サイエンス

「海底に堆積した生物の殻」の分析によりカリフォルニアの海が推定より急激に酸性化していると判明

by PublicDomainPictures

海は大気中の二酸化炭素を吸収する役割を持っていますが、海洋中の二酸化炭素増加は海洋酸性化を引き起こし、多くの生物に影響を及ぼして海中の生態系にダメージを与えます。アメリカ海洋大気庁(NOAA)の研究チームは、「海底に堆積した浮遊性有孔虫の殻」を分析することにより、カリフォルニア沿岸の海が従来の推定よりも急激に酸性化していることを発見しました。

Decadal variability in twentieth-century ocean acidification in the California Current Ecosystem | Nature Geoscience
https://www.nature.com/articles/s41561-019-0499-z

California coastal waters rising in acidity at alarming rate, study finds - Los Angeles Times
https://www.latimes.com/california/story/2019-12-16/ocean-acidification-california

人間が地球上に現れて以降、木々の伐採や化石燃料の使用などによって大気中の二酸化炭素濃度は増加し続けていますが、増えた二酸化炭素の一部は海によって吸収されています。産業革命が起きてから人間が放出した二酸化炭素のうち、実に4分の1が海によって吸収されているとの指摘もあり、海は人知れず地球温暖化を食い止める役目を果たしてきました。


しかし、海洋の二酸化炭素濃度が上昇すれば、その分だけ海洋酸性化が進んでさまざまな科学的性質が変化します。たとえば貝類やウニ、サンゴといった海中の生物は、炭酸カルシウムからなる貝殻や骨格を作るために、海中の炭酸イオンを利用しています。ところが、海洋酸性化が進めば炭酸イオンの濃度が下がり、炭酸カルシウムの形成が困難となってしまうため、海洋酸性化はサンゴや貝などの個体数減少につながるとのこと。

また、海洋酸性化は「魚が捕食者の匂いを嗅ぎ取る能力」を弱めるとも指摘されており、動物の行動をも変えてしまう危険性があるそうです。

地球温暖化による海水の酸化、魚が生存本能失う可能性 国際ニュース:AFPBB News


近年では海洋酸性化についての認識も広まってきましたが、いまだに研究者はこの問題を完全に理解できているわけではありません。海洋酸性化が研究対象となったのはここ数十年のことであり、科学者たちが記録や監視を行い始めてからまだ日が浅いことから、利用可能なデータも少ないとのこと。

特にカリフォルニア沿岸部の海については、これまでにも多くの人々が「他の海域よりも急速に酸性化しているのではないか」と疑ってきたそうですが、歴史的なデータの不足から、ハッキリしたことはわかっていませんでした。そこでNOAAの研究チームは、海洋酸性化の速度を測定する創造的な方法として、「海底に堆積した浮遊性有孔虫の殻」を収集して分析することにしました。

有孔虫は石灰質の殻を持つ小さなアメーバ様原生生物の一群であり、主として海底に暮らす底生有孔虫と、プランクトンとして海洋の表層近くに生息する浮遊性有孔虫に分けられます。研究チームは、比較的ほかの動物に荒らされにくいサンタバーバラ海盆から、死んだ後に海底に降り注いだ浮遊性有孔虫の殻を2000個ほど採取して、顕微鏡などのツールで殻の厚みを測定し、年代別でどれほどの変化がみられるのかを調べました。

以下の画像が、採取したサンプルを顕微鏡で観察したもの。ほとんど砂粒のように見えますが、カラフルな粒のほとんどが海底から採取された有孔虫の殻だそうです。

by NOAA

サンゴや貝類と同様に、有孔虫の殻も炭酸カルシウムからなっているため、海洋酸性化が進行するほど殻を作ることが難しくなっていきます。研究チームによる測定の結果、カリフォルニア沿岸部の海水は、1895年からの100年間で0.21も水素イオン指数(pH)が低下していることが判明。海水のpHが低くなるということは、海水の酸性化が進んでいるということを意味します。世界中の研究者らはこの100年で海水のpHが0.1低下したと推定していましたが、カリフォルニア沿岸部では予想の2倍も酸性化が進んでいることがわかりました。

論文の筆頭著者であるNOAAの研究者・Emily Osborne氏は、有孔虫の殻の厚みにはエルニーニョ現象などの気候変化が記録されており、太平洋十年規模振動ともリンクしていると指摘。「海底の堆積物は本のページのように読むことができます。サンタバーバラ海盆には、過去の海を高解像度で再構築することを可能にする、海底に美しく保存された積層記録があります」と、Osborne氏は述べています。

今回の結果を受けてOsborne氏は、「海洋は大気から二酸化炭素を吸収して地球温暖化の緩和に重要な役割を果たしてきましたが、もうこれ以上は二酸化炭素を吸収できない可能性があります。この研究を含めた多くの研究結果から、二酸化炭素量を抑えることが重要なのは間違いありません」と主張しました。

by Sebastian Voortman

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
地球環境は「もう戻れないところ」にまで来てしまった可能性がある - GIGAZINE

地球の気候変動による「海のデッドゾーン」が拡大していることが判明 - GIGAZINE

イカ&タコなどの頭足類が海の覇者になるべく爆増中、その原因は? - GIGAZINE

地球温暖化対策として二酸化炭素と海水からメタノールを生産する人工島を建造するという構想 - GIGAZINE

海が想定の1.6倍も熱を吸収していたことが判明、地球温暖化への取り組みの見直しが叫ばれる - GIGAZINE

美しい映像を通して自然を取り戻すために人類ができる取り組みを解説するムービー「How to save our planet」 - GIGAZINE

気候変動が続くと海の色が将来的に変わってしまうかもしれない - GIGAZINE

in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.