臼でひいた麦のパンに混じった砂で歯が削れてしまったせいだろう」という(PDFファイル)があるように、食べ物に含まれる砂や小石は歯の天敵です。ところが、砂や泥ごと草を食べてから、定期的に口の中に戻して歯でかみ直す反すうを行う牛などの反すう動物は、他の草食動物より歯が摩耗しないようになっていることが知られています。牛の歯の健康には、特殊な胃の働きが関与していたことが、ドイツやスイスなどの大学の研究により判明しました。

The Ruminant sorting mechanism protects teeth from abrasives | PNAS
https://doi.org/10.1073/pnas.2212447119

Press release: Healthy teeth thanks to the "washing machine effect”
https://www.uni-goettingen.de/en/73613.html?id=7088

草食動物のエサである草には砂やほこりがつきものですが、細かい粒子により歯がすり減ると何も食べられなくなってしまいます。そのため、草食動物の多くはエナメル質が長く伸びる歯である「長冠歯」を発達させてきました。

by Ignacio Ferre Pérez

牛などの反すう動物も長冠歯を持っていますが、他の草食動物の歯に比べて歯冠、つまり歯茎から出ている部分が少ししかありません。


同じものを食べているのに、なぜこのような違いがあるのかを検証するため、ドイツ・ゲッティンゲン大学の動物学者であるユルゲン・フンメル教授らの研究チームは、4頭の牛に砂を混ぜた牧草飼料を与え、反すうのために口に戻したエサと排出したフンを採取しました。

そして、サンプルに含まれている砂の主成分であるシリカの量を解析したところ、フンにはエサに混ぜたのと同じ量のシリカが含まれていたのに対し、口に戻したエサにはほとんどシリカが含まれていないことがわかりました。具体的には、食べたエサに含まれていたシリカの84%前後が、反すうする時に除去されていました。

このことから、フンメル教授らの研究チームは「牛は反すうする際に、『ルーメン』と呼ばれる第一胃で砂を洗い流しているのだろう」と結論付けました。反すう動物は胃を複数持っていますが、その中でもルーメンは最大の胃で、消化のための微生物が草を発酵させて分解する場所でもあります。ルーメンに砂やどろを洗う機能があるとの見方は、過去に得られた解剖学的な知見によっても裏付けられています。


今回の研究結果は、現代の牛についてのみならず、太古の草食動物の歴史や進化の足取りを明らかにする上でも重要です。なぜなら、歯は化石として保存されやすく、特に初期の草食動物の生態や生活環境を復元する場合、歯が重要な手がかりになることが多いからです。

フンメル教授は「私たちの研究は、大型草食動物が食物をかみ砕くことについての、基本的ながらほとんど研究されていない側面を説明し、歯の機能と進化の理解に貢献するものです」と話しました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1l_ks

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