メモ

山火事の後に生えてくる雑草はすべて除去すべきなのか?


数カ月にわたり続いていたオーストラリアの山火事は、2020年2月5日頃から「30年ぶり」と評されるほどの大雨が降り続き、沈静化しました。そして、山火事の後に焼け野原に生命力に優れた雑草が次々と生え始めたため、「育ちきる前に雑草を除去すべきなのでは?」という議論が浮上しています。そんな状況の中、オーストラリアの生態学者であるサマンサ・カポン氏とゲイリー・パルマー氏が「雑草」に関する持論を展開しています。

Not all weeds are villains. After a fire, some plants – even weeds – can be better than none
https://theconversation.com/not-all-weeds-are-villains-after-a-fire-some-plants-even-weeds-can-be-better-than-none-130702

「日本の植物学の父」とも評される牧野富太郎の「雑草という植物は存在しない」という言葉でよく知られているように、雑草は人間の生活範囲に自然に繁殖した植物の総称で明確な定義は存在しません。一例では、日本雑草学会は、894種の植物を雑草と独自に分類しています。

学術情報 雑草名リスト|日本雑草学会
http://wssj.jp/academic/weed_list.php


カポン氏とパルマー氏の2人によると、「雑草」の定義は曖昧ですが、多くの場合は望ましくない場所・方法で成長した植物を指しているとのこと。この場合の「望ましくない」というのは、経済的・社会的・文化的・美的・政治的などの幅広い理由が考えられるわけですが、今回2人が言及しているのは生態系の問題です。オーストラリアでは2019年末頃からの一連の山火事で、10億匹もの動物が命を失ったと推定されているため、生態系の回復について注目が集まっています。

オーストラリア森林火災で「種の絶滅」は必至、生物学者が指摘 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)
https://forbesjapan.com/articles/detail/31715


生態学を専門とする2人は、「雑草は自然植物の生長を抑えたり、野生動物の生息地を変えたりするとして邪険にされることがある」と指摘。それゆえ、多くの人は雑草を除去することが在来植物の成長を促し、生態系機能の改善につながると考えているとのこと。

しかし、2人は状況次第では雑草も有益だと主張しました。その一例が、オーストラリア北西部に生育するリンゴのような実を付けるナツメ属の外来植物Ziziphus mauritiana。Ziziphus mauritianaの葉にはトゲがあり、オーストラリアに生息する野生の馬が周囲に近づくことはないそうで、Ziziphus mauritianaの根元に巣穴を作った在来種のネズミは、馬に踏み潰されることなく生存率に優れているという研究が発表されています。Ziziphus mauritianaの木は、以下のような見た目。

By Ethel Aardvark

2人によると、水辺の雑草は沈殿物や汚染物質をせき止める働きがあるため、小川・渓谷・川・湿地などの水辺も雑草からの恩恵を受けることがあるとのこと。水辺に生えるヤナギ類の植物は、水生生物の隠れ家としても機能することがわかっています。火災によって生じた灰などが水辺に流れ込んで生態系に打撃を与えているため、外来植物のヤナギ類も重要な役割を果たしているわけです。

また、雑草は土壌を安定させ、日陰を作り出し、動物や害虫から苗木を守ってくれるため、自生種の再生を促進させてくれる働きがあると2人は主張。ニューサウスウェールズ州で行われた研究によると、帰化植物であるクスノキが果実を食べる鳥類の生息地になっていることがわかっています。果実を食べた鳥類は、種を含むフンを広い範囲に拡散してくれるため、結果的に自生種の生態系の回復に貢献します。

by Forest and Kim Starr

「山火事の後に雑草ばかり育ってしまうのではないか」という懸念については、2人は「何も育たないより良い」と反論し、雑草が在来植物の成長に悪影響を及ぼしているとは限らず、雑草を除去することによって植物の多様性が保証されるかは未知数だと回答。むしろ多様な植物が生息している場所こそ二酸化炭素貯留や養分循環などの植物の生育に必要な要素が多いことを指摘し、雑草までも含めて植物の多様性を高めるべきだと主張しました。

また、2人は雑草除去の方法にも問題があると指摘。火災直後は雑草がまだまだ繁殖していないため多くの人は「雑草を除去しやすいタイミングだ」と考える傾向があるそうですが、2人は多くの雑草は一度除去してもすぐに回復する上に、除草剤などを使うと土壌にどのような影響が出るかはわからないと述べて、仮に雑草を除去できたとしても、在来植物に有害な影響が出る可能性すらあるとコメントしました。


2人は「外来植物は負の影響をもたらす場合があるため、全ての雑草を保全するべきではありません。しかし、山火事から生態系が回復しつつある今、仮定やイデオロギーに盲目的にならずに、長期的な生態学的実験を通して理論を確認する必要があります」と語りました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
数カ月にわたりオーストラリアで続く山火事の凄まじい被害の記録、なぜこれほどまでに壊滅的な被害をもたらしているのか? - GIGAZINE

人間は自然界の500倍の速さで植物を滅ぼす - GIGAZINE

「人類のせいで100万種の動植物が絶滅の危機にある」という報告書が発表される - GIGAZINE

2000年前の古代植物の種子を発芽させることに成功 - GIGAZINE

なぜ植物はがんで死ぬことが少ないのか? - GIGAZINE

in Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.