生と死の間にある「グレーゾーン」の科学的探求、人が死を回避できる未来は来るのか?
by Valeria Almaraz
ドラマなどで登場人物が死んでしまう様子などを見ていると、生と死は境界線でパッキリと区切られているようにも思えますが、病院やホスピスなどでは長期的な治療を受けながら、生と死のはざまを漂いつつ人がゆっくりと死に至る様子が見られます。また、技術が進歩することで人体の冷凍保存も可能になり、生と死のどちらともつかない「グレーゾーン」が活用されることも。この「グレーゾーン」について、科学的な研究が徐々に進められています。
Science Is Starting to Explore the Gray Zone Between Life and Death | Big Think
https://bigthink.com/philip-perry/science-is-starting-to-explore-the-gray-zone-between-life-and-death
ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の准教授であり蘇生医療の専門家であるサム・パーニア教授は「Erasing Death」という書籍の中で体や脳を復活させる方法について触れており、いつか死は「可逆のものになる」という考えを持っています。パーニア教授によると、これまでの実験で遺体を冷やすことで細胞が死んでいく割合を下げることができるということがわかっており、心肺蘇生法によって一度心停止した患者でも数時間後に脳にダメージを受けることなく復活することもあるとのこと。また、「死後体験」の研究者でもあるパーニア教授は、臨死体験は脳の蘇生と関係しているものと見ているそうです。
フレッド・ハッチンソン癌研究センターの生物学者であるマーク・ロス氏も、人体蘇生について研究を行っており、命の危険がある患者を一時的に仮死や冬眠のような状態にし、容体が安定してから蘇生を行うという方法について実験しています。人間は酸素レベルが少ないと死んでしまいますが、動物たちの中には置かれた状況の酸素レベルが低くなると活動休止状態に入るものもいます。ロス教授は記事作成時点で線形動物を活動休止状態にしようと研究を行っており、最終的には人間で同じことを行うことが目標とのことです。
そして、「生と死のはざまにある状態」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは植物状態であるはず。医学的な植物状態とは、脳に損傷があるため患者の意識がなく、周囲の刺激に対して反応できないことを言います。このとき、不随意の運動、つまり、瞬きや心拍、反射などには問題はありません。そして、多くの患者はこの状態から回復できないとのこと。
by Andalucía Andaluía
しかし、15年間も植物状態だった男性が意識を取り戻したというケースも報告されており、2017年9月に発表された論文ではフランスの研究者らが植物状態の患者に意識を取り戻させる方法について発表するという偉業を成し遂げました。これは、特殊な装置を患者の胸部に埋め込み迷走神経に電気刺激を流すというもので、刺激療法を1カ月続けた患者は、植物状態だったにも関わらず、誰かが本を読んでいる間は目を開けて覚醒し続けたり、首を左右に動かすなど簡単な指示に反応するまでに回復したとのこと。映画のようにある日ベッドから起きて歩き回る、という回復ではありませんが、脳スキャンを行ったところ、脳の領域間の情報のやりとりがより多く見られたそうです。
迷走神経は頸部を通り腹部まで伸びる神経で、覚醒や注意に関係しています。これまでも迷走神経を刺激する方法はうつ・てんかんといった病気に対して用いられてきましたが、なぜ迷走神経の刺激によって植物状態の患者が回復したのかについての理由は、まだほとんど明らかになっていません。
by Patrick Brinksma
研究を行ったマーク・ジャンヌロー認知科学研究所のアンジェラ・シリグ氏は、この方法をさらに多くの被験者に対して実施していくことで研究を進める予定とのことです。
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