サイエンス

同じビデオやオーディオブックを見聞きする人は「心臓の鼓動」もシンクロすることが判明、植物状態の人が意識を回復する目安になる可能性も


過去の研究から、「見つめ合っている2人」や「音楽の演奏者と鑑賞者」など、特定の行動を通して脳の活動が同期する事例が報告されています。しかし、脳の活動以外にも「心拍数」が他人同士で同期するケース確認されており、国際的な研究チームが発表した新たな論文では、「同じ物語を聞いたり見たりしている人の心拍数が同期する」との研究結果が報告されました。

Conscious processing of narrative stimuli synchronizes heart rate between individuals: Cell Reports
https://www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(21)01139-6


Our heart rates synchronize when closely listening to the same stories
https://www.zmescience.com/medicine/mind-and-brain/our-heart-rates-synchronize-when-closely-listening-to-the-same-stories/

Neuroscience: People subconsciously sync their heart rates with the stories they listen to | Daily Mail Online
https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-9989445/Neuroscience-People-synchronise-heart-rates-listening-stories-study-finds.html

論文の筆頭著者を共同で務めたパリ脳研究所のPauline Pérez氏とニューヨーク市立大学シティカレッジのJens Madsen氏は、侵襲性の少ない方法で人間の意識や認知機能を調査する方法に興味を持っていました。既存の方法としては脳スキャンが存在していますが、2人はより単純であり多くのクリニックで測定可能な「心拍数」を用いる方法で、人間の脳活動を調べられるのではないかと考えたとのこと。そこで研究チームは、人間の意識が心拍数に及ぼす影響を調査するため、「物語を見聞きする」ことに関する複数の実験を行いました。

まず、最初の実験では27人の成人が被験者として集められ、ジュール・ヴェルヌのSF作品「海底二万里」のオーディオブックから16分を抜粋したものを聞かされました。抜粋されたのは船を破壊する謎の怪物に関する報告のシーンで、比較的サスペンスに満ちた場面だったと研究チームは述べています。

オーディオブックを聞く被験者の心電図を調査したところ、被験者の心拍数は物語の展開に応じて変化しており、ほとんどの被験者が同じシーンでは似たような心拍数の増減を示していたことが判明。それぞれの被験者は1人でオーディオブックを聞いていたため、相互作用が生まれることはありませんでしたが、「同じ物語を聞くこと」が心拍数の同期を促したことになります。


2つ目の実験では、オーディオブックを「5つの退屈な教育ビデオ」に置き換えて、再びニューヨーク市立大学に在籍する27人の被験者の心拍数を測定しました。その結果、ビデオを見た被験者の心拍数はやはり同期することが確認され、必ずしも物語性に富んだものでなくても同期することが示されました。また、被験者は普通にビデオを見た後に、「800~1000の間にある特定の数字から、7つずつ引いて数える」という指示を受けて再びビデオを視聴したとのこと。この場合、被験者同士の心拍数の同期は低下したとのことで、「見聞きしているものへの注意」が同期において役割を果たすことが示唆されました。

3つ目の実験では21人の成人が童話をオーディオブックで聞いて、後でその内容を思い出すテストに回答しました。この実験では、一部の参加者は静かな環境でオーディオブックを聞いたものの、残りの参加者は注意をそらす妨害にさらされながら聞いたそうです。テストの回答や心電図を分析した結果、童話の内容と心拍数の同期率が高い被験者ほど、テストで正確に童話の内容を思い出せたとのこと。研究チームはこの結果について、心拍数の変化が物語を意識的に処理するシグナルであることを示していると述べています。

最後の実験では、意識不明状態や遷延性意識障害(植物状態)の患者19人と健康な24人の対照群で、童話のオーディオブックを聞かせました。その結果、意識がない被験者は対照群の被験者と比較して、有意に心拍数の同期率が低かったことが判明。また、植物状態でありながら同期率が高かった被験者は、実験から6カ月後の時点で意識レベルが回復していたそうです。


Madsen氏は、「私たちの研究結果では、一部の実験で使われたのが感情的な表現がほとんどない教育ビデオだったにもかかわらず、人々の間で心拍数が統計的に意味のある形で同期したのは驚くべきことです」「人々の心拍数はそれが聴覚的な物語であろうと有益なビデオであろうと、物語にどれだけ注意を払っているかで調整されます。基本的に、物語に注意を払っている人の心拍数は同じく注意を払っている人と同様に変化しますが、人々が何らかの理由で気を散らしている場合、心拍数の変化は他の人に追随しません」と述べています。

また、研究チームは今回の研究結果を基にして、心拍数の測定が患者の意識状態を評価する簡易な方法になるかもしれないと主張しています。脳波やMRIによる意識状態のチェックは大がかりな機器を必要としますが、心拍数を測定するだけなら小さなクリニックや救急車の中、さらにはスマートウォッチでも可能です。しかし、このモデルを検証するには、心拍数と脳に関してさらなる研究が必要だとのこと。

「私たちは現在、人々が世界と関わる時に測定可能なその他のシグナルと共に、心臓が重要な役割を果たす心と体のつながりをさらに調査しています」とMadsen氏は述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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