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「人と人のネットワーク」が文化や知識の拡散に大きな影響を与えている

by rawpixel.com

世の中のあらゆるものは「ネットワーク」でつながっていると捉えることができ、ネットワーク上で物事が拡散するシステムを用いることで、感染症の流行や山火事の拡大、文化やファッションの流行、知識の拡散などについて考えることができます。ソフトウェアエンジニアでライターのKevin Simler氏が、さまざまなモデルを使ってネットワーク上で拡散がどのように起こるのかを解説し、人と人のネットワークが文化の流行や技術革新にもたらす影響について論じています。

Going Critical — Melting Asphalt
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ネットワークを単純化して考える時、ネットワーク上の点である「ノード」とノード同士をつなぐ「エッジ」が基本となります。何かが拡散するモデルを作る場合、特定のノードを「アクティブなノード」としてラベル付けし、アクティブなノードから隣接するノードへとアクティブな状態が拡散して広がっていく状態を考えます。


Simler氏は1つのノードが4つのノードに隣接するモデルを作成しました。モデルは中心のアクティブなノードから、次第に周囲のノードへと物事が拡散していく様子を表します。実際の社会では1つのノードが人間などの存在になるため、1つのノードが隣接するノードの数が一定であるモデルは現実的ではありませんが、ここでは単純化のために1つのノードが4つのノードに隣接したモデルを使うとのこと。


ネットワークは点と線で表すこともできますが、マス目を使ったモデルを使っても、線なしで同様の状態を表せます。


ネットワーク上の拡散について理解を深めるため、Simler氏はインタラクティブなモデルを用意しています。中央の青いタイルが「アクティブなタイル」、白色のタイルが「ノンアクティブなタイル」を表すこのモデルで、下部のスタートアイコンをクリックしてシミュレーションをスタートすると……


中央の青いタイルが隣接するタイルに広がっていき、アクティブなノードは濃い灰色のタイルに変化していきました。もしも物事が必ず隣接するタイルに拡散していくのであれば、このモデルは正しいものとなりますが、実際に文化やファッション、病気などが周囲に100%の確率で拡散していくわけではありません。


そこでSimler氏は、「アクティブなタイルが隣のタイルへと物事を拡散する確率」を設定することができるモデルを用意しました。デフォルトの拡散確率「50%」でアイコンをクリックすると……


青いタイルが次第に広がっていく様子がわかります。このモデルでは一度アクティブになったタイルは不活性となり、モデルから除去されます。


白いタイルは「Susceptible(感染しやすい)」、青いタイルは「Infected(感染している)」、灰色のタイルは「Removed(除去された)」状態を表しており、このタイプのモデルをSIRモデルと呼んでいるとのこと。白いタイルは青いタイルによって感染する可能性があり、青いタイルは周囲の4つのタイルに働きかけ、働きかけが終了したタイルは灰色のタイルとなってモデルから実質的に除去されます。

SIRモデルははしかの流行や山火事など、一度感染した人や物が二度目の影響を受けない現象の場合は有効です。しかし、文化やファッションなどの拡散について考える場合、一度影響を受けてから離脱した人が、再び文化を採用する可能性が存在します。この場合だと灰色のRemovedタイルは存在せず、再び白いタイルに戻るため、SIRモデルのRをSに置き換えたSISモデルが有効となります。SISモデルの場合、感染確率は周囲への拡大だけでなく、「自分自身が継続して感染し続けるか」という確率を含むため、実質的に周囲の4つのノード+自分自身である5つのノードへ感染する確率となります。

拡散確率「35%」のSISモデルでシミュレーションをスタートすると……


青いタイルは次第に広がっていき、ネットワーク上の広範囲でタイルが感染していることがわかります。


実はSISモデルにおいては、感染確率によってやがて拡大が終息する「亜臨界ネットワーク」と、拡大が止まらない「超臨界ネットワーク」の2種類が存在します。Simler氏が用意した大きめのモデルを使い、感染確率30%でシミュレートすると……


次第に感染は拡大して全体に広がりました。4つのノードと隣接するSISモデルでは、感染確率30%は超臨界ネットワークです。


しかし、感染確率20%でシミュレートすると……


感染は局所的にしか広がらず、やがて終息してしまいました。感染確率20%は亜臨界ネットワークといえます。


感染確率を変えて何度もトライを繰り返すと、およそ感染確率22%までが亜臨界ネットワーク、23%以上が超臨界ネットワークであることがわかりました。しかし、必ずしも感染確率23%以上でモデル全体に感染が拡大するとは限りません。たとえばシミュレートの一番最初期は、1つのノードから周囲の4つのノードへ感染するかどうかが確率で決定します。

SISモデルで感染確率50%の場合、50%の試行を5回繰り返して感染するか否かを決定しますが、計算上では3%ほど「どのノードにも感染が拡大しない可能性」が存在します。シミュレートして3%が出る可能性は低いものの、全く感染が広がらないこともあり得ます。極論でいえば、感染確率が99%でも感染が終息してしまう可能性はゼロではありません。しかし、数値的にみれば可能性は小さいため、Simler氏によればそれほど深く考慮する必要性はないとのこと。


また、Simler氏は中央のノードだけから感染が拡大するのではなく、「ランダムで自発的に」感染がスタートするSISaモデルも構築しました。SISaモデルの「a」は「automatic(自発的)」のことで、自発的感染確率を高めることで、モデル上の複数箇所から感染がスタートする様子をシミュレート可能。


しかしSISaモデルで最も興味深い点は、いくら発生確率を上げても感染がネットワークを支配するわけではないことです。感染が全体に広がるには、やはり感染確率が超臨界ネットワークとなる23%を超える必要があります。Simler氏はこの状態を「湿った野原で火を付けようとすること」に似ているとしており、非常に感染確率が高い状態(乾燥した野原)では1回の試行で火が拡大するものの、湿った野原では何度も火を付けようとしても結局火は広がらないとのこと。

Simler氏はSISaモデルと同様の出来事が、さまざまなアイデアや発明といった物事において発生していると指摘。優れたアイデアや発明が行われても、ネットワークにそれを広げる下地がなければ全体に拡大せず、やがて消え去ってしまいます。歴史的に繰り返されてきた、画期的な発明が行われてもあまり広がらずにロストテクノロジーとなってしまい、数百年後に同じ発明が行われるといった現象はネットワークの状態が原因だとSimler氏は述べています。

また、Simler氏は「感染に対する免疫」を設定できるモデルも構築しました。スライダーで「感染に対する免疫を持つノード(Immunity)」の割合を設定してシミュレートすると、免疫保持者が増えた場合に超臨界ネットワークに至る感染確率が上昇することがわかります。多くのノードが免疫を持っていればいるほど感染は広がりにくくなり、ネットワークでの感染拡大に影響がでるとのこと。


この免疫に関する考察は、山火事の拡大を防ぐ施策などに役立つ可能性があるとSimler氏は指摘。火の管理を厳格にしても火事の発生を完全に防止することはできませんが、防火帯を作ることで拡大を最小限に防ぐことが可能となります。また、感染症に対する予防接種においても、多くの人が予防接種を受ければ受けるほど、社会における感染症の拡大を抑えることができます。

by John S. Quarterman

これまでは隣接するノードの数を4つとしてきましたが、ノードの数を変更することでも感染拡大のモデルに影響が出るとのこと。試しに感染が広がる可能性のあるノードを8つに増やしてみると、亜臨界ネットワークの上限は下がっていき、より感染が拡大しやすくなることがわかります。


ノードの拡大はネットワーク密度の増大を表します。モデルに使用するネットワーク上の一部分でノードの隣接数を増やすことにより、人と人との接触が多い都市部における感染拡大をシミュレートできるとSimler氏は考え、実際にモデルを作成しています。以下のモデルでは右上と左下の2カ所に「都市部」が形成されており、都市部では周囲から中心へ向かうに従って、ノードの隣接数が5、6、7、8と増えていきます。


このモデルでシミュレートを行うと、感染が都市部に至ると一気に拡大し、やがて都市部を中心にして感染が流行する様子がよくわかりました。


Simler氏はこのモデルについて、「人から人へと伝達される文化が都市部で広まりやすく、農村部で広まりにくいことを示しています」としています。日々多くの人々と接触する都市部に比べ、農村部では1日に接触する絶対数が少ないため、ファッションや文化といったトレンドが農村部で広がりにくい原因となっているとのこと。この発想は、「優れた発明や文化であれば、どのような場所にも浸透する」という考えは正しいとはいえず、ネットワーク密度の高い特定の範囲内でのみ流行する文化が存在することを示唆しています。

さらに都市部と農村部だけではなく、同じ都市部であっても毎日大量の友人らと触れ合う学生と、その両親とではネットワーク密度に違いが出てきます。また、一般的に「エリート層」に位置する人々ではネットワーク密度が高くなるため、それ以外のネットワークでは維持されない「エリート層にだけ流行っているトレンド」が存在するかもしれないとのこと。


文化に加えてSimler氏は、「知識」の拡大についてもネットワーク密度が重要だと指摘。誰かが画期的な発明をする際には、外部からの新しい情報を取り入れて既存の研究から判明していることを蓄積し、その上で優れた発想を導く必要があります。また、外部に知られないままひっそりと消えていく発明も社会に与える影響は少なく、発明を広めるためにもネットワークが必要です。

発明におけるモデルについて、Simler氏は4人の専門家からなる単純な図式を作成しました。図における「Expert1」が基となるアイデアを発明し、それが「Expert2」→「Expert3」へと新たな知見や発想を加えられた上で広まっていき、最終的に「Expert4」が発明を完成させるという図式です。


これをSISaモデルに落とし込むとこんな感じ。シミュレートをスタートすると……


左上のExpert1から基となるアイデアが広まっていき、右上のExpert2がそれを継承して新たなアイデアを広めます。


やがてExpert2のアイデアが右下のExpert3に伝わり、さらに改善が加えられ……


最終的にExpert4が新たな発明を生み出しました。


Simler氏が「発明をスピードアップするより簡単なモデル」として提示するのが、以下のモデル。4人の専門家が非常に近い場所に存在しており、この状態なら一瞬で発明が生み出されることがわかります。このモデルに近いものが「大学」「学会」といった存在であり、発明を生み出すために必要な知識を持つ専門家らが近しい場所に位置し、緊密なネットワークを形成しています。


また、Simler氏は「テクノロジーの発展が知識の増大を促す」とも指摘しています。テクノロジーの発展による検査機器や実験環境の向上に加え、通信方法や移動手段の革新が専門家間のネットワーク密度を高め、新たな知識を生み出すサイクルが生み出されているとのこと。


その一方で、専門家間のネットワークに悪影響を与える存在についてもSimler氏は言及しています。それは、「野心によって動機づけられた専門家」だそうで、成果を求めるあまり科学的裏付けに乏しい研究成果を発表する専門家は、正しい知識の拡大を阻害する「死のノード」となり得ます。そればかりか誤った知識を拡大することもあるため、専門家のネットワークにおいて困った存在だと、Simler氏は述べました。

by Florian F. (Flowtography)

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in メモ, Posted by log1h_ik

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