サイエンス

血液検査で「症状が出る前」にパーキンソン病の発症リスクを調べるAIツールが開発される


パーキンソン病は手の震えや歩行の困難といった運動障害を示す神経変性疾患であり、症状が進行すると車椅子や寝たきりの生活になることもある深刻な病気です。そんなパーキンソン病の明確な症状が出る前に、血液検査からパーキンソン病の兆候を見つけ出すAIツール「CRANK-MS」が、ニューサウスウェールズ大学ボストン大学の研究チームによって開発されました。

Interpretable Machine Learning on Metabolomics Data Reveals Biomarkers for Parkinson’s Disease | ACS Central Science
https://doi.org/10.1021/acscentsci.2c01468


Scientists develop AI tool to predict Parkinson's disease onset | UNSW Newsroom
https://newsroom.unsw.edu.au/news/science-tech/scientists-develop-ai-tool-predict-parkinsons-disease-onset

An AI Was Trained to Detect Parkinson's Years Before Symptoms Appeared : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/an-ai-was-trained-to-detect-parkinsons-years-before-symptoms-appeared

ニューサウスウェールズ大学の研究者であるダイアナ・チャン氏やアレクサンダー・ドナルド准教授らの研究チームは、細胞の代謝物を解析するメタボロミクスを実行するため、ニューラルネットワークを用いて質量分析に基づいた分類およびランキング分析を実行するAIツール「CRANK-MS」を開発しました。

チャン氏は、「メタボロミクスデータを分析するための最も一般的な方法は、統計的アプローチによるものです。従って、どの代謝物が対照群と比較してより重要であるかを理解するため、研究者は特定の分子についての相関関係を調べるのが普通です。しかし、ここでは代謝物が他の代謝物と関連する可能性があることを考慮し、機械学習を採用しました。数百~数千もの代謝物がある中で、AIの計算能力を駆使して何が起こっているのかを解明しています」と述べています。

研究チームは、ヨーロッパの栄養とがんに関する前向き研究(EPIC)の一環としてスペインで収集された血漿(けっしょう)サンプルを利用し、サンプル収集から15年以内にパーキンソン病を発症した39人と、パーキンソン病を発症しなかった39人の対照群を特定。それぞれの血漿サンプルについて、「CRANK-MS」を用いて分析を行いました。


ドナルド氏は、「通常、機械学習を使って代謝物を病気の相関関係を調べる研究者は、化学的特徴の数を減らしてからアルゴリズムに投入します。しかしここでは、最初からデータの削減を行わずに、すべての情報を『CRANK-MS』に送り込みます。そこからモデルの予測値を得て、どの代謝物が最も予測値に影響するかを特定することが、すべてワンステップで可能です。つまり、従来のアプローチでは見逃される可能性のある代謝物があったとしても、それらを拾い上げることができるようになったのです」と述べています。

研究の結果、「CRANK-MS」は血漿サンプル内に存在する化学物質に基づいて、後年になってパーキンソン病を発症する人を96%の精度で検出できることが判明しました。パーキンソン病の明確な症状が現れる前にリスクを特定することで、発症を予防したり進行を遅らせたりすることが期待できます。


また、後年になってパーキンソン病を発症した人々の血漿内では、いくつかの特徴がみられることもわかりました。そのうちの1つに、トリテルペンが修飾された「トリテルペノイド(triterpenoid)」という化合物の濃度が、後にパーキンソン病を発症した人の血漿内で低いというものがあります。トリテルペノイドは酸化ストレスを調整する神経保護材の役割を果たしており、リンゴ・オリーブ・トマトなどの食品に多く含まれているとのこと。今後の研究では、トリテルペノイドを多く含む食品を食べることで、パーキンソン病の発症リスクを抑えられるかどうかを調べることが可能です。

さらに、パーキンソン病を発症した人々の血漿内では、自然界に存在しないポリフルオロアルキル化合物(PFAS)という化学物質がより多く含まれていることもわかりました。PFASは極めて分解されにくいことから「永遠の化学物質」とも呼ばれ、人体への有害性があるとして問題視されている物質です。ドナルド氏は、「パーキンソン病にPFASが関わっていることを示唆する証拠はありますが、100%の確信を得るにはもっと多くのデータが必要です」とコメントしました。


記事作成時点では、パーキンソン病は安静時の手の震えといった身体的症状によって診断されており、非遺伝的な症例を診断するための血液検査や臨床検査はありません。しかし、睡眠障害や物事に対する無関心など、一部の非定型症状は運動症状が現れる数十年前にみられる可能性があるそうです。そのため、「CRANK-MS」を非定型症状がみられる患者に対して使用することで、将来的なパーキンソン病の発症リスクを特定することが期待できます。

ドナルド氏は、今回の実験があくまで小規模なものであるため、「CRANK-MS」の使用を拡大する前により大規模な検証研究が必要だと強調しています。それでも、今回の結果は非常に有望かつ興味深いものだとのこと。

チャン氏は、「パーキンソン病を検出するための『CRANK-MS』の使用は、AIが病気の診断とモニタリングを改善する方法の一例に過ぎません。エキサイティングなのは、『CRANK-MS』を他の疾患にも簡単に適用することができ、関心のある新しいバイオマーカーを特定できることです」と述べ、他の疾患の早期診断にも「CRANK-MS」を利用できる可能性があると主張しました。

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in ソフトウェア,   サイエンス, Posted by log1h_ik

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