パーキンソン病のリスクを水中の汚染物質が高めることが30万人超を対象にした調査で強く示唆される
トリクロロエチレンがパーキンソン病のリスクを高めているのではないかという見解は以前からありましたが、データが限られていました。このたび、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究者らが主導した研究で、トリクロロエチレンなどの有機化合物によって汚染された水にさらされていた退役軍人のデータを調べたところ、トリクロロエチレンがパーキンソン病を引き起こすリスクを高めていることが強く示されました。
Risk of Parkinson Disease Among Service Members at Marine Corps Base Camp Lejeune | Movement Disorders | JAMA Neurology | JAMA Network
https://doi.org/10.1001/jamaneurol.2023.1168
Widely used chemical strongly linked to Parkinson’s disease | Science | AAAS
https://doi.org/10.1126/science.adi7403
Camp Lejeune Water Strongly Linked to Parkinson’s Disease - WSJ
https://www.wsj.com/articles/camp-lejeune-water-strongly-linked-to-parkinsons-disease-8b4c0517
調査対象となったのは、1975年から1985年のあいだに海兵隊基地のキャンプ・ルジューンで訓練を受けた退役軍人の医療記録です。
キャンプ・ルジューンはノースカロライナ州ジャクソンビルの南方に位置します。
キャンプ・ルジューンの井戸は、地下貯蔵タンクや工場、廃棄物処理場から流れ出た物質で汚染されており、基地内で使用されていた水には、アメリカ環境保護庁が許可するレベルの70倍を超えるトリクロロエチレンが含まれていました。
研究チームは、キャンプ・ルジューンおよび水が汚染されていないと考えられるカリフォルニア州のキャンプ・ペンドルトンに居住したすべての海兵隊員・職員のパーキンソン病リスクを、1997年から2021年まで追跡調査。
その結果、キャンプ・ルジューンに居住した軍人・職員は、キャンプ・ペンドルトンに居住した軍人・職員よりもパーキンソン病のリスクが70%高かったことがわかりました。また、パーキンソン病ではないという人でも、震えや不安、勃起不全など、パーキンソン病の前駆症状を発症するリスクが有意に高かったことがわかりました。
論文の筆頭著者であるサム・ゴールドマン氏が今回の研究に取り組む動機となったのは、2017年にアメリカ政府がキャンプ・ルジューンの水が汚染されていた時代に勤務しパーキンソン病を患った退役軍人に対して、キャンプでトリクロロエチレンにさらされ続けたことが発症の原因であると宣言したことです。ゴールドマン氏は、疫学的証拠が不足していると感じて、キャンプ・ルジューンの調査を決めました。
キャンプ・ルジューンの汚染水による健康被害をめぐっては集団訴訟が起こされており、今回の研究結果は、訴訟に弾みを付ける可能性が高いとScienceは記しています。
なお、コロンビア大学でパーキンソン病の研究を行っているゲイリー・ミラー氏は「パーキンソン病の原因は環境要因であるという証拠がたくさん出てきています。しかし、私たちはまだ表面をなぞっただけです。さらに研究を続ける必要があります」とコメントしています。
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